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第5章 マザーズ。

第3話 奥手のヲタ坊主。

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 ビールを飲みながら嬉しそうにきよしに話す黄。
 
「ふふふっ。しっかしよ、きよしとジェシカが付き合うなんてな。教え子と教官のラブストーリーだなぁ。きよしぃ、どの位になる。」
 
「えっ?」
 
「スミス中佐と付き合うようになってからさ。」
 
 口をモグモグさせながら天井を見て、指を数えるきよし。
 
「う~ん。確か今年の1月位からかぁ。一緒に2月の札幌の雪まつり行ったし。その前から付き合ってたし。未央の叔母さんの街頭演説、僕とジェシカで手伝いに行った帰り、雪まつり2人で見に行ったから。ん~つき合ってまだ3か月位?かなぁ。」
 
 きよしを見ながら、また黄。
 
「お前達がつき合うの知って、京子姉さんが整備室へ相談に来た時ビックリして、あ~冬だ、冬からだな。俺も驚いたけどさ。ね、京子姉さん。」
 
 ニコニコして、きよしに話す黄だった。
 
「えっ?なんですか?かぁちゃんに相談って?」
 
「アンタは特殊だから……、まぁその翌朝、とぉ翌日の夜……。ジェシカの母体検査するのさ。……そういう事。黄ちゃんに頼んで、アンタのカワサキ(34式乙型)とジェシカの乗るHARMORのメティス機(ファイティング・スー)にジェシカの母体のバイタル検査機入れたりとかさっ。」
 
 しゃべった後に、黙る母親の京子。
 それもそのハズだった。きよしはジャンプ血清のゼロ・スタータなのだ。
 日本も医療技術が発達した現在、夜、男女の何らかが終わった影響を、ネイジェア星域皇国との医療技術協定に基づき、きよしと彼女の相方の体の変化などを観察しなければならなかったのだ。すなわち、ゼロ・スターターベビーが誕生する前からの検査を言っていたのだ。
 受精前、受精中変化、受精後の変化を報告しなければならないのだ。
 別の意味で勘違いして、少し赤くなって八宝菜を食べるきよし。
 そして、ごまかすようにお代わりするきよし。
 
「八宝菜お代わり。未央たのぉ。」
 
「へいへい。」
 
 立ち上がり、小林がきよしの取り皿に八宝菜を盛り付ける。
 もうすでにジェシカと付き合い始めて3か月経つのに、彼女ジェシカの話はとたんに照れてしまうきよし。
 基本的に恋愛に元々うとい、お子ちゃまきよしだった。
 
「まぁええから、食え、食え。はははっ。」
 
 八宝菜を食べるきよしの耳タブをつまみながら話す、京子。
 
「アンタさ、ローマンがジェシカをさ、アイラの送別会に呼んで来てさ。その時からだもんなぁ。」
 
 下を向いて食べる息子を、下からのぞく母の京子。
 
「京子姉さん、そうなんですか。恋のキューピットはローマン大佐かぁ。へえ~。」
 きよしを下からのぞきながら得意に喋る母の京子。
 きよしの肩を叩いた。

( ペシッ。 )
 
「なに、かあちゃん。」
 
「そうよ!やるな、きよしっ!みたいな。」
 
「どっちから仕掛けたんだ?きょし。」
 
 ふふっと、鼻で笑ってから呆れて黄の質問に勝手に答える京子。
 
「黄ちゃん。ジェシカに決まってるじゃなぁい。この奥手なヲタ坊主。自分から言える訳ないじゃん。それまでフィギア集めて、コイツ普通の恋愛とか大丈夫かぁ?とか思ってたけどぉ、一丁子前に彼女作りやがって。はははっ。まぁ、ひと安心した母であった。ただし、色々面倒な事が増えたけどぉ。」
 
 と、オリエッタとリーリンを見る京子。
 もう、その問題止めて!と、小刻みに左右に顔を振るオリエッタとリーリンだった。
 オッ!と鼻の下を伸ばす京子。
 小林とルオが、今度は、自分達に振られないように、京子と目を合わせないように八宝菜を食べて始めた。気が付いた黄は、笑いながら、兵士3人を見て話しを変える。
 
「ふふふっ。ふぅー。だけど、お前達には、本当感心するわ。そのアイラちゃんの送別会から、この3か月、千歳シーラスワンがガラッと変わったな!なー未央ちゃん。きよしの恋愛だけじゃないぞ。オイ!はははっ、ルオもな。設備から大隊編成、装備編成。全てな。去年の対馬攻防戦の時は何も変化はなかったけどな。」
 
 夫の黄の腕をつかんで、否定するリーリン。
 
「何,言ってるのパパ。もう、影響大アリよ。対馬からもう大変よ。でも短期間だけだったからいいけど。」
 
「そう、あった。あった。対馬戦役以来なぜか、HARMOR部隊の縮小なんかも言われてたりしてな。それも世界中な。部品供給も一時止まって。その内、俺もお払い箱になって台湾に引き上げるのかぁとかな。な、リーリン。この家のローン、払い始めたばかりなのになぁ。ほんと焦った。」
 
「私も、正直、焦った。ははっ。」
 
 黄技術部長とリーリン博士が言うのは、この3か月で機動モービルの運用がガラッと大きく変わった事なのだった。
 通常、機動モービルのHARMORは、戦闘地区の前線投入などありえなかった。
 どちらかと言えば戦闘後のカバー、占領地区または居留地の護衛が多かった。
 周囲、周辺住民への威圧行動が主な目的だった。
 いや、それ位しか使えなかったのだ。
 島嶼奪回や島嶼防衛では、占領に使われた敵モービルなどは、対モービル対策をした地上部隊や航空部隊に対してほとんど無力だった。
 
 当時のHARMORは動きが鈍く対戦車ミサイルや携行歩兵兵器の、それこそ15メートルのタダの大きな的にしかならなかったのだ。
 
 しかし、良くも、悪くも軍の印象を大きく変えたのが椎葉きよしだった。
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