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第五話 過去 ①
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「私達が、一体何者か……って」
珈琲の入った白いカップを静かに置くマードック。その表情と、微かに響く食器音が、静寂と何とも言えない緊張感を際立たせる。
そして……
__ドンッ!!!!
「アンタァ! ざけんじゃないわよ、コッチが……コッチが聞きたいわぁ!!!!」
「へぇっ?」
「オンドレは何様のつもりぃ!! アタシャカスタネット! カスタネットに成っとるよ!! どぉーー落とし前つけてくれんだコラァ!!」
「ま、まてぇぇーー!! 口悪いのアンタじゃねぇか!! じゃなくて! 突っ込むトコ、そこかよ!!」
立ち上がり激怒するマードックの首へ、コアラの様にしがみつくかすみ。そして、カウンターから身を乗り出しマードックを制止させる伶次朗だが、マードックの怒りは収まる様子がない。
「爆風でワタシの体は行方不明、メディアじゃバラバラに成って死体も粉砕したとか、もしくは逃亡、爆破テロの主犯格とまで言われてるのよ。それに!!」
「マスター、ちょっと落ち着いて」
「それに、ワタシのオーケストラは解体、国際デビューを控えていた伶ちんは大怪我で、兄の金ちゃんは!!」
「マスタァァーー!!!!」
伶次朗が、かなりの大声を張り上げ、更に身を乗り出し、右手でマードックの肩を鷲掴み、制止させる。
伶次朗の表情は、怒り……悔やみ……苦しみに満ちていた。
制止され食い込む指先に気がつき、ハッと我に還るマードック。
かすみに一瞬目線を送るが、強く抱き付き、顔を埋めている。
「ごめんなさい……伶ちん、かすみっちも」
顔を埋めたまま、マードックの肩に食い込んだ伶次朗の指先に、そっと手を添えるかすみ。
抱きついた腕をマードックから外し、その席を立つ。
俯きながら伶次朗両名を、互いの席に宥めもどし、銀色の存在に視線を送るが、完全に怯えきっている。
ゆっくりと、その怯える銀色の存在に近づき、そっと肩を抱き寄せるかすみ。
「ごめんなさい。大声を出してしまって、アナタは何も悪くない……私達もまだ、アナタ達の存在が理解できていない」
「かす……」
声が掛けられない伶次朗。
言葉の先に、見え隠れする過去。
__五年前。
日本人指揮者として、フランスから国際デビューを果たすはずだった伶次朗。
当日、その本番前のリハーサルを終えた後の……悲劇だった。
高さ十メートル以上ある巨大なパイプオルガンの備えられた大ホールに、フルオーケストラ用にセッティング、配列された譜面台と椅子。そして雛壇上に君臨する大型打楽器群を指揮台から一人眺め、本番前の余韻に浸る伶次朗。
そんな時、誰もいない客席の方から声が掛かる。
振り向くとそこに、師匠マードックと伶次朗の兄、羽瀬川 金次朗。そしてその妻、かすみの姿があった。
先にマードックだけがステージに上がり、伶次朗に歩み寄り、肩を叩いて激励しているかにも見えたが、伶次朗に謝罪をしている。
涙を袖で拭いながら首を横に振り、その謝罪に答える伶次朗。そして振り返り、兄とかすみに歩み寄ろうとしたその時。
伶次朗、背面にある巨大なパイプオルガンから、濁った不協和音が大音量で響きだす。
何事かと、大音量を発するパイプオルガンに振り返ると、その目の前に立ち塞ぐ、マードックの巨大な背中。
『うがああああああぁぁ!!』
伶次朗を庇うマードックの悲痛な叫びと共に真っ白な閃光が走る。
その直後、壮絶な爆発音、爆風と熱風が、残骸破片と共に容赦無く、伶次朗達に襲いかかる。
左肩、左脚に激痛が走り……その痛みで叫び声を上げるが、その自分の叫び声が聞こえない。
生身で皮を剥ぎ取られるような熱さ……痛み……それさえも遠のいていく。
「やっと……会えたのに……かす……み」
珈琲の入った白いカップを静かに置くマードック。その表情と、微かに響く食器音が、静寂と何とも言えない緊張感を際立たせる。
そして……
__ドンッ!!!!
「アンタァ! ざけんじゃないわよ、コッチが……コッチが聞きたいわぁ!!!!」
「へぇっ?」
「オンドレは何様のつもりぃ!! アタシャカスタネット! カスタネットに成っとるよ!! どぉーー落とし前つけてくれんだコラァ!!」
「ま、まてぇぇーー!! 口悪いのアンタじゃねぇか!! じゃなくて! 突っ込むトコ、そこかよ!!」
立ち上がり激怒するマードックの首へ、コアラの様にしがみつくかすみ。そして、カウンターから身を乗り出しマードックを制止させる伶次朗だが、マードックの怒りは収まる様子がない。
「爆風でワタシの体は行方不明、メディアじゃバラバラに成って死体も粉砕したとか、もしくは逃亡、爆破テロの主犯格とまで言われてるのよ。それに!!」
「マスター、ちょっと落ち着いて」
「それに、ワタシのオーケストラは解体、国際デビューを控えていた伶ちんは大怪我で、兄の金ちゃんは!!」
「マスタァァーー!!!!」
伶次朗が、かなりの大声を張り上げ、更に身を乗り出し、右手でマードックの肩を鷲掴み、制止させる。
伶次朗の表情は、怒り……悔やみ……苦しみに満ちていた。
制止され食い込む指先に気がつき、ハッと我に還るマードック。
かすみに一瞬目線を送るが、強く抱き付き、顔を埋めている。
「ごめんなさい……伶ちん、かすみっちも」
顔を埋めたまま、マードックの肩に食い込んだ伶次朗の指先に、そっと手を添えるかすみ。
抱きついた腕をマードックから外し、その席を立つ。
俯きながら伶次朗両名を、互いの席に宥めもどし、銀色の存在に視線を送るが、完全に怯えきっている。
ゆっくりと、その怯える銀色の存在に近づき、そっと肩を抱き寄せるかすみ。
「ごめんなさい。大声を出してしまって、アナタは何も悪くない……私達もまだ、アナタ達の存在が理解できていない」
「かす……」
声が掛けられない伶次朗。
言葉の先に、見え隠れする過去。
__五年前。
日本人指揮者として、フランスから国際デビューを果たすはずだった伶次朗。
当日、その本番前のリハーサルを終えた後の……悲劇だった。
高さ十メートル以上ある巨大なパイプオルガンの備えられた大ホールに、フルオーケストラ用にセッティング、配列された譜面台と椅子。そして雛壇上に君臨する大型打楽器群を指揮台から一人眺め、本番前の余韻に浸る伶次朗。
そんな時、誰もいない客席の方から声が掛かる。
振り向くとそこに、師匠マードックと伶次朗の兄、羽瀬川 金次朗。そしてその妻、かすみの姿があった。
先にマードックだけがステージに上がり、伶次朗に歩み寄り、肩を叩いて激励しているかにも見えたが、伶次朗に謝罪をしている。
涙を袖で拭いながら首を横に振り、その謝罪に答える伶次朗。そして振り返り、兄とかすみに歩み寄ろうとしたその時。
伶次朗、背面にある巨大なパイプオルガンから、濁った不協和音が大音量で響きだす。
何事かと、大音量を発するパイプオルガンに振り返ると、その目の前に立ち塞ぐ、マードックの巨大な背中。
『うがああああああぁぁ!!』
伶次朗を庇うマードックの悲痛な叫びと共に真っ白な閃光が走る。
その直後、壮絶な爆発音、爆風と熱風が、残骸破片と共に容赦無く、伶次朗達に襲いかかる。
左肩、左脚に激痛が走り……その痛みで叫び声を上げるが、その自分の叫び声が聞こえない。
生身で皮を剥ぎ取られるような熱さ……痛み……それさえも遠のいていく。
「やっと……会えたのに……かす……み」
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