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四辻にいるのは死神
風の女神
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気に入ったのかよ、ばあさん。
どうでもいいけど、一人芝居やめろ。
そう思っていたら、グラスの脇に何かを置かれた。
なんだ、と手に取る。
手の中で細い鎖が、シャラとかすかな金属音を立てた。
ペンダントか。
ついている飾りは、『向かい風に立つディガン』だな。
白い翼を持つ女神で、風を操る。
俺達ガンナーの守り神だ。
狙いは外さないよう、弾には当たらないよう、風の守護を頼む。
意外に迷信深い奴が多いから、射撃手はこういった御守りのたぐいを一つは持っているもんだ。
俺は信心にはほど遠いんで、身につけたことはないが。
あの姫さんが置いて行ったんだろうけど――。
さて、夜道といい、御守りといい。
いったい、なんの謎かけだ。
◇
夕刻、事務所に戻るとボスが待ちかまえていた。
「ダーク。ブツの保管場所を変える。護衛についていけ」
行動自体は予想通りだったから驚かないが、護衛にいけと言われるのは想定外だ。
俺はたいてい、ボス自身の護衛のために残されるのが常だった。
「俺が護衛に出ていいんスか」
「あの女、夜に、この事務所にまた来ると使いを寄越しやがった。
その前にモノを運んじまえばいいんだ」
つまり、俺をどっちの場面でも使おうってことか。
相変わらず人使いが荒いな。
「どこに届けりゃいいんです?」
諦めて使われることにして訊ねる。
駅に、ほど近い隠し事務所のひとつをあげられ、俺は承知したと頷いた。
準備のために階下の店へ行こうとすると、階段の手前で戻っていたシドに呼び止められる。
「おい、モノの移動の護衛だって?」
「そのようだな。報酬は少しは増やしてくれるらしいぜ」
笑って言うと、シドは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「やめとけ、やめとけ。雑用じゃねえか。
お前がいくほどの仕事じゃないだろう。
腹痛だとでもいって、他の奴に押しつけちまえ」
「そうしても良かったんだが……」
俺は頭を掻いて、苦笑いする。
どうにも気になってるんだ。
――夜道に気をつけて。
あんな言葉が、引っかかってる。
こうなると、てめえの目で確かめないと気が済まないタチなんだよな。
怖いモノ見たさってやつかね。
そう言うと、シドはなんだか奇妙な表情をした。
ため息をひとつついて、俺は帰ると言って店を出ていっちまった。
どうもご機嫌斜めだったらしい。
何かあったのかね、と、いつにない態度に不審には思ったが。
出発するぞと呼ばれて、俺はすぐにそんなことは忘れちまった。
◇
完全に日が落ちた街は、暗い。
表通りの煌々と灯りの点った通りと、俺たちの通る裏通りとは比べものにならない。
細々と酒場の灯りが道に漏れてはいるが、それはわだかまった闇を払うには、あまりにも頼りない。
俺たちは、そんな闇に紛れて道を進んだ。
酒場の喧噪も、街の外の狼の遠吠えも、何もかもが遠い。
俺ともう二人の護衛に、荷物を運ぶ男。
四人は無言のまま、駅の方へと向かう道を急いでいた。
人気のない暗い四つ辻に差し掛かった時だ。
しんがりを歩いていた俺は、なぜだか足を止めた。
自分でも何故だかは分からない。
勘がいい、とよく言われるそんな感覚が、俺に何かしらせたのかもしれない。
「……!!」
一番前を歩いていた護衛の男が、つんのめるようにして倒れた。
同時に、ターンと高く銃声が響く。
どうでもいいけど、一人芝居やめろ。
そう思っていたら、グラスの脇に何かを置かれた。
なんだ、と手に取る。
手の中で細い鎖が、シャラとかすかな金属音を立てた。
ペンダントか。
ついている飾りは、『向かい風に立つディガン』だな。
白い翼を持つ女神で、風を操る。
俺達ガンナーの守り神だ。
狙いは外さないよう、弾には当たらないよう、風の守護を頼む。
意外に迷信深い奴が多いから、射撃手はこういった御守りのたぐいを一つは持っているもんだ。
俺は信心にはほど遠いんで、身につけたことはないが。
あの姫さんが置いて行ったんだろうけど――。
さて、夜道といい、御守りといい。
いったい、なんの謎かけだ。
◇
夕刻、事務所に戻るとボスが待ちかまえていた。
「ダーク。ブツの保管場所を変える。護衛についていけ」
行動自体は予想通りだったから驚かないが、護衛にいけと言われるのは想定外だ。
俺はたいてい、ボス自身の護衛のために残されるのが常だった。
「俺が護衛に出ていいんスか」
「あの女、夜に、この事務所にまた来ると使いを寄越しやがった。
その前にモノを運んじまえばいいんだ」
つまり、俺をどっちの場面でも使おうってことか。
相変わらず人使いが荒いな。
「どこに届けりゃいいんです?」
諦めて使われることにして訊ねる。
駅に、ほど近い隠し事務所のひとつをあげられ、俺は承知したと頷いた。
準備のために階下の店へ行こうとすると、階段の手前で戻っていたシドに呼び止められる。
「おい、モノの移動の護衛だって?」
「そのようだな。報酬は少しは増やしてくれるらしいぜ」
笑って言うと、シドは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「やめとけ、やめとけ。雑用じゃねえか。
お前がいくほどの仕事じゃないだろう。
腹痛だとでもいって、他の奴に押しつけちまえ」
「そうしても良かったんだが……」
俺は頭を掻いて、苦笑いする。
どうにも気になってるんだ。
――夜道に気をつけて。
あんな言葉が、引っかかってる。
こうなると、てめえの目で確かめないと気が済まないタチなんだよな。
怖いモノ見たさってやつかね。
そう言うと、シドはなんだか奇妙な表情をした。
ため息をひとつついて、俺は帰ると言って店を出ていっちまった。
どうもご機嫌斜めだったらしい。
何かあったのかね、と、いつにない態度に不審には思ったが。
出発するぞと呼ばれて、俺はすぐにそんなことは忘れちまった。
◇
完全に日が落ちた街は、暗い。
表通りの煌々と灯りの点った通りと、俺たちの通る裏通りとは比べものにならない。
細々と酒場の灯りが道に漏れてはいるが、それはわだかまった闇を払うには、あまりにも頼りない。
俺たちは、そんな闇に紛れて道を進んだ。
酒場の喧噪も、街の外の狼の遠吠えも、何もかもが遠い。
俺ともう二人の護衛に、荷物を運ぶ男。
四人は無言のまま、駅の方へと向かう道を急いでいた。
人気のない暗い四つ辻に差し掛かった時だ。
しんがりを歩いていた俺は、なぜだか足を止めた。
自分でも何故だかは分からない。
勘がいい、とよく言われるそんな感覚が、俺に何かしらせたのかもしれない。
「……!!」
一番前を歩いていた護衛の男が、つんのめるようにして倒れた。
同時に、ターンと高く銃声が響く。
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