上 下
78 / 96
第12章 スイート・チャイルド・オー・マイン。

第8話 長かった4日間。

しおりを挟む
 遠くから、ピーピーピーと何かの複数のセンサー音が聞こえて来た。
 左右に振り替える曽根。

 
( ピーピーピー。 )

( ピーピーピー。 )

 
「あ!不味いっ!不味い!その対戦車トラップ止めろー、止めてくれー!」
 
 咄嗟に走る曽根。
 
 曽根たちが仕掛けた対戦車ミサイルのトラップがきよし・布村タンデムモービルを感知してロックオンしたのだった。

 旧型のトラップだった為、友軍、敵軍シグナルの登録が出来ないタイプだった。

 曽根は市街地に孤立していた4機のHARMOR(吉田の小隊)の港への攻撃に備えていたトラップを仕掛けていたのだった。

 きよしたちが港湾で、クッションになるトラックのコンテナの外で着陸する事は想定外だった。
 
 仕掛けた古いタイプの4台の内2台は曽根の部下が近くにいたため止める事が出来たが、残り2台は間に合わなかった。

 きよし・布村タンデムモービルを囲んでいる消防や自衛隊員たち。

 曽根が大声を上げて走ってくる。

 曽根の声が聞こえた隊員たちも他の隊員に声を掛けて一斉に逃げ始める。

 消防士もホースを投げ捨てて退避した。

 
「緊急退避ー!緊急退避ー!対戦車トラップがロックオンしているー!早くしろー!逃げろーっ!」

 
 きよし・布村タンデムモービルのコクピット内でも感知していた。

 

( 少尉、ロックオンされています。味方からロックオンされています。直ちに退避してください。少尉、恐らく港湾に仕掛けた対戦車ミサイルか、対HARMORミサイルです。本機より、ただちに退避して下さい。バーニア故障の為、ジャンプ移動が出来ません。脚部の駆動モーターも先ほどのランディングでエラーが出て歩行も出来ません。退避して下さい。 )



 キョロキョロする佐藤結衣。
 
「えー、エイモスさん。なんで?どこから?」
 
 すかさず、きよしが叫ぶ。
 
「エイモス!全員のカスケード解除!コクピット・シールド・バイザー、オープンッ!」


 
( コクピット・シールド・バイザー、オープンします。全員のカスケード硬化解除。 )


 
「ひゃ~着陸が成功したと思ったら、直ぐに退避って。」
 
 カスケード硬化が解けて、肩や首を回す少女たち。と、その時、コクピットを強烈な衝撃が襲った。
 

(( ドカン!ドカン! ))
 

 仕掛けられたトラップの対戦車ミサイルが2発が、きよし・布村タンデムモービルのランドセルに命中した。
 

(( うわ~! ))
 
(( きゃー!倒れるー! ))
 
(( うわ、うわ、うわ~。あれー。 ))

(( ドスンッ! ))
 

 よつん這いになって機能停止したきよし・布村タンデムモービルだった。


( きゃー! )

 
(( ドカドカ、ドカ、ドテッ! ))


 下を向くコクピット。

 カスケード硬化が解けていたため、きよしたち6人は正面のコクピットモニター画面まで落ちた。

 愛子が最初に声を上げる。
 
「イテテっ。みんなぁ大丈夫~?って、イテテって言ったけどぉ、アーマースーツ着てるから、何ともない。うん。何ともない。」
 
 お尻や肩をさする佐藤結衣。
 
「何ともない。ただ狭いだけ。」
 
 下からきよしのうなり声が聞こえる。


( う~、う~。 )


「あれ、パンダ隊長どこ?どこ?」
 
「痛たたた~!布村さん!布村さんよけて~!いたたたぁ~。」
 
「えっ、パンダ隊長?あ”ーごめんなさい!カスケード硬化して感じなかった。ごめんなさい、ごめんなさい。」
 
 きよしの顔面の上に乗る布村のお尻。

 びっくりしてお尻を避ける布村。

 衝撃で、一瞬硬化し固まるアーマースーツの下敷きになったきよしの顔。

 顔は素のままだったから、また右目の周りが赤く腫れている。

 
「イででー。もう、また右目。イッター。」

 
 佐藤と布村が慌ててきよしの患部を見る。
 
「隊長ごめんなさい。見せて、あらら赤く腫れてる。」
 
「布村さんのお尻、石みたく硬かった。アーマースーツの凄さが解った。けど痛い。」
 
「ちょっと待って。パンダ青タン、冷やすよ。よいしょ、よいしょ。……開けるよ!」
 
 コクピットの床の上に登って冷蔵庫を開ける結衣。冷蔵庫のドアを開けると冷やしていたレーションの紙ジュースやら食料やらが降って来た。
 
「あ“~!ごめん!ごめん~!みんな拾って~ごめ~ん!」
 
 少女たちが床になったモニターの上にレーションの食料やジュースを並べる。

 コクピットに引っかかってた缶ジュースが落ちて来て、きよしの患部に当たる。
 

( ゴンっ!)
 

「イッター!」
 

 布村が慌ててきよしの顔をさする。

 降りて来た結衣がきよしの右目に冷たい紙ジュースを急いで充てた。

 そして、結衣がヘッドギアの正面ガラスと開けて、上を向いて聞いた。
 
「エイモスさん。今、どんな事になっているんですか?」
 
 その時、

 
( ジリジリッ、ピカッ! )


 布村のヘッドギアに小さな稲光がしてガラス面が閉まった。と思ったら、コクピットの電源が落ち、真っ暗になるコクピット。

 すぐに非常灯のオレンジ灯が付いた。
 
「あらっあらら。」
 
 キョロキョロ周りを見る少女たち。布村がヘッドギアの正面ガラスを開ける。
 
「この機体もう駄目だから、ヘッドギアに戻ってきたんだって。パンダ隊長?エイモスさんが、もう一つのヘッドギア被ってって。」
 
 右目をさすってから予備のヘッドギアを被るきよし。すぐに内部の電源がついて、話を始めた。

 恐らく現状の詳細を聞いているのだろう。
 
 周りでは疲れが出始めたのか、少女たちはボンヤリし始めた。

 鈴木絵里と中村・スーザン・幸子は体育座りにして、顔をうずめてスースー寝始めた。
 
 きよしがヘッドギアの正面ガラスを開けて話した。
 
「結局、このHARMORの機体。味方のミサイルで稼働停止、復旧不可能なので元のヘッドギアに戻って来たみたい。放射能漏れがあるみたいだから。コクピットのシステムに居たのでは、放射線でメモリーがリセットされる危険もあるみたいで。直前の状態では自衛隊や日本国軍の兵士が取り囲んでいたみたいだけど。とにかくジッとしているしかないわ。俺たち。」
 
「でもさ~、やっと私たちの4日間の戦争、終わったんだよね。」
 
 う~んっと、背伸びする布村。
 
「……うん、終わった。……やっと終わった。やっと。うっ。」
 
 少し、泣き顔になる結衣。
 
 結衣を見つめていた寺田も泣き始めた。佐藤結衣の(やっと終わった。)の言葉にはきよし、布村には重みがあった。

 AXIS兵にレイプされた少女たち。

 経験した者にしか解らない恐怖、憎しみや思いがあるのだろう。

 きよしと布村は、お互い目を見つめて、結衣や麗子の話を聞いていた。

 布村がきよしの右目を覗いて見て、ヘッドギアの正面から冷たい紙ジュースを差し込んで目を冷やした。
 
「あ、ありがとう。イチチチ~。」
 
 紙ジュースをうまくヘッドギアに固定するきよし。そしてまた、左太腿をさすっていた。
 
「私達、高校2年生なんだよね。修学旅行。まだ16歳なのに。まだ……。」
 
 寺田が涙を拭いて話始める。
 
「でもさ、よくテレビで少年兵の事とか、戦争で親を失った子供のCMとかあるでしょう。他人事に思ってたけどぉ。戦争なんてテレビや、ネットの世界の事だと、実感わかなかった。でも経験した。……わたしね結衣、イヤな思いもしたけど、きよしさんの戦う姿見て、敵をぶち殺したあの瞬間。感じてしまったの。あの2人の兵士の腹をぶち抜いたパンダ隊長を見て。生まれて初めて胸がスッキリする瞬間っていうのか。結衣?私、ド変態だよね。」
 
「いや、麗っ。私もスッキリした。私もよ。でも私の場合、その後、布村助けるために敵の兵士、サンキュウさんで(39式アサルト・ライフル)生まれて初めての狙撃。その時もスッキリした。私や、麗、ド変態かも。うふふっ。」
 
 その後、直ぐに2人の少女はやりきれない表情になった。

 その姿をみる布村ときよし。

 布村が何気なく結衣の指や、きよしの指を遊んだ。
 
 薄いオレンジ色のコクピットの中で独特な時間が流れていった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち
SF
 港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。  遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。  その第1次上陸先が苫小牧市だった。  これは、現実なのだ!  その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。  それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。  同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。  台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。  新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。  目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。  昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。  そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。  SF大河小説の前章譚、第4部作。  是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

「メジャー・インフラトン」序章5/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 JUMP! JUMP! JUMP! No2.

あおっち
SF
 海を埋め尽くすAXISの艦隊。 飽和攻撃が始まる台湾、金門県。  海岸の空を埋め尽くすAXISの巨大なロボ、HARMARの大群。 同時に始まる苫小牧市へ着上陸作戦。 苫小牧市を守るシーラス防衛軍。 そこで、先に上陸した砲撃部隊の砲弾が千歳市を襲った! SF大河小説の前章譚、第5部作。 是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

「メジャー・インフラトン」序章2/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節FIRE!FIRE!FIRE! No1. ) 

あおっち
SF
敵の帝国、AXISがいよいよ日本へ攻めて来たのだ。その島嶼攻撃、すなわち敵の第1次目標は対馬だった。  この序章2/7は主人公、椎葉きよしの少年時代の物語です。女子高校の修学旅行中にAXIS兵士に襲われる女子高生達。かろうじて逃げ出した少女が1人。そこで出会った少年、椎葉きよしと布村愛子、そして少女達との出会い。  パンダ隊長と少女達に名付けられたきよしの活躍はいかに!少女達の運命は!  ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。そして、初めての恋人ジェシカ。札幌、定山渓温泉に集まった対馬島嶼防衛戦で関係を持った家族との絆のストーリー。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

俺は異端児生活を楽しめているのか(日常からの脱出)

SF
学園ラブコメ?異端児の物語です。書くの初めてですが頑張って書いていきます。SFとラブコメが混ざった感じの小説になっております。 主人公☆は人の気持ちが分かり、青春出来ない体質になってしまった、 それを治すために色々な人が関わって異能に目覚めたり青春を出来るのか?が醍醐味な小説です。

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

怪獣特殊処理班ミナモト

kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。

スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜

柚亜紫翼
SF
真っ暗な宇宙を一人で旅するシエルさんはお父さんの遺してくれた小型宇宙船に乗ってハンターというお仕事をして暮らしています。 ステーションに住んでいるお友達のリンちゃんとの遠距離通話を楽しみにしている長命種の145歳、趣味は読書、夢は自然豊かな惑星で市民権とお家を手に入れのんびり暮らす事!。 「宇宙船にずっと引きこもっていたいけど、僕の船はボロボロ、修理代や食費、お薬代・・・生きる為にはお金が要るの、だから・・・嫌だけど、怖いけど、人と関わってお仕事をして・・・今日もお金を稼がなきゃ・・・」 これは「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に投稿している「〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜」の元になったお話のリメイクです、なので内容や登場人物が「リーゼロッテさん」とよく似ています。 時々鬱展開やスプラッタな要素が混ざりますが、シエルさんが優雅な引きこもり生活を夢見てのんびりまったり宇宙を旅するお話です。 遥か昔に書いたオリジナルを元にリメイクし、新しい要素を混ぜて最初から書き直していますので宇宙版の「リーゼロッテさん」として楽しんでもらえたら嬉しいです。 〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜 https://www.alphapolis.co.jp/novel/652357507/282796475

処理中です...