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王都を駆ける弾丸

ダーク・ブラッド

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「……ダーク……」

 呼ばれて、俺は返事の代わりに姫さんの頭を撫でた。
無事か、姫さん。生きてる。
それだけで、もう何がどうでもいい気がした。

「ダーク……!」

 身を起こした姫さんが、俺の身体に手をかけて揺さぶろうとする。
だが、すぐに俺が呻いたのに気づいて手を離した。
泥とホコリと涙で汚れた白い頬に、乱れかかった髪をかきあげてやる。

「ダーク……!!どなたか、手当てを……!!」

 門衛や警護の者らしい姿が、恐る恐る俺たちに歩み寄る。

「姫様……!」

 今はぴったりと閉められてしまった門の外で、鉄柵を握りしめたドチビが叫ぶ。
姫さんは、投げ出されたショックでか、いつになく混乱しているようだった。
ドチビの声に応える余裕もない。

 ──そんなのは、あんたらしくないだろう。

「……平気だ」

「でも、ダーク……っ」

「あんた、ここに何しに来たんだよ」

「……」

 俺は自由になる左手を上げて、立ち塞がるように連なる尖塔の群れを指さした。

「行けよ。それがあんたの仕事だろう。エフィ」

「……!」

 呼吸を三回。
それだけで、姫さんは全てを飲み込んだ。
涙も、ここでただの人らしく振舞えない慟哭も、動揺も、すべてを。
歯を食いしばって、それらを腹に収めた姫さんは、ふらりと立ち上がる。
その背に負った重いものを、軽々と持ち上げて見せる。
うん。それでこそだ。

「……この者に、手当てを」

 言って、顔を上げる。
蒼い瞳に、もはや何の迷いも見られない。

「ウェストブルック侯爵家の息女、エフィメラ・リーザ・ド・ウェストブルック。
もとめに応じ、証人として参上いたしました。
……案内を」

 静かな迫力に押されてか、門衛の数人が報せに走る。
その後を、こちらへと案内に立ったものについて姫さんが歩きだす。

 俺は、そのうちの残った何人かに助け起こされる。
あんま動かすなよ。
肩が外れてんだから。
俺はそのままの姿勢で、姫さんの背中を見送った。
一度も、振り返らない背中を。

「と……とにかく、救護の者を呼んでいますので」

「……そうか。じゃ、ついでに手続きもしてくんねえかな」

「手続きですか……?」

 不測の事態に、おろおろとしている裁判所の職員。
手続きと言うと不思議そうに訊き返されて、俺は軽く笑った。
もう、満身創痍で動くのもめんどくさい。

「賞金首のダーク・ブラッドが出頭したってな」

 言うと、それでなくても騒がしかった周囲は騒然となった。
門の向こうにいるドチビが、唖然として俺を見る。
それへ手を振ってやろう。
もしかしなくても、これが最期になるかもしれないから。





「では、この件についても関与を認めるんですね」

 粗末な木の机。椅子。
昼間でも部屋の中が暗いのは、窓が小さいせいだ。
鉄格子の嵌まった小さな明り取りの窓からは、晴れた水色の空がのぞいている。
机を挟んで俺の向かい側に座っている男は、検事とかいう役職なんだそうだ。
俺の罪状についてを、いちいち調べているらしい。
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