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時計の針は無情に進む

人の家の事情はそれぞれ

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「足は捻挫だそうだが、年が年だからな。しばらくは歩くのに不自由するだろうって話だ。
ま、うちのドチビメイドが世話してるんで心配はねえだろ」

「……そうか」

 本当に、かなり心配していたようで、クソ騎士は大きく息をつく。
容体を聞いて、安心したようだ。
それから、少し表情を微妙なものにする。

「あの子……今朝見た、あれは……。
何者なんだ?とんでもない凄腕だったが」

あの子。ドチビのことか。
俺はへらりと笑って、グラスを呷った。

「うちの雇い主の懐刀ってやつさあ」

「すごいのを雇ってるな、あの……お嬢さん、は?」

「……」

 俺は、口端だけを吊り上げて見せて言葉は何も口にしなかった。
俺が姫さんと呼んでたり、ドチビが姫様と呼んでいるのは分かってるだろう。
だから、ただの金持ちのお嬢さんじゃねえのは理解してるだろうけど、一応は身分を伏せる。
ワケアリを追求するほど、野暮でもあるまい。

「仕事終わったんだろう?飲めよ」

 ぐいとグラスを差し出してやるが、メイナードは嫌そうに眉をひそめた。

「乗務している間は酒は禁じられていると言っただろう」

「俺の酒が飲めないってか」

「……おかしな絡み方をするな。わざとやってるだろう、お前」

 お前こそ、お客様にお前とかないわ。
思うが、なんだかもう腹が立たない。
いけすかねえ、が笑い話になりつつあった。

「にしても……お前ら騎士って、本当にゴールドマンと親しいんだな。
シルバーバレットに乗り続けて逃げ回っている悪党、なんて話。
聞くと見るとじゃ大違いだ」

「それこそ、見ればわかる話だろう。彼は紳士で我々にも礼儀正しく親切だ。
……お前と大違いだな」

「んだとお」

 お前、しれっと俺を貶すよな。
品行方正を謳われる王立騎士団とは思えない所業じゃねえか。
そう言ってやると、メイナードは横を向いて鼻の先で笑いやがった。
そして改めて俺の方を向く。

「失礼いたしました。客人。どうかお許しいただきたい」

「気持ち悪」

「俺も気持ち悪いわ。だからお前にあわせてやっとうとよ」

 どうだとばかりに慇懃に言われて、俺は砂を吐きそうになった。
メイナード自身も、どこか遠い目になって言う。
そして、訛る。

「訛りきっついわー。どこの田舎もんだよ、お前」

「お前が馴れ馴れしいから、口がすべるったい。
田舎も田舎。南のモラン地方の貧乏貴族の出だ」

「へえ……」

 それでも貴族出身ではあるのか。
さすが騎士。

「跡継ぎ問題とかねえの?お前ん家」

 ふと、さっき聞いたばかりの姫さんの家の事情を思い出して訊いてみる。
するとメイナードは、なにやら渋い顔をした。

「俺は三男坊なんでな。すでに兄貴が爵位を継いでるし、特に問題はない。
騎士団の勤めを終えたら、故郷に戻って、のんびり過ごそうとは思ってるが」

「そりゃまた、いい御身分で」

 俺の嫌味に、奴はふんと鼻で笑った。
気をきかせたバーテンダーが水のグラスを置いたのを、遠慮なく口に運ぶ。
飲める水……この大陸じゃ酒より高いんだがな。

「跡を継いだ兄貴は大変そうだけどな。領地経営は難しい。
小さな領土でも、色々と問題は起こるし」

「領地経営……って、何をやるんだ」
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