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第9章 2つの祖国。

第5話 新しい友達と3人のお兄ちゃん。

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 宴もたけなわの定山渓ホテル大宴会場。
 
 宴会場に続く廊下から笑い声が聞こえてくる。

 その廊下を着物を着たスタッフが忙しそうに歩き回っていた。
 
「はい、女将。熱燗で~す。はい!おまちどぅ様ぁ、お願いします。」
 
「はい、ありがとう。」
 
 女将の布村恵子ママが、宴会場横の調理室から杉の木で丁寧に彫刻されたお盆の上へ、熱燗が入った徳利5本と沢山のお猪口を上品に乗せて運んで来た。

 宴会場の障子の手前に置いてしゃがみ、裾を押さえて、左手でゆっくり障子を空けた。

 開けると同時に三つ指で座礼をする。
 スッと通り、また裾を押さえて障子を閉めた。

 流れるような一連の無駄のない動作。

 そして、ニコニコと立ち上がりそのまま、スッスッスッと歩いて行き、宴会列の先頭にしゃがんだ。

 先頭の御舩を囲んで椎葉きよしと小林、ルオ、ジェシカ、ジュリア、リリアナの6人が楽しそうに歓談している。お酒をたしなんだジュリアとリリアナは首から上が真っ赤になっていた。
 
「さ、さ、皆様。熱燗はいかがですか。」
 
「そうだ、3人とも飲んだらいい。日本酒の熱燗だ。女将お猪口、3人に配って。はははっ。」
 
 お猪口を3人の白人女性に配る布村恵子ママ。
 
「閣下の奥様もいかが?」
 
 チロッと御舩を見る美しいウクライナ夫人のアナスタシア。
 
「おっ、アンも飲んだらいい。」
 
「じゃ、パパ、頂きますわね。ふふっ。」
 
 御舩から言われて、アナスタシアも女将から新しいお猪口をもらった。
 そのアナスタシアが、奥でジェシカの妹のルーシーや5人の少女たちと歓談しているゾフィアやヴィクトリアを手で招いた。
 しかし、(今はいいです。)と手を振られ断られた。
 了解!と手を上げるアナスタシア。
 
 実はゾフィアとビクトリアは、朝一番、新宿のアナスタシアの自宅で先に寄ってから一緒に来ていたのだった。
 米軍横田基地より、お昼位からゾフィアとヴィクトリアの操縦するオスプレイ2で自衛隊の真駒内駐屯地まで飛んできたのだ。
 アナスタシアと娘のキャッシー、田中の家族、吉田夫婦と横田基地で合流して、北海道まで飛んで来たのだ。
 何を隠そう、実はアナスタシアも防大のOGでソフィアとヴィクトリアの先輩だったのだ。
 そのアナスタシアに酒をすすめる優しい旦那さんの御舩だった。
 
「この酒、うまいぞ!飲んだらいい。ちょっと待って。女将、わたしがお酌します。」
 
 スッと立ち上がり、ジェシカ達3人と自分の妻にお酌する御舩だった。
 
「あ、ありがとうございます。」
 
「え、あ、ありがとうございます。」
 
「はい、すみません。ありがとうございます。」
 
 ニッコリ妻を見てお酌する御舩。
 
「はい、もうパパ。ありがとう。じゃーパパも。こっちに座って。」
 
「ハイハイ、ちょっと待ってよ、よいっしょっと。きよしたちはコーラか。」
 
 きよし、小林、ルオに気を使う御舩だった。
 
「はい閣下、持参です。」
 
「そうか、そうか!じゃ~この6人の武運長久を祈って、乾杯!」

(( 乾杯! ))

 日本人の様に、上品にお猪口に口を付ける4人の美女。
 口を開けてリリアナの飲む姿を見るルオ。
 
「あ~美味しい!何~!このお酒。フルーティー。」
 
 リリアナが目を丸くしてお猪口を見る。また、布村恵子ママがリリアナにお酌する。
 
「あ~!え~美味しい。凄い!凄い!美味しい!めっちゃヤバイ。ヤバイ!っ旨っ!」
 
 感激するジュリア。
 
「ん~!素晴らしい!美味しい~。めっちゃ美味しい!凄いフルーティ!」
 
 ジェシカも感激している。
 
「パパッ、パパッ!パパも飲んで!」
 
 この熱燗は欧米人の味覚に合うのかもしれなかった。アナスタシアが御舩に言う。
 
「ははっ、俺がホテルの売店で売ってたから、さっき、えびちゃん(女将)に頼んだんだ。アナ、美味しいだろう。」
 
 リリアナが女将に尋ねる。
 
「ご飯の時の日本酒と違いますね。味が違います。」
 
 ニコニコして布村恵子ママが答える。
 
「お食事の時は、海鮮お料理や味の濃い物が多かったので、旭川の吟醸辛口、大吟醸の大国士無双でしたの。召し上がる、お料理の味を引き立たせる為ですわ。今、皆様がお飲みの熱燗は小樽の大吟醸、慶福宝光です。洋梨の様な風味です。お冷でも美味しいですわよ。お冷でお飲みになりますか?」

( ハイ!お願いします! )
 
 即座に手を上げる4人。アナスタシアは横目で御舩を見て照れた。そんな妻を見て、機嫌よく笑う御舩。
 
「はい、お持ちします。お待ちくださいね。」
 
 空善を持って横を歩いていた工藤主任に目で合図するママ。それにさりげなく答える主任。
 
「はい、お冷ですね。お待ちください。」
 
 軽く挨拶してお淑やかに歩いて行くスタッフの工藤主任だった。
 
「ハハハッ!今日は何回、乾杯してるんだろうか!ハハハ!ん?繁は、繁も!」
 
 きよしの父、繁はみんなの歓談を見て、お猪口を口を付けてニコニコしていた。御舩は妻のアナスタシアに徳利を渡した。
 
「ハイ、椎葉師範。どうぞ。」
 
「あ~アンちゃん、すみません。お、おっとっと。」
 
 グイっと一口で飲む椎葉繁。
 続けてお酌するアナスタシア。
 アナスタシアも防衛大学校で新格闘の勲等を受けた元門下生の一人なのだ。
 
 繁の横で、繁をツンツンと突っつく京子。
 
「おっ。」
 
「お父さん、私も~、一口貰うわ。」
 
 お酒を催促する京子。
 
「おっ、そうか。」
 
 一口で飲んだ繁は、お猪口のしずくを盆の上で下に振ってお猪口を京子に渡した。アナスタシアから徳利をもらい京子にお酌をする繁。
 京子も相伴した。
 
「ん、ん。あらまぁ上品で甘い。ん~それでいて後味さっぱり。リリアナのいう通りフルーティ。美味しいわ。このお酒、ね。リリィ!」
 
「ハイ!京子ママ、そうですよね。ハイ!」
 
 徳利を持って京子の正面に座るリリアナ。
 2杯目のお酌をした。
 今度はリリアナにお酌する京子。
 
「はい!リリィ、乾杯。」
 
「はい!京子ママ、乾杯!」
 
 ニコニコと飲むリリアナと京子だった。
 そんな大人の集団から静かに黙って撤退する小林ヲタ小隊の3人。
 
 小林が、自分の座椅子に座って残った料理を食べ始める。きよしも小林とルオを見て、残った茶碗蒸しを食べ始めた。ルオはニコニコときよしの隣のジェシカの座椅子に座って、勝手にジェシカの料理を食べ始めた。
 
「しっかし、俺たちの休暇が、すんごい事になったんだわさ。」
 
 小林が茶碗蒸しを持ったまま立ち上がり、きよしの正面に座る。茶碗蒸しを平らげて、きよしの盆に置いた。
 
「シーの去年の対馬攻防戦。色々さ、シーから聞いたけど、本当だったんだなぁって。なぁシー?シーの性格からして今ぁ、めっちゃ困ってんべ?んだべさ?」
 
 頭を掻きながら下を向いて、チロッと小林やルオを見るきよし。
 
「んださぁ。本当に。なんか2人ともゴメン。折角の休みぃ、潰れたべさ。」
 
 3人は宴会場を見渡した。
 集まって写真を撮り合っている5人の少女達やルーシー、ビクトリアやゾフィア。
 シーラス情報特務科の秘匿AS潜「スサノオ」の統合司令長官となった田中准将の家族と歓談するジョナサンと黄夫婦。そして少女達の家族達が一堂に集まって楽しく話をしていた。各々の人達が集まって酒盛りをして楽しんでいた。
 今度は3人が右後ろを見ると、楽しく話をしている父の繁と吉田夫婦や京子、麗子、オリエッタと女将やスタッフ達。ぐるっと左後ろを見ると、ジェシカ小隊と御舩ファミリーとオディアジィジが大笑いしていた。その楽しそうなジェシカの横顔を見て、ニコニコするきよし。きよしを見る小林とルオ。
 
「ジェシーも楽しんでる見たいだし。はははっ。これはこれでいいのかも。でも父ちゃんたちやジョナサン叔父さん達がいるから、なんかいつもの家の正月みたいでさ。はははっ。」
 
 ノンビリしているきよしを見て、何となく安心する親友の2人。
 
「あははっ。これで杉山師範やスーさん、オディア・ジジの弟さんのイギリスのさ、ジャック叔父さんとアイラ姉ちゃんとか。いつものノーラ叔母さん達がいて酒盛りしてたら、本当にシーの家の毎年恒例、正月明けの宴会だべや。」
 
「ほんと、僕が栗高に入学した、初めての椎葉家の正月、思い出すわさ。ふふっ。」
 
「はははっ。結局よ、俺たちは駒使いされてさ。今年もルオと三人で道場に畳引いてストーブ焚いて。んで買い物さ行ったべや。」
 
「そう、そう。ストーブ用意したわさ。」
 
「だべー!したっけさ、その内にさ、繁叔父さんの弟子とか、京子叔母さんや麗子叔母さん、オリエッタ叔母さんの友達、金髪の美人先生達も来てさ!道場に河岸替えてアハハハッ。結局30人位かな。あははっ。おばちゃん達女性陣、途中で椎葉温泉に行ってさ。あはは。親父たちはカラオケって。あはは。今日は挙句の果てにウチの親父や母さんもいるしさ。正月の挨拶に来たんだわ、みたいな。あははっ。まぁいつもジョナサン叔父さんとマーシャは、正月ゆっくり母屋で昼まで寝て遅れて来るけどさ。朝から麗子叔母さんがつまみとか手料理ば台所で作ってるみたいな……。あらぁ?今日、親父たちぃカラオケしねぇだべか?」
 
 首を伸ばして自分の両親を見る小林。

 未央と目があう父親の未来。小林がカラオケのマイクを持つ仕草をすると、周りを見渡した未来がバツバツバツッとバツの手をした。

 スマハンドを指差し、またバツバツとバツの手をした。その小林を見たきよしが、消極的に聞いた。
 
「今日、未央?カラオケは?ポーの師匠達も居るから嫌なんだけどぉ。疲れるし絶対、いじられるし。酒は入ったアイラ姉ちゃんのお父さんたちがいたら、もっとワヤだし。」
 
 チラッとゾフィアやヴィクトリアを見るきよし。
 
「な~はははっ。時間無いし初めての人達もいるからカラオケはしないらしい。珍しいけど。はははっ。シー、ビビるなって。」
 
 下を向いて、何気にニッコリするきよし。
 
「そうだわさ。女の子のパパ、ママ居るからカラオケなんかしないんだわさ。でも、今年の正月は特にお正月の倉庫当番なかったから、ウチのパパ(黄技術部長)やマァマも台湾つまみ持って来たんだわさ。今年はジェシーも居たんだわさ。まだ、きよしと付き合ってなかったけどさ。はははっ!」
 
「ルオ、細かい事ば、良く覚えてんべ。」
 
 チラッと下からルオをみるきよし。
 
「アイラ姉ちゃんと4人で栗山のスーパーに足りないお酒買ってさ。帰りは繁叔父さんの同級生、腹へー太郎の太田叔父さんも連れて来てさ。最後にローマン師匠も、リモートでポーランドは夜だからって家飲みで参加してさ。はははっホント。でも、もう毎年の事で慣れたんだわさ。はははっ。」
 
 小林が振り向くと、佐藤結衣の親夫婦、ジェシカの親夫婦、小林の両親が歓談していた。微妙な顔をしてから勝手にきよしの料理をつまんで食べる小林。

 その内、オディアがペタペタと歩いて来て、小林未央の胡坐の上に座った。手にハスカップのカップゼリーを持っていた。そのゼリーを小林の手の上に乗せた。
 
「オディ子、ゼリー食べる?」
 
「うん、はべる。未央ぉフタ取って。」
 
「あ~ハイハイ。スプーンは?」
 
 小林が胡坐の上にオディアを乗せたまま、スプーンを探して、左右に体をねじる。
 そして、バタバタとよつん這いで、這って来たマーシャがきよしの腕と脇腹の間を、むりっくり頭でねじ込んで胡坐の上に座ってミカンのゼリーをお膳の上に乗せた。
 
 この子達にとってはいつもの椎葉家での行動だった。それから、ルオの横に新しい友達のキャッシーがポツンと立った。手にはブドウのゼリーを持っていた。スプーンが無いのを気が付くルオ。
 
「ん?ちょっとキャッシーちゃんも、みんな、待って。スプーンを持ってくるんだわさ。」
 
 マメな大男のルオは足早にビニールに入った透明なプラスチックのスプーンを3つ持って来て、お兄ちゃん達に渡した。 

 ルオも長い脚で胡坐を組み、キャシーを座らせた。
 きよしや小林も、ルオもゼリーのビニールのフタをはがした。黙ってゼリーを食べ始める3人娘達。
 ニコニコする3人のお兄ちゃんたち。
 オディアの浴衣のよれを直す小林。
 マーシャのズボンの汚れを、濡れタオルでこすって取るきよし。
 キャッシーが食べるスピードで、ゼリーの端のビニールをゆっくりとってあげるルオ。
 
「はははっ。結局いつもの椎葉家の居間の風景か。はははっ。」
 
 ゼリーを食べるオディアを胡坐の上で乗せながら小林が笑いながら話した。
 
「まぁ、まぁいいんじゃない。オディ子も、マーシャも。新しい友達が増えたんだわさ。オディアもマーシャ、ちょっと前までは赤ちゃん、赤ちゃんだったのに。ホント、成長が早いんだわさ。はははっ。」
 
 ジェシカが、そんな3人男の様子を見ていて、なにげにリリアナやジュリアの脇つついた。

 そんな3人のお兄ちゃんたちを微笑ましく見るジェシカ小隊、3人の美人戦士だった。
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