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第4章 鹵獲、敵の機動モービル。

第6話 いざ、初陣!

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 パイロットのおでこを、9ミリNATO弾が撃ち抜いた。
 
 即死だった。
 
 体の動きを止めたまま、コクピットシールドの上から落下しかける敵パイロット。
 即座に奥のパイロット席から拳銃で構えたきよしが飛んで来て、パイロットと一緒に落ちそうになるヘッドギア(多目的装備ヘルメット)だけ取り上げた。
 
 そのまま地面に落ちる敵パイロット。

( ドサッ。 )
 
 きよしは敵のヘッドギアを、自分のモービルに接触させた。
 同時に敵HARMOR内の、全ての電源が落ちた。
 
( シュキィィーン……。 )

 真っ暗になる敵のコクピット内と機体のライト類。
 
 きよしはヘルメットと接触させたまま、愛子を見てニッコリ微笑んだ。
 すこしビビりが入って、苦笑いの布村。
 そして、エイモスが回答する。
 
( 現在、敵HARMOR、「壊撃ー3型」ハッキング・リセット中……。 )
 
 布村が後ろの少女たちと、見合わした。
 布村と目があった少女たちは順番にうなずいた。
 そして少女たちも、互いにうなずいた。

( ハッキング終了。再起動します。キィーン……。 )

( ガガガガッ、キュィ~ン。シュー、ブシューッ! )

 再起動する敵のHARMOR。
 
 室内外のライト類も同時につき始めた。
 敵HARMORに乗り込むきよし。
 きよしは上下に開いた、自機のコクピット・シールド・バイザーを下げながら、機体を布村たちが搭乗する003バートワンから離れた。
 
 こちら側の少女たちの搭乗しているコクピット・シールド・バイザーも、エイモスが閉じた。

「よっこらしょっと。」
 
 寝そべった上体を起こして、シートをまたいだまま、腕組みをする布村愛子。
 そこへきよしの声がコクピット全体に響いた。
 正面の画面には、ヘッドギアも被らずそのままのきよしが映っている。
 
「4人共、今、アーマー・アンダー・スーツの硬化解除をする。もう一度、両手をまっすぐ上げて両足踏ん張って。エイモスっ。硬化とカラーリング解除。」

( はい、椎葉少尉。ゲスト4名のカスケード硬化を解除します。 )
 
 アーマースーツのスーツの硬化が解ける。
 
「あ~微妙に、しんどかったぁ。あらら、手の血の気がない。」

 そこで佐藤結衣。観点が違った。
 
「な~んだ。フンッ!めっちゃ幸せだったのにぃ。わたし~だけっ!のきよしだったのに。もぅ。つまんない。」
 
 鈴木麗子と中村・スーザン・幸子がブチ切れる。
 
「結衣っ!バッカじゃないのっ。非常事態に!」
 
「ホントに結衣ったら。」
 
 対する布村は、正面の大画面に映るきよしから何か指示が出ているのか、腕を組んでうなずいている。
 布村がヘッドギアのガラスシールドを開けた。
 
「~ん、了解しました!ラジャ~です!パンダ隊長。さぁ4人共、しっかり両腕上げて踏ん張って。」
 
「はい、愛、オーケーよ。」
 
「じゃ、みんなスーツ、硬化するよ。エイモスさん、お願い。」
 
( 4名のアーマースーツ、硬化いたしました。 )
 
「オッ!オッ!愛、今回はしっかり固定できたよ。」
 
「了解。みんな?パンダ隊長は敵殲滅に行くよ。私たちはこのまま待機します。」

( 了解! )

 声を合わせて返事をする4人の少女だった。
 床から各少女達様に透明なモニターが出て来た。
 そして、少女達の正面にセットされた。
 
 佐藤結衣だけが何故かゲーム機のような操作レバーが出て来た。
 唇と尖らせて、特別な計らいを理解し、うなずく佐藤結衣。
 
 前面モニターがきよし画像から外の映像に切り替わる。
 真正面に立つきよしが乗る鹵獲した敵HARMOR「壊撃ー3型」の赤外線映像。
 そのきよしの乗ったHARMORが、横を向いてゆっくりしゃがみ込んだ。
 
 背中の四角いランドセルのラッパの口の様なバーニアに、オレンジ色の炎が噴射され始めた。
 布村や少女たちの乗ったタンデムモービルが後ずさりする。
 コクピット全体が大きく揺れ始め、少女たちにもゆっくり後ずさりするのが解った。

( ヒュィーン、ジジィージジィー、ドババババーッ! )

 オレンジ色の炎を噴射してジャンプするきよしの乗ったHARMOR。
 正面のモニターが地煙だらけになった。
 
「行ってらっしゃい。パンダ隊長……。」
 
 きよしが座っていたシートを見つめる結衣たち4人だった。

 きよしの背後を移すモニター。
 アッという間に地上のきよし・布村タンデムモービルが小さくなる。

( バババババーッ、シュキィーン……ズバババババーッ! )
 
 そのまま上空で、バーニア全開で加速するきよしHARMORの「壊撃ー3型」。
 上空800メートル程で、モービルの噴射が止まった。
 
( ズバババーキィーン、ゴンッ……。 )
 
 次第に自然落下に移っていく。
 
「エイモス、最後尾の敵から始末する。敵機動部隊のポジション確認する。アクティブ2発。打て。」
 
( パッシブ・アクティブ・ソナーを2回打ちます。 )

( ピーン、ポーン。 )
 
( ピーン、ポーン。 )

 潜水艦などによくあるパッシブ・アクティ・ソナー。
 
 アクティブ・ピンガーなどと言われる装備が、初期の頃のHARMORには備わっていた。
 昼間は大きく動きが遅い、この時代のロボットのHARMORは地上を走り回る車両や、対モービル兵器の大きな標的となり易い。
 軽量化を極限までしているので、装甲はどうしても普通戦車より薄かった。
 対戦車ライフルや、対戦車ミサイルで、すぐ破壊されたのだ。
 その為、本格的な地上機動部隊として混成部隊での進撃となると、どうしても夜間にせざるを得なかった。
 各HARMORには夜間に強い索敵の為の高性能の赤外線センサーやピンガーなどが装備されていた。
 
 しかし、ピンガーを打つと言う事は同時に敵に自分の存在を知らせる事にもなる。
 HARMOR同士の実機戦や、訓練演習で最も進んだ日本、アメリカの軍組織ではアクティブソナーで索敵(敵の居所を探る)するために、アクティブ・マーカー・ピンガーを打つなどとは最も危険な行為とされていた。
 
 今回は、盗んだ機体は、友軍のシグナルを出しているとはいえ、それを覚悟できよしは実戦でピンガーを打ったのだった。
 西側の常識では、逆にピンガーを友軍に打つ者はいない。
 敵と宣言するようなものだ。
 常識破りの椎葉きよしは、そのピンガーを、歩兵用の携行対空ミサイルが十分届く、それも低空で行ったのだ。
 しかし、南北朝鮮軍からは、なんらカウンター(反撃)攻撃用のロックオンや索敵レーダー波が一切なかった。
 
「ん?エイモス?敵部隊からカウンター(反撃)予測があるか。」
 
( こちらへ、敵からの照準ロックも電波照射等の索敵波が、一切ありません。敵は全く気が付いていないか、それとも日常的に、夜間訓練などで味方にピンガーを打って所在地を探る事があるのか。私にも不明です。 )

「ふ~ん。搭載AIから警告とか、あると思うけどぉ。反応がないとは。不思議な軍隊。」

 ( 全ての敵の索敵電波、および走査線は前方の日本国軍、自衛隊に向けられています。椎葉少尉が先ほど破壊した車両にレーダー監視用の指揮車両があったのかもしれません。とにかく解りません。あくまでもエイモス予測です。こちらに向けられているのは友軍の日本国軍と自衛隊のレーダー波だけです。 )

「ふ~ん……。なんだべねぇ。」
 
 すこし、呆れ気味にピンガーの反射映像で作られる各敵HARMORの3D映像で敵配置を見るきよし。
 
「まぁいいか。えーとぉ、成る程。敵のHARMOR42機か。エイモス?最後尾の敵部隊。後方20メートルで着地する。バーニア逆噴射準備。着陸態勢準備。白兵戦用意。アームおよびフット部、アクティブ・アーマーダンパー作動。前面に集中。」

( 着陸態勢の準備致します。バーニア制動噴射まで11秒。白兵戦用意いたします。アーマーダンパー作動、セット完了しました。 )

「エイモス。布村タンデムモービルは、僕の着陸した地点から50メートル後方で待機させて。着地後、倒した敵の武器、戦闘後使える物があれば、持てるだけ集めるように。」
 
( 了解。布村タンデムモービル、直ちに後方に待機させます。使用可能兵器のサンプリングをします。 )
 
 対馬市北部の地上では南北朝鮮軍と日本国軍・自衛隊の激しい撃ち合いが繰り広げられている。 
 残弾数が少ない日本国軍と自衛隊は、少しずつ押され対馬市の海岸港湾部に後退していた。
 彼らの、その後ろには2万人の一般市民がいるのだった。
 
 降下を始めたきよしHARMORの前面に広がる激しい夜間戦闘。
 手前の南北朝鮮軍からの40ミリ速射カノン砲や、20ミリ機関砲の射撃から光る無数の曳光ライン。
 それに対して、小さな光が小刻みに光る友軍エリア。
 極まれに対戦車対HARMOR砲やミサイルの発射の光が見られる程度であった。
 
 上空から見ると、対馬市の日本防衛エリア壊滅は、時間の問題に思われた。
 その映像を見て、少し焦るきよしだった。
 
( 6秒間、バーニア逆噴射いたします。 )
 
「了解。」


( ヒュィーン……ジジ、ジジィー。キィーンドババババーッ! )

 減速を開始した、敵から鹵獲したHARMORだった。
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