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神様とはそういうもの

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 翌朝、嫁いでいく三重子を俺は田に出て見送った。
できることといえば雨が降らないように祈ることくらいで。
つましい行列は、それでも両親が嫁ぐ娘のために懸命に仕立てたものだったんだろう。

 村のものは、皆、祝福して見送った。
嫁いだ先は、やっぱり貧しい家で、だが相手の男は身体が弱い以外はいい奴だった。
三重子をとても大事にしてくれた。

 けれど結婚して二年ももたずに、男は病で亡くなった。
俺は、三重子が俺の村に戻ってくるものだと思っていた。
そうしたら、本当に嫁にするつもりだったんだ。

 ……だが、三重子は戻ってこなかった。
実家の両親と嫁ぎ先の家と、どちらもを支えて頑張っていた。
だからそれならと、俺は……俺がここの土地神になればいいと思ったんだ。
そしたら、戻ってこなくても俺が三重子のところに来てやれる。

 そう考えて、何度となくこの土地の神に縄張り争いを仕掛けた。
──勝てなかったけどな。





 話し終えて、氏康さんはぐいと杯をあおった。
私と松里さんは、揃って汐の方を見る。
汐は知らん顔でツマミのスルメを噛んでいたけど、私たちの視線に気づくと怪訝そうに眉を寄せた。

「……なんだ」

「こんな思いをして必死に立ち向かってきた犬に、ガンガンに猫パンチくらわせてたのね、アンタ」

「……ジ、ジャスティス」

「訳の分からん喧嘩を売られていた俺の立場も考えろ」

 汐は、ふんと肩をそびやかす。
たしかに汐自身には無関係だけど、少しくらい譲ってあげてよという気持ちにはなる。

「私……これからは夕食は三重子さんと一緒にしようかな」

「それただ夕飯たかりに行くだけになるでしょ、里ちゃんは」

「う……」

「三重子さんは料理上手だし、気遣い屋さんだもの。絶対に夕飯作ってくれることになっちゃうでしょ」

「そうなりますよね……」

 私はがくりと項垂れた。
松里さんの言う通りだ。
一人で食べる御飯じゃない方がいい、て思っても逆に気を使わせてしまうかもしれない。
そう思うと、安易に一緒しましょうとは言えないなあ。

「……三重子さん本人がどう思ってるかにもよるけどさ。結局、おひとり様が気楽でいいっていう人もいるし」

 たしかに、色んな感じ方があるものだし。
御飯は一人で食べるより、たくさんで食べる方がおいしいはず、ていうのも押し付けになるかもしれないよね。

 三重子さん自身が、そう望んでくれるなら私は日参してしまうけど。

「……でも、いいなあ。三重子さん」

 私が呟くと、神様たちはきょとんと私の方を見た。
三人……いや、三柱っていうんだっけ。
は、首を傾げている。

「今の話のどこに、うらやむポイントがあったの」

 松里さんが不思議そうに訊ねてくる。
そうかな。ポイントなかったかな。

「だって、氏康さんはその後ずっと、約束通りに三重子さんのこと見守ってきたんでしょう?」

「ほぼストーカーよね」

「……そ、そうとも言えるかもしれないけど」

 ああ、氏康さんがまた涙目になっている。
嫌がられてたらストーカーだけど、嫌がられてないなら大丈夫ですから。
安心して。

「ずっと見守ってもらってる……って。なんだか羨ましいなと思って」

 たとえそれで辛い時に助けてもらえないんだとしても。
なんとかして自力で立ち上がる一歩を、見ていてくれる存在があるって、すごく勇気づけられる気がする。

 私がそう言うと、神様たちは一様に目をそらした。
松里さんは畳の上を転がって悶絶してたけど。
照れくさすぎる、とかなんとかうめいていたけど。

「……神などと言っても、しょせん俺たちにできる事は、終局、見守ることだけだ。だから、それで勇気づけられると言ってもらえるなら。……冥利につきる」

 汐が静かにそう言って、氏康さんが小さく頷いていた。

 ──そうか。
私たち人間が感謝してそう思うことは、神様にとって嬉しい事なのかな。
ふわりと和んだ空気に、そう思う。

 帰り際、汐は氏康さんに三重子さんの様子を見に来るのは自由だから、と言っていた。
さすがに土地の事は一ミリも譲る気がないようだったけど。
梅雨の晴れ間、雲の陰からのぞいた月の下。
私は、猫と犬とオネエさんの影が帰っていくのを見送った。
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