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第五章:営業活動
第45話:ポスターづくり
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ノエルさんとエマの協力もあり、販売促進用の良い写真が撮れると、私はすぐにパソコンで編集作業を始めた。
被写体が綺麗なだけに、あまり大きな調整は必要がない。写真の明るさを変えたり、ポスター用に縁取りしたりして、ベース部分を作成していく。
パソコン作業は面倒なことが多いものの、商品の売り上げに関与する大事な部分なので、ノエルさんに丸投げするわけにはいかない。
経営の相談事やお手伝いをしてもらっても、肝心なところは自分がやらなければならないと思っていた。
その代わり、ノエルさんに洗濯と部屋の掃除を任せている。
異世界とは違い、洗剤で綺麗に汚れが落ちるだけでなく、柔軟剤でふんわりと仕上がるため、とても気持ちがいいみたいだ。
掃除機であっという間にゴミも吸い込むこともあり、日常生活を楽しく過ごしながら、家事をしているような印象を受ける。
なんといっても――、
「水魔法で服を洗うのはわかるわ。でも、風魔法を応用してゴミを吸い取るなんて、着眼点がすごいわね」
と、電化製品に興味を抱き始めていた。
私もノエルさんの言葉を聞いて、異世界人の着眼点がすごいと思っている。
まさか電化製品の機能と魔法をリンクさせるとは思わなかった。
日本の知識が深まり、新しい発見が楽しそうだから、日常生活でも些細なことを体験してもらった方がいいのかもしれない。
ただ、ノエルさんの負担が増え続けるのはよろしくないので、エマにも洗濯物を干すようにお願いしている。
みんなで仕事も家事も分担することで、精神的にも肉体的にも負担が減り、気楽に過ごせるようになっていた。
これによって、休日に異世界で遊べる元気を残せることが、私は一番嬉しい。
充実した日々を過ごし、心がリフレッシュできるだけで、今まで以上に仕事を頑張ろうという気持ちが芽生えている。
その気持ちがエマにも伝わっているのか、ポスターに使うキャッチコピーを一緒に考えてくれた。
「デカ小豆のどら焼きが、新商品であることは伝えたいんだよね」
「じゃあ、大人のどら焼きの文字を入れよう」
「でも、売れ筋の和菓子を押し出したくもあるんだよ」
「じゃあ『和』の文字を入れよう」
「どんな味か伝えた方がいいかな」
「大人のどら焼きで伝わると思う」
異世界に行った時のようなサバサバモードのエマは、要点をまとめてくれるので、キャッチコピーが考えやすい。商品の行方を左右するだけに、いつも何日もかけて決めるはずが、今回はすんなりと決まった。
キャッチコピーは『大人のどら焼きで和みませんか?』である。
正直、かなりシンプルすぎるとは思う。しかし、使う写真にインパクトがあるため、逆に落ち着いたキャッチコピーを起用することにした。
ただ、その影響を受けて、私はポスターに起用する画像に悩み始めてしまう。
「エマの差し出すどら焼きをセンターにすることは確定だけど、あまりアップにしすぎると、ノエルさんとエマが見切れちゃうなー。全体的に少し引き気味にして、周りの光景も見えるようにした方が、日常感を出せるし……」
一難去ってまた一難。結局、こうして時間だけが過ぎていき、頭を悩ませ続けていった。
そんなこんなで空いた時間にポスターの制作を作成しながら、仕事をする日々を一週間ほど過ごすと、ついにそのデータが完成する。
「よ、ようやくできた……」
微調整を重ねたポスターだけでなく、その画像を縮小して、パンフレットのデータも作ってみた。
これでいつも以上に宣伝がしやすくなるだろう。
「後はこれを印刷業者に発注して……」
キーボードをカタカタと打ち込み、それらを発注すると、シルフくんが覗き込んでくる。
「作業は終わったの?」
「うん、私にできることはもう終わりかな。今は他の人に仕事を依頼しているところだね」
ジッと待てないはずのシルフくんも、私の部屋で漫画を読みながら、大人しく過ごしてくれていた。
改めて、漫画は偉大な文化なんだと実感する。
シルフくん曰く。漫画の世界で冒険しているから、自分の中で動いているという認識になるんだそうだ。
気持ちがわかるだけに、漫画の世界から現実の世界に引き戻さないでおこうと、それを読んでいる時は話しかけないようにしていた。
ただ、さすがに一週間も引きこもっていた影響か、シルフくんはソワソワしている。
「ねえ、胡桃。異界ではBBQって珍しいことなの? 向こうの世界だと、野営で当たり前のようにやってる食事だと思うけど」
シルフくんが何気ない疑問を浮かべるのも、無理はない。日本でもキャンプが流行っていたり、夏はメジャーなイベントだったりするので、特別なことではないだろう。
しかし、山や海や川に行って、友達とBBQをする勇気がない私は違う。
インドア派にとっては、とんでもないほど高いハードルであり、自分には無縁のイベントだと思い込んでいたから。
でも、異世界という開放的な空間に行き来できるようになって、私は気持ちが変わり始めている。
誰にも見られることがない異世界という場所であれば、自分でもやってみたいと思っていた。
エマも野営の食事は良い思い出がなさそうだったし、今回のBBQで楽しい思い出に塗り替えてあげたい。
「シルフくんも楽しみにしてて。日本の調味料とか持ち込めば、絶対においしくなるから」
「ふっふーんっ。果たしてボクを満足させられるかな? 胡桃がそう言うなら、期待はしておくけどね」
ハードルが上がったと思いつつも、シルフくんの期待に応えるだけのことはやってみようと思う。
……まあ、BBQするの初めてなんだけどね!
被写体が綺麗なだけに、あまり大きな調整は必要がない。写真の明るさを変えたり、ポスター用に縁取りしたりして、ベース部分を作成していく。
パソコン作業は面倒なことが多いものの、商品の売り上げに関与する大事な部分なので、ノエルさんに丸投げするわけにはいかない。
経営の相談事やお手伝いをしてもらっても、肝心なところは自分がやらなければならないと思っていた。
その代わり、ノエルさんに洗濯と部屋の掃除を任せている。
異世界とは違い、洗剤で綺麗に汚れが落ちるだけでなく、柔軟剤でふんわりと仕上がるため、とても気持ちがいいみたいだ。
掃除機であっという間にゴミも吸い込むこともあり、日常生活を楽しく過ごしながら、家事をしているような印象を受ける。
なんといっても――、
「水魔法で服を洗うのはわかるわ。でも、風魔法を応用してゴミを吸い取るなんて、着眼点がすごいわね」
と、電化製品に興味を抱き始めていた。
私もノエルさんの言葉を聞いて、異世界人の着眼点がすごいと思っている。
まさか電化製品の機能と魔法をリンクさせるとは思わなかった。
日本の知識が深まり、新しい発見が楽しそうだから、日常生活でも些細なことを体験してもらった方がいいのかもしれない。
ただ、ノエルさんの負担が増え続けるのはよろしくないので、エマにも洗濯物を干すようにお願いしている。
みんなで仕事も家事も分担することで、精神的にも肉体的にも負担が減り、気楽に過ごせるようになっていた。
これによって、休日に異世界で遊べる元気を残せることが、私は一番嬉しい。
充実した日々を過ごし、心がリフレッシュできるだけで、今まで以上に仕事を頑張ろうという気持ちが芽生えている。
その気持ちがエマにも伝わっているのか、ポスターに使うキャッチコピーを一緒に考えてくれた。
「デカ小豆のどら焼きが、新商品であることは伝えたいんだよね」
「じゃあ、大人のどら焼きの文字を入れよう」
「でも、売れ筋の和菓子を押し出したくもあるんだよ」
「じゃあ『和』の文字を入れよう」
「どんな味か伝えた方がいいかな」
「大人のどら焼きで伝わると思う」
異世界に行った時のようなサバサバモードのエマは、要点をまとめてくれるので、キャッチコピーが考えやすい。商品の行方を左右するだけに、いつも何日もかけて決めるはずが、今回はすんなりと決まった。
キャッチコピーは『大人のどら焼きで和みませんか?』である。
正直、かなりシンプルすぎるとは思う。しかし、使う写真にインパクトがあるため、逆に落ち着いたキャッチコピーを起用することにした。
ただ、その影響を受けて、私はポスターに起用する画像に悩み始めてしまう。
「エマの差し出すどら焼きをセンターにすることは確定だけど、あまりアップにしすぎると、ノエルさんとエマが見切れちゃうなー。全体的に少し引き気味にして、周りの光景も見えるようにした方が、日常感を出せるし……」
一難去ってまた一難。結局、こうして時間だけが過ぎていき、頭を悩ませ続けていった。
そんなこんなで空いた時間にポスターの制作を作成しながら、仕事をする日々を一週間ほど過ごすと、ついにそのデータが完成する。
「よ、ようやくできた……」
微調整を重ねたポスターだけでなく、その画像を縮小して、パンフレットのデータも作ってみた。
これでいつも以上に宣伝がしやすくなるだろう。
「後はこれを印刷業者に発注して……」
キーボードをカタカタと打ち込み、それらを発注すると、シルフくんが覗き込んでくる。
「作業は終わったの?」
「うん、私にできることはもう終わりかな。今は他の人に仕事を依頼しているところだね」
ジッと待てないはずのシルフくんも、私の部屋で漫画を読みながら、大人しく過ごしてくれていた。
改めて、漫画は偉大な文化なんだと実感する。
シルフくん曰く。漫画の世界で冒険しているから、自分の中で動いているという認識になるんだそうだ。
気持ちがわかるだけに、漫画の世界から現実の世界に引き戻さないでおこうと、それを読んでいる時は話しかけないようにしていた。
ただ、さすがに一週間も引きこもっていた影響か、シルフくんはソワソワしている。
「ねえ、胡桃。異界ではBBQって珍しいことなの? 向こうの世界だと、野営で当たり前のようにやってる食事だと思うけど」
シルフくんが何気ない疑問を浮かべるのも、無理はない。日本でもキャンプが流行っていたり、夏はメジャーなイベントだったりするので、特別なことではないだろう。
しかし、山や海や川に行って、友達とBBQをする勇気がない私は違う。
インドア派にとっては、とんでもないほど高いハードルであり、自分には無縁のイベントだと思い込んでいたから。
でも、異世界という開放的な空間に行き来できるようになって、私は気持ちが変わり始めている。
誰にも見られることがない異世界という場所であれば、自分でもやってみたいと思っていた。
エマも野営の食事は良い思い出がなさそうだったし、今回のBBQで楽しい思い出に塗り替えてあげたい。
「シルフくんも楽しみにしてて。日本の調味料とか持ち込めば、絶対においしくなるから」
「ふっふーんっ。果たしてボクを満足させられるかな? 胡桃がそう言うなら、期待はしておくけどね」
ハードルが上がったと思いつつも、シルフくんの期待に応えるだけのことはやってみようと思う。
……まあ、BBQするの初めてなんだけどね!
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