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第3章 チビっ子師範。
第2話 椎葉きよし。栗中、3年生。
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晩夏の北海道の大自然。
本州のような濃い緑ではない、優しい薄緑色の葉をつけた白樺の並木道が続く。
秋の風は陽が傾くと冷たい風に変わり、しだいに冬の匂いに変わる。
もう2~3週間もすると山々の高所では紅葉が始まるのだ。
その白樺の中を自転車を押しながら、黒の詰襟の制服を着た中学校の少年2人が歩いてくる。
白樺並木の緩い坂を楽しそうに話をしながら帰宅して来る椎葉きよしと友達の小林未央だった。
「シー、こんど一緒にさぁ、見に行くべや。な~!千歳の日本国軍予備役校、夜間の方だぁ。義務教育終わっていれば誰でも入れるべし。日曜日訓練は第2、第4の日曜日。でも月18万だってさ。機動課だったらタダでモービルに乗れるべし。腹へー太郎のバイトよりいいべや。なぁシー。キモいアニオタ2人で行くべ。これも繁おじさん~、あ!ごめんなさい、おじさんでなく、椎葉師範から聞いたんだからさ。シーも知ってるべさ。」
「来年からだべさ。今、9月で考えるの早くね?俺~来年、栗高受かるか解らないし。予備役校も受かるか解んない。俺、頭悪べ。自信ないべし。まだまだ畑の収穫手伝いしないとダメだべ。冬は暇だけど。いや、秋蒔き(小麦)のしょんべん蒔き(たい肥散布)あるかぁ。毎日、雪はねもあるし。かあちゃんは軍の仕事で普段は居ないし。ばあちゃん足悪くなったから、朝早くか、夜中は倉庫で父ちゃんと収穫した野菜。選別・段ボール詰めばぁ手伝うべ。勉強する時間ないっしょ。」
いつも、大きな決め事ではウジウジする椎葉きよしだった。
「なしてさ?でも俺の父ちゃんも議員特権で予備役校に入れたる!とか言ってんべあ。オメーら2人で入れってさ。」
「コバのオジさん町議員様なんだからさ、お坊ちゃまが高校入るってなると、普通は、札幌の北か南!とか函館のラサールとかの話になるべさ。普通の議員のお坊ちゃまならさ。お前すんげー勉強出来るんだし。なして俺と同じ地元の栗高さ、行くんのか解らん。栗高でも俺にはギリだ。マジ。バカだから。つていけるかもわからん。工業は、理系なんかもっと嫌だし。面倒臭せー。」
「お前は勉強、やる気だして、やったら出来るべや。英語だってもうペラペラだべ~。俺、英語ニ~ガ手。」
「だけど、英会話だけ。んでも教科書の英語、難しい。表現が回りくどいし、おかしいしょ。」
「俺はシーが羨ましい。早くロイヤルフォーススペーシィの広報誌、お前みたくスラスラ読める様になりたい。広報誌の方が教科書よりムズいべや。んで、うちの父さん普通じゃないの。お前、知ってんべ。」
「あははっ、未来オジさんな。町議員になってから余計なんか、おかしい。最近、なんでだべ?最近、コバの家に行くと、いちいち色々うるさいから行きたくないべさ。」
「そういう、だはんこくなって。あれでも俺の親なんだから。また家でかぁちゃんの鍋食うべや。これから、かぁちゃんの札幌市議会も暇になるべし。」
「ゴメン。でもコバ、軍隊の予備役の学校って、場所は千歳だべ?通学どうするの?バスで……」
後ろから車が砂利を踏む音が聞こえて来た。振り向くきよし達。
「あっ、誰か来た。」
車が通れるように自転車を端に寄せながら歩く2人の少年。
「おー、カッケー!ユーサス(アメリカ宙軍USASF)の汎用ビークルだべや~!キャディだ。アメリカ宙軍の上級士官しか乗れない奴だ!カッケー!スゲーッ!初めて本物見たべさ。スゲーッ!小型オービターみたいだべあ。」
感激する小林。
少年たちの後ろから、かすかなモーター音でゆっくり向かってくるアメリカ宙軍USASFマークが入った新型の4輪駆動キャディラックのSUV。
2人の前で止まり、スッと、窓が下りた。
「おーい、キー坊!未央ちゃん!もう壮行会始まってるべさ。早く行くべや!自転車押さないで、乗って漕げや!ハハハッ。」
30代後半の金髪白人男性が、普通に北海道弁できよしと車越しで会話する。
「ハァイ~、きよし~。未央ちゃん。」
きよしの母親の実妹、麗子・オースティンがきよし達に右奥の助手席から身を乗り出す。
「なんだ、ジョナサンおじさんたちか。いつものごっついハンビーじゃないから、誰が来たかと思った。なんでこれなの。いつから乗ってるの?」
自転車のハンドルを持ちながら、車をなでるように見るきよしたち。
「はははっ、俺じゃなく麗子が、千歳の加盟国軍の研究所で昇格したべさ。軍の命令だべ、これに乗ってけれってさ。オイ!それよりも遅刻だべ~、キー坊。走るべさ!」
「きよしぃ~、未央ちゃんも先に行ってるよ。ジャ!」
ニッコリと車の奥で手を振る麗子おばさん。
( ジャリジャリ、シュキィィィーン……。 )
ジャリを踏みながら上品なモーター音をかすかに立てて進むキャディラックSUV。
その後を急いで追いかける2人だった。
門の前ではキャディラックから麗子が先に降りて、チャイルドシートから子供(長女・真理亜)を抱きかかえながら先に道場へ入った。
キャディラックを奥の路沿いに止めるジョナサン・メイザー・オースティンUSASF(アメリカ宙軍)大尉。
車から降りて道場の門に差しかかると、2人の少年の自転車が通り過ぎる。
「キー坊!先に、道場に入ってるべさ。」
「了解~、おじさん~。」
ジョナサンに、道場からの笑い声が聞こえてきた。
「お~、やってるやってる!盛り上がってるんでないかい。」
ニコニコしながら道場の大きな玄関で靴を脱いで、下駄箱に靴を入れるオースティン。
きよしが赤ん坊の頃は、両親の椎葉繁や京子が仕事で宇宙に上がっていた為、祖父母に預かっていたが、春と秋の農繁期だけは、妹の麗子が千歳のアメリカ軍基地の自宅で預かっていた。
ジョナサンはアメリカ宙軍三沢基地のエースパイロットで実績があった。
その腕を買われ今は、数年前に出来た新たな軍事同盟の組織、(シラス加盟国軍・通称:シーラス)のエースパイロットとして米宙軍から千歳の第1宙域打撃群に派遣され勤務していた。
妻の麗子も基地研究所に働いていたため、アメリカ軍の合同託児所にきよしを長く預かった。
そのおかげできよしも自然に英語が身についたのかもしれなかった。
今は長女の真理亜・オースティンが産まれたが、きよしが赤ん坊の頃は自分の息子の様に目に入れても痛くない程、可愛がっていたジョナサン・M・オースティン夫婦だった。
逆に、きよしを預かる農繁期の春と秋を楽しみにしていた位だった。
道場の並びの母屋玄関が開いたままになっている。
玄関には木のお盆にピッチャーとコップ2つを用意して、きよしの祖母、椎葉奈美が、座ってきよし達を待っていた。
( キキーッ! )
と、自転車のブレーキの音。玄関から外をのぞく奈美ばあちゃん。
「ばあちゃん!ただ今~っ!もう始まってるんでしょ。」
「あ~キャーキャー言って騒いでるわ。居間に道着あるから着替えろ。未央ちゃんも。」
玄関に引っ込んでピッチャーに氷を入れキンキンに冷えた赤シソジュースをコップに注ぐ奈美ばあちゃん。
バタバタと玄関に入ってくる2人。きよしも、未央も玄関の中で立ったまま、ゴクゴクと喉を鳴らして、冷たい赤シソジュースを飲み干した。
「ほれ、お替り。」
ピッチャーで2人のコップに継ぎ足す奈美ばあちゃん。
玄関で孫たちを構っているおばあちゃん。
そんな中、母屋の廊下の奥から椎葉きよしの母親、京子が暑い、暑いと言って玄関に歩いてきた。
北海道の9月といえども、昼間はそれなりに暑かった。
「お帰り、きょし~、未央ちゃん~っ。居間に2人の道着、セットしてるから。今、オデ子の演武の展示中だから、慌てないでいいよ。はい!お母さん、母屋のお風呂も掃除終了したよ。次はジンギスカンの準備するわ。お母さん、これっ、私もシソジュースもらうわね。暑いっ。はぁ~。きよし、飲んだらコップ貸して。」
「うん。かあちゃん。オディの演武見ないの?アイラ姉ちゃんと、かぁちゃん。あんだけ一緒に練習したのに。はい、コップ。」
と、シソジュースを飲んだコップを渡して、母親に言うきよし。
「おばあちゃんがひざ悪いから、急いでお風呂の清掃してたのよ。だからオディアの展示。間に合わず。間に合わず~っ。逆に、いない方が甘えなくていいかもね。後でアイラに送るビデオ、撮ってるからゆっくり見るわさ。」
「解った。俺もビデオ一緒に見るわ。ばあちゃん、ごちそう様!」
靴を脱いで、奈美と京子の間を抜けて居間にドタバタと行くきよし。
小林も赤シソジュースを飲んだコップをお盆に置いてお辞儀をした。
( コンッ。 )
「ごちそう様です!」
いつも礼儀正しい小林。
玄関からきよしを追いかけて居間に入った。
奈美も、京子も玄関に腰を掛けた。きよしの飲んだコップに赤シソジュースを注ぐ京子。
タオルで汗を拭いながら飲み始める京子だった。
「ゴクッ、ゴクッ。ふぅ、あー生き返る。お母さん。晩御飯、道場のご家族と一緒に食べますか?」
「いや、あんたと一緒に、酒盛り係りをするわ。はははっ。沢山、人が居るから、あずましくないべさ。どうせ2次会あんだべさ。ジンギスカンおにぎりとか、酒のつまみで、ヌカ(糠)の漬物準備しておかないと。」
「じゃ、宴会終わってぇ後片付けしてから、麗子達、オディ子と外で何か食べに行きますか?2次会のお酒の準備と片付けは門下生がするって。」
「あーそうか、それいいな。さすが気が利くわ京子さん!はははっ。たまに腹へー太郎行くか。しばらく太田くんにも会ってないし。」
「あー!いいですね~っ!チャーメン食べたいです。はははっ。」
「じゃ、わたしは入れ歯に優しい天津丼だ。はははっ。」
親は親で仲の良い椎葉家族だった。
道場ではオディの格闘戦の展示も終盤だった。そこへ道着に着替えが終わったきよしと未央が道場に入って行った。きよしと小林が道場へ入ると、オディの展示で大賑わいだった。
( はい!オディアリーム・エダ・ウィルソン・シーバ門下生!格闘戦の展示でした。 )
大声でアナウンスするローマン・マズル師範。
「おっちゅ!」
オディアが最後の挨拶をした。
拍手喝采の道場。
「オディアちゃん可愛いい!」
「最高~オディアちゃん!」
「めんこいわ~、オディアちゃん~!」
しかし、当の本人は、なぜか落ち着きがない。
祖父のアルフレッドが慌てて膝を立てた。
うろちょろ周りをみるオディア。
「あっ、きよし。」
そこで、道場に入るきよしを見つけた。
その時すぐ、きよしの所にパタパタと走って行き、きよしに飛びついた。
オディを抱き上げる椎葉きよし。
きよしの頬にその、プクッとほっぺたをくっつけた。
「オシッコー!きよしオシッコー!」
きよしをギュッと抱きしめて必死のオディア。
(( わははっー! ))
と、道場が笑い声で湧き上がる。
「オディアちゃんありがとう!」
「ゆっくりオシッコしておいで!」
拍手の中、慌ててオディアを抱きかかえながらトイレに駆け込むきよしだった。
赤ん坊の頃からいつもきよしにピタピタくっついていたオディア。
夜の寝始めは毎日、京子の絵本読みで寝始めるオディアだった。
しかし朝方オシッコに起きると、トイレの後はわざわざ小さな体でよいしょ、よいしょっと、階段をよじ登って2階に寝るきよしの布団に潜り込んだ。
ピタッーと引っ付いてきよしと一緒に、起こされるまで寝るのが日課だった。
オディアはそのくらい、お兄ちゃん子だった。
子供ながら凄い展示を見て、引き気味の観客だったが、最後のオチで2歳の子供のあどけなさを見ることが出来、見学に来ていた家族もホッ!と安心したのだ。
その後も、門下生による演武、杉山師範の本格的な格闘戦の展示や、厳しい練習展示が披露された。
本州のような濃い緑ではない、優しい薄緑色の葉をつけた白樺の並木道が続く。
秋の風は陽が傾くと冷たい風に変わり、しだいに冬の匂いに変わる。
もう2~3週間もすると山々の高所では紅葉が始まるのだ。
その白樺の中を自転車を押しながら、黒の詰襟の制服を着た中学校の少年2人が歩いてくる。
白樺並木の緩い坂を楽しそうに話をしながら帰宅して来る椎葉きよしと友達の小林未央だった。
「シー、こんど一緒にさぁ、見に行くべや。な~!千歳の日本国軍予備役校、夜間の方だぁ。義務教育終わっていれば誰でも入れるべし。日曜日訓練は第2、第4の日曜日。でも月18万だってさ。機動課だったらタダでモービルに乗れるべし。腹へー太郎のバイトよりいいべや。なぁシー。キモいアニオタ2人で行くべ。これも繁おじさん~、あ!ごめんなさい、おじさんでなく、椎葉師範から聞いたんだからさ。シーも知ってるべさ。」
「来年からだべさ。今、9月で考えるの早くね?俺~来年、栗高受かるか解らないし。予備役校も受かるか解んない。俺、頭悪べ。自信ないべし。まだまだ畑の収穫手伝いしないとダメだべ。冬は暇だけど。いや、秋蒔き(小麦)のしょんべん蒔き(たい肥散布)あるかぁ。毎日、雪はねもあるし。かあちゃんは軍の仕事で普段は居ないし。ばあちゃん足悪くなったから、朝早くか、夜中は倉庫で父ちゃんと収穫した野菜。選別・段ボール詰めばぁ手伝うべ。勉強する時間ないっしょ。」
いつも、大きな決め事ではウジウジする椎葉きよしだった。
「なしてさ?でも俺の父ちゃんも議員特権で予備役校に入れたる!とか言ってんべあ。オメーら2人で入れってさ。」
「コバのオジさん町議員様なんだからさ、お坊ちゃまが高校入るってなると、普通は、札幌の北か南!とか函館のラサールとかの話になるべさ。普通の議員のお坊ちゃまならさ。お前すんげー勉強出来るんだし。なして俺と同じ地元の栗高さ、行くんのか解らん。栗高でも俺にはギリだ。マジ。バカだから。つていけるかもわからん。工業は、理系なんかもっと嫌だし。面倒臭せー。」
「お前は勉強、やる気だして、やったら出来るべや。英語だってもうペラペラだべ~。俺、英語ニ~ガ手。」
「だけど、英会話だけ。んでも教科書の英語、難しい。表現が回りくどいし、おかしいしょ。」
「俺はシーが羨ましい。早くロイヤルフォーススペーシィの広報誌、お前みたくスラスラ読める様になりたい。広報誌の方が教科書よりムズいべや。んで、うちの父さん普通じゃないの。お前、知ってんべ。」
「あははっ、未来オジさんな。町議員になってから余計なんか、おかしい。最近、なんでだべ?最近、コバの家に行くと、いちいち色々うるさいから行きたくないべさ。」
「そういう、だはんこくなって。あれでも俺の親なんだから。また家でかぁちゃんの鍋食うべや。これから、かぁちゃんの札幌市議会も暇になるべし。」
「ゴメン。でもコバ、軍隊の予備役の学校って、場所は千歳だべ?通学どうするの?バスで……」
後ろから車が砂利を踏む音が聞こえて来た。振り向くきよし達。
「あっ、誰か来た。」
車が通れるように自転車を端に寄せながら歩く2人の少年。
「おー、カッケー!ユーサス(アメリカ宙軍USASF)の汎用ビークルだべや~!キャディだ。アメリカ宙軍の上級士官しか乗れない奴だ!カッケー!スゲーッ!初めて本物見たべさ。スゲーッ!小型オービターみたいだべあ。」
感激する小林。
少年たちの後ろから、かすかなモーター音でゆっくり向かってくるアメリカ宙軍USASFマークが入った新型の4輪駆動キャディラックのSUV。
2人の前で止まり、スッと、窓が下りた。
「おーい、キー坊!未央ちゃん!もう壮行会始まってるべさ。早く行くべや!自転車押さないで、乗って漕げや!ハハハッ。」
30代後半の金髪白人男性が、普通に北海道弁できよしと車越しで会話する。
「ハァイ~、きよし~。未央ちゃん。」
きよしの母親の実妹、麗子・オースティンがきよし達に右奥の助手席から身を乗り出す。
「なんだ、ジョナサンおじさんたちか。いつものごっついハンビーじゃないから、誰が来たかと思った。なんでこれなの。いつから乗ってるの?」
自転車のハンドルを持ちながら、車をなでるように見るきよしたち。
「はははっ、俺じゃなく麗子が、千歳の加盟国軍の研究所で昇格したべさ。軍の命令だべ、これに乗ってけれってさ。オイ!それよりも遅刻だべ~、キー坊。走るべさ!」
「きよしぃ~、未央ちゃんも先に行ってるよ。ジャ!」
ニッコリと車の奥で手を振る麗子おばさん。
( ジャリジャリ、シュキィィィーン……。 )
ジャリを踏みながら上品なモーター音をかすかに立てて進むキャディラックSUV。
その後を急いで追いかける2人だった。
門の前ではキャディラックから麗子が先に降りて、チャイルドシートから子供(長女・真理亜)を抱きかかえながら先に道場へ入った。
キャディラックを奥の路沿いに止めるジョナサン・メイザー・オースティンUSASF(アメリカ宙軍)大尉。
車から降りて道場の門に差しかかると、2人の少年の自転車が通り過ぎる。
「キー坊!先に、道場に入ってるべさ。」
「了解~、おじさん~。」
ジョナサンに、道場からの笑い声が聞こえてきた。
「お~、やってるやってる!盛り上がってるんでないかい。」
ニコニコしながら道場の大きな玄関で靴を脱いで、下駄箱に靴を入れるオースティン。
きよしが赤ん坊の頃は、両親の椎葉繁や京子が仕事で宇宙に上がっていた為、祖父母に預かっていたが、春と秋の農繁期だけは、妹の麗子が千歳のアメリカ軍基地の自宅で預かっていた。
ジョナサンはアメリカ宙軍三沢基地のエースパイロットで実績があった。
その腕を買われ今は、数年前に出来た新たな軍事同盟の組織、(シラス加盟国軍・通称:シーラス)のエースパイロットとして米宙軍から千歳の第1宙域打撃群に派遣され勤務していた。
妻の麗子も基地研究所に働いていたため、アメリカ軍の合同託児所にきよしを長く預かった。
そのおかげできよしも自然に英語が身についたのかもしれなかった。
今は長女の真理亜・オースティンが産まれたが、きよしが赤ん坊の頃は自分の息子の様に目に入れても痛くない程、可愛がっていたジョナサン・M・オースティン夫婦だった。
逆に、きよしを預かる農繁期の春と秋を楽しみにしていた位だった。
道場の並びの母屋玄関が開いたままになっている。
玄関には木のお盆にピッチャーとコップ2つを用意して、きよしの祖母、椎葉奈美が、座ってきよし達を待っていた。
( キキーッ! )
と、自転車のブレーキの音。玄関から外をのぞく奈美ばあちゃん。
「ばあちゃん!ただ今~っ!もう始まってるんでしょ。」
「あ~キャーキャー言って騒いでるわ。居間に道着あるから着替えろ。未央ちゃんも。」
玄関に引っ込んでピッチャーに氷を入れキンキンに冷えた赤シソジュースをコップに注ぐ奈美ばあちゃん。
バタバタと玄関に入ってくる2人。きよしも、未央も玄関の中で立ったまま、ゴクゴクと喉を鳴らして、冷たい赤シソジュースを飲み干した。
「ほれ、お替り。」
ピッチャーで2人のコップに継ぎ足す奈美ばあちゃん。
玄関で孫たちを構っているおばあちゃん。
そんな中、母屋の廊下の奥から椎葉きよしの母親、京子が暑い、暑いと言って玄関に歩いてきた。
北海道の9月といえども、昼間はそれなりに暑かった。
「お帰り、きょし~、未央ちゃん~っ。居間に2人の道着、セットしてるから。今、オデ子の演武の展示中だから、慌てないでいいよ。はい!お母さん、母屋のお風呂も掃除終了したよ。次はジンギスカンの準備するわ。お母さん、これっ、私もシソジュースもらうわね。暑いっ。はぁ~。きよし、飲んだらコップ貸して。」
「うん。かあちゃん。オディの演武見ないの?アイラ姉ちゃんと、かぁちゃん。あんだけ一緒に練習したのに。はい、コップ。」
と、シソジュースを飲んだコップを渡して、母親に言うきよし。
「おばあちゃんがひざ悪いから、急いでお風呂の清掃してたのよ。だからオディアの展示。間に合わず。間に合わず~っ。逆に、いない方が甘えなくていいかもね。後でアイラに送るビデオ、撮ってるからゆっくり見るわさ。」
「解った。俺もビデオ一緒に見るわ。ばあちゃん、ごちそう様!」
靴を脱いで、奈美と京子の間を抜けて居間にドタバタと行くきよし。
小林も赤シソジュースを飲んだコップをお盆に置いてお辞儀をした。
( コンッ。 )
「ごちそう様です!」
いつも礼儀正しい小林。
玄関からきよしを追いかけて居間に入った。
奈美も、京子も玄関に腰を掛けた。きよしの飲んだコップに赤シソジュースを注ぐ京子。
タオルで汗を拭いながら飲み始める京子だった。
「ゴクッ、ゴクッ。ふぅ、あー生き返る。お母さん。晩御飯、道場のご家族と一緒に食べますか?」
「いや、あんたと一緒に、酒盛り係りをするわ。はははっ。沢山、人が居るから、あずましくないべさ。どうせ2次会あんだべさ。ジンギスカンおにぎりとか、酒のつまみで、ヌカ(糠)の漬物準備しておかないと。」
「じゃ、宴会終わってぇ後片付けしてから、麗子達、オディ子と外で何か食べに行きますか?2次会のお酒の準備と片付けは門下生がするって。」
「あーそうか、それいいな。さすが気が利くわ京子さん!はははっ。たまに腹へー太郎行くか。しばらく太田くんにも会ってないし。」
「あー!いいですね~っ!チャーメン食べたいです。はははっ。」
「じゃ、わたしは入れ歯に優しい天津丼だ。はははっ。」
親は親で仲の良い椎葉家族だった。
道場ではオディの格闘戦の展示も終盤だった。そこへ道着に着替えが終わったきよしと未央が道場に入って行った。きよしと小林が道場へ入ると、オディの展示で大賑わいだった。
( はい!オディアリーム・エダ・ウィルソン・シーバ門下生!格闘戦の展示でした。 )
大声でアナウンスするローマン・マズル師範。
「おっちゅ!」
オディアが最後の挨拶をした。
拍手喝采の道場。
「オディアちゃん可愛いい!」
「最高~オディアちゃん!」
「めんこいわ~、オディアちゃん~!」
しかし、当の本人は、なぜか落ち着きがない。
祖父のアルフレッドが慌てて膝を立てた。
うろちょろ周りをみるオディア。
「あっ、きよし。」
そこで、道場に入るきよしを見つけた。
その時すぐ、きよしの所にパタパタと走って行き、きよしに飛びついた。
オディを抱き上げる椎葉きよし。
きよしの頬にその、プクッとほっぺたをくっつけた。
「オシッコー!きよしオシッコー!」
きよしをギュッと抱きしめて必死のオディア。
(( わははっー! ))
と、道場が笑い声で湧き上がる。
「オディアちゃんありがとう!」
「ゆっくりオシッコしておいで!」
拍手の中、慌ててオディアを抱きかかえながらトイレに駆け込むきよしだった。
赤ん坊の頃からいつもきよしにピタピタくっついていたオディア。
夜の寝始めは毎日、京子の絵本読みで寝始めるオディアだった。
しかし朝方オシッコに起きると、トイレの後はわざわざ小さな体でよいしょ、よいしょっと、階段をよじ登って2階に寝るきよしの布団に潜り込んだ。
ピタッーと引っ付いてきよしと一緒に、起こされるまで寝るのが日課だった。
オディアはそのくらい、お兄ちゃん子だった。
子供ながら凄い展示を見て、引き気味の観客だったが、最後のオチで2歳の子供のあどけなさを見ることが出来、見学に来ていた家族もホッ!と安心したのだ。
その後も、門下生による演武、杉山師範の本格的な格闘戦の展示や、厳しい練習展示が披露された。
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疲れたあなたに贈る、SF物語です。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
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