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悪党との交渉
贅沢の極み
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もっとも、駅のそれは金持ちの専用で俺達には使えなかったが。
俺が素直に乗ると、背後で扉が閉まった。
軽い浮遊感のあと、チン、とまたあの音がして扉が開く。
その向こうには、さっきまでいた玄関ロビーとは、まったく違った光景があった。
白い廊下の先には、いかにも重たそうなつくりの扉がある。
先に立ったメイドの一人が、ドアを開けた。
……まったく、たいしたもんだ。
ドアの向こうには、お城かよっていうやはり豪華な部屋がある。
広々とした空間には、高そうな絵やら壷やらが飾られていて、やたらとふかふかした絨毯が一面に敷いてあった。
ソファやテーブルは、なんだかふにゃふにゃした形の脚で、いささか柔そうだ。
乗ったら壊れるんじゃねえか?
御伽噺みたいな部屋は、居心地が悪いなんてもんじゃなかった。
だが、ついさっきまで街ん中にいると違和感しかなかった姫さんは、ぴったりと合っている。
これが生まれ育ちの差ってやつかね。
考えながら身の置き所がなく、ぼんやりしていると、メイドが進み出て奥の別室をさし示した。
「お客人、こちらへどうぞ」
姫様は、すでにソファですっかり寛いでいらっしゃる。
俺の方をみて、にこりと微笑んだ。
「いってらっしゃいませ」
へいへい。風呂ね。
げんなりしつつも、メイドの後についていく。
「御着替えを用意して参りますので、中で湯をお使いください」
言うとメイドは馬鹿丁寧なお辞儀をして、控えらしい続き部屋へと行ってしまった。
中で湯をお使いくださいってこたあ、この部屋がシャワー室ってことか。
まあ三日ほどシャワーなんぞ浴びてなかったし、丁度いいか。
考えて何の気もなしにドアを開ける。
シャツを脱いで奥へ進むと、妙なものが見えた。
「……」
なんだ、こりゃ。
もうもうと立つ、湯気。
その湯気の向こうには広々としたタイル張りの空間と、なみなみと湯をたたえた水槽のようなものが見えた。
この大陸において、貴重きわまりない水を、こんなに大量に。
……貯水槽か何かか?
しかも、やたらと甘ったるい匂いがしやがる。
何の匂いだ。
それによく見りゃ、湯の上には何か赤い紙屑が浮いていた。
ひっ掴んで確かめると、紙屑じゃなくて花だ。
……薔薇か?
薔薇ってやつか、こりゃ。
貯水槽に花が浮かんでやがるってことか。
全く意味がわかんねえ。
シャワー室は、どこだ。
意味不明な事態に、俺はだんだんと腹が立ってきた。
なにが案内します、だ。
いらついたまま、ガンとさっきのドアを蹴りあける。
「……おい。シャワーどこだよ。見あたらねえよ」
抑えめに言ってやったのだが、メイド御一行は俺の姿にぎょっとしたように立ちすくんだ。
だが、姫さんは意外に落ち着いたものだった。
紅茶のカップを片手に、笑顔を崩さない。
「よ……浴槽をお使いください。シャワーではございません」
「よくそう?」
あの貯水槽のことか。
まぎらわしいな。
「浴槽にお入りになって、身体を洗うのが貴人の湯浴みの方法でございます」
「めんどくせえな」
シャワーで、ざっと流すだけじゃ駄目なのかよ。
俺はぶつぶつと文句を言いながら、浴室とやらに戻った。
背後でなにか騒がしかったが、気のせいだろう。
「姫様が……!姫様が目を開けたまま、気を失っていらっしゃいます……!」
器用な芸もってんな、姫さん。
貴族やめても、それで食っていけるんじゃねえか?
俺は浴室とやらに戻ると、さっさと残りの服を脱いだ。
ざぶざぶと贅沢に湯を使い、身体を洗う。
これだけで、五人一家くらいが一ヶ月ほど食っていけるんじゃないだろうか。
そのくらい、この世界では水は貴重品だ。
俺が素直に乗ると、背後で扉が閉まった。
軽い浮遊感のあと、チン、とまたあの音がして扉が開く。
その向こうには、さっきまでいた玄関ロビーとは、まったく違った光景があった。
白い廊下の先には、いかにも重たそうなつくりの扉がある。
先に立ったメイドの一人が、ドアを開けた。
……まったく、たいしたもんだ。
ドアの向こうには、お城かよっていうやはり豪華な部屋がある。
広々とした空間には、高そうな絵やら壷やらが飾られていて、やたらとふかふかした絨毯が一面に敷いてあった。
ソファやテーブルは、なんだかふにゃふにゃした形の脚で、いささか柔そうだ。
乗ったら壊れるんじゃねえか?
御伽噺みたいな部屋は、居心地が悪いなんてもんじゃなかった。
だが、ついさっきまで街ん中にいると違和感しかなかった姫さんは、ぴったりと合っている。
これが生まれ育ちの差ってやつかね。
考えながら身の置き所がなく、ぼんやりしていると、メイドが進み出て奥の別室をさし示した。
「お客人、こちらへどうぞ」
姫様は、すでにソファですっかり寛いでいらっしゃる。
俺の方をみて、にこりと微笑んだ。
「いってらっしゃいませ」
へいへい。風呂ね。
げんなりしつつも、メイドの後についていく。
「御着替えを用意して参りますので、中で湯をお使いください」
言うとメイドは馬鹿丁寧なお辞儀をして、控えらしい続き部屋へと行ってしまった。
中で湯をお使いくださいってこたあ、この部屋がシャワー室ってことか。
まあ三日ほどシャワーなんぞ浴びてなかったし、丁度いいか。
考えて何の気もなしにドアを開ける。
シャツを脱いで奥へ進むと、妙なものが見えた。
「……」
なんだ、こりゃ。
もうもうと立つ、湯気。
その湯気の向こうには広々としたタイル張りの空間と、なみなみと湯をたたえた水槽のようなものが見えた。
この大陸において、貴重きわまりない水を、こんなに大量に。
……貯水槽か何かか?
しかも、やたらと甘ったるい匂いがしやがる。
何の匂いだ。
それによく見りゃ、湯の上には何か赤い紙屑が浮いていた。
ひっ掴んで確かめると、紙屑じゃなくて花だ。
……薔薇か?
薔薇ってやつか、こりゃ。
貯水槽に花が浮かんでやがるってことか。
全く意味がわかんねえ。
シャワー室は、どこだ。
意味不明な事態に、俺はだんだんと腹が立ってきた。
なにが案内します、だ。
いらついたまま、ガンとさっきのドアを蹴りあける。
「……おい。シャワーどこだよ。見あたらねえよ」
抑えめに言ってやったのだが、メイド御一行は俺の姿にぎょっとしたように立ちすくんだ。
だが、姫さんは意外に落ち着いたものだった。
紅茶のカップを片手に、笑顔を崩さない。
「よ……浴槽をお使いください。シャワーではございません」
「よくそう?」
あの貯水槽のことか。
まぎらわしいな。
「浴槽にお入りになって、身体を洗うのが貴人の湯浴みの方法でございます」
「めんどくせえな」
シャワーで、ざっと流すだけじゃ駄目なのかよ。
俺はぶつぶつと文句を言いながら、浴室とやらに戻った。
背後でなにか騒がしかったが、気のせいだろう。
「姫様が……!姫様が目を開けたまま、気を失っていらっしゃいます……!」
器用な芸もってんな、姫さん。
貴族やめても、それで食っていけるんじゃねえか?
俺は浴室とやらに戻ると、さっさと残りの服を脱いだ。
ざぶざぶと贅沢に湯を使い、身体を洗う。
これだけで、五人一家くらいが一ヶ月ほど食っていけるんじゃないだろうか。
そのくらい、この世界では水は貴重品だ。
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