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第2章 この親にして、このシゲル(椎葉繁)。

第3話 人質救出開始!

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 椎葉繁は、画面に浮かぶ人物を見るなり、苦笑いをした。
 
「なんだ、防大時代の制服、舩さんかぁ?俺っ?京子も?ん~若いころの麗ちゃん。ジョナサンと付き合い始めた頃かぁ?これは、もしかしたら若いころの和歌山の且来あっそ先生だべか?あ、んだ和歌山のお義父さんだべ。若い頃の写真だわ。おやじぃ、これ、ん~京子達の和歌山の父親の。(そうかぁ?そうだ、そうだ。これ、助けた頃の博士だべか。あらら。)んだか。あらら博士って和歌山のお義母さんも、なんでだべ。なんでウシハクルからこんな写真送ってくるんだべか。」
 
 3Dを見て、父の清春を見る。それを2回ほど繰り返して目をパチパチする繁。
 
「あれっ、なんでおやじ。これ、おやじの若いころのだろ?なんでおやじもいるんだべ。おやじの特戦隊の時だべさ。ん~あとは知らない人だぁ。あれっ、これがなんだべ。舩さんだけ赤枠になってる。ノラ?どう言う……あっ!あ、いかん!あ~成る程。あ~あ~、わかったわかった。」
 
 この3Dホログラムに映るメンバーの意味が解った繁。
 その繁をチラッと見てから、目を細めて再び凝視する父の清春。
 そして、その中のいかつい男を指差す。
 
「あん?これ~俺の父親だべ。んだわ。先代の清一郎だ。お前の爺様ぁの若いころの写真だ。これこれっ。(へー、ジッ様か!)そうだぁ、まだ三沢に住んでた時じゃないべか?(あ~ジ様、三沢の航空隊長だったけ?)そうだ。俺の父親の空自時代だぁ。しっかし、ようこんな古い写真。犯人持ってるなぁ。」
 
 指を差す清春。そして、同じく目を細めて笑う繁。
 
「ノラ?はははっこれはもしや、君たちの言う原始、あっ!いや、いや。いや、あの~保持……、ゴホン!え~と、御舩さんて、舩さんは。」
 
 焦って、こめかみをかく繁。
 ノーラがニッコリする。
 
( ヒロシ(御舩ヒロシ)の若い頃?……判る? )
 
「なるほどぉ全宇宙の、あっ!あらら探し……人間か。なるへそぉ。だけどよ、ここにさウチのきよ……、」
 
 突然、怒るノーラ。
 
(( コラっ!シゲルっ。シッ!ダメダメッ!もう!ちょっとぉ~。ダメだって!))
 
「うげぇー!あっ!」
 
 間髪入れず注意し、人差し指を唇に当てるノーラ。
 
 繁の息子の名前を言いそうになって、手の平を口に大きく当てる繁だった。
 ジャンプ血清保持の希少なゼロスターター(血清の第1発現者)息子のきよし。
 椎葉きよしは宇宙最大級の秘密だった。
 危うく、名前をしゃべる所だった。
 
「ん、ん~!了解、了解。危なっ、危なっ!心臓に悪っ!危ないべさ。ふぅ~。」
 
 あせって、手を口に当てながら笑って、再びごまかす繁。
 亜空間通信と言えども、何者かが傍受している可能性が有る為、あえて最重要人物の言葉を言いかけた時、口をふさいだ繁だった。
 
「ふ~ん。ノラ。これがリチャード・エダファミリーの人質交換の条件か?」
 
( 繁、ご名答。でも、もっと困った問題が。 )
 
「もっと困った問題って?」
 
( 今、京子とミリー(ミリューシャ)のママ、シーカAIが中心で動いているの。大きな問題よ。 )
 
「だから、何だべ。政治か?なんか、メンドーな感じか。」
 
( 解る?そうよ……。あっ!ちょっと待って。 )
 
 画面に手の平を見せ、インカムのイヤホンを押さえて、左右を見たり、上を見て目をつむるノーラ。
 相手は京子だろうか、うなずきながら返答をするノーラ。
 
( うん。そう?ハイ。ん~。成る程。ん~。ハイ、了解。ハァ~了解……。 )
 
 ハーベスターの中の親子は腕を組み、目をつむって待っている。
 
「はぁ~って、何のため息ついてるんだべ?ノラ。」
 
( シゲル?(はい?)今、ネイジェア皇国の本星で12貴族院の代表者評議会の緊急会議が招集されたみたい。(ほ~。)シゲル、ちょっと待って。(はい、はい。)え?はい。ミリューシャ?ここに居ないわ。そっちに向かったと思う。シーカの部屋じゃないの?シゲル、ちょっと待ってて。えっ?ハイ。ハイ。今、途中経過だけシゲルに教えるわ。了解。オースの皇太子と、ハイハイ。 )
 
 呼ばれるまで、また目をつむって待つ椎葉親子。
 
( ミリーが今来たの?オース本星のジャック・ウィルソン皇太子殿下が何て?地球に居るお兄様のオース皇国皇太子?……ハイ、ハイ。オース皇国皇太子に、……了解、今、ロンドン・シーラス英国本部にいるのね。それが良いわね。ね~ちょっとシゲル? )
 
「あいよ。オース皇国の皇太子ってアルフレッドか?」
 
( 京子ちょっと待ってね。繁、そう、そうよ。今、イギリス基地に居るアルフレッド・ウィルソン皇太子殿下とミリューシャと、提督(シーカAI)が打ち合わせ中よ。あっシーラス皇王陛下が直接、亜空間通信でミリューシャたちに参加したみたい。 )
 
 清春が繁を見て、厳しい顔をした。肘で繁をつついた。
 
「オイ、シゲル。なんか良く解らないが、エライ事になってきたべさ。なんだかよ。知らんけどょ。オイ。」
 
「ふぅ~、もぅ。なんかさ、おやじっ。本格的に、いや~な予感して来たべさ。両皇室が出て来た話だべ?誘拐されたのが皇室だから、しゃーないかぁ。一介の政治家の家族が誘拐されたと訳が違うからなぁー。親父、なんか吐き気して来た。」
 
「なんでよ、この位。」
 
「この位いうな。地球のレベルでなくさ、宇宙レベルだべや。SF小説でもこんな事考えつかないべぁ。全く。異星人皇室の誘拐って、想像つかんべ。」
 
「なんで椎葉家っていうか、ウチに、なんでぇお前に絡むかなぁ。はんかくさいべ~。」
 
 腕を組んで、帽子を深く被り直す清春。
 
「ちょ待ておやじっ、俺にも寝耳に水ってやつだべさぁ。寝耳って言いづらいべ。寝耳に水って。」
 
「バカタレ。」
 
「うるせい。」
 
 つまらない事を言い合っている親子をノーラがチラチラ見ながら、左右、後ろをキョロキョロ見て話始めた。
 
( ……解ったわ京子。オースとシーラス皇国。両皇国の責任で……了解。 )
 
 画面の中で唇をへの字にして両手を広げるノーラ。
 
( あらら、ふぅ。結局……ハイハイ。進めるわ。 )
 
 真顔で2人の親子を見るノーラ。
 父親の顔を、渋い顔をして見る繁だった。
 
( えっ、うわ~、そーれはそうなるかぁ。なんだ~時間かかりそう。 )
 
 後ろを振り向いてから、思いっきり渋い顔をするノーラ。
 繁が薄目を開けてノーラに聞いた。
 
「ノラ、ドした?」
 
( ん~、12貴族院の中のウシハクル貴族院が不参加を表明したらしい。ウシハクルはウシハクルで一枚岩じゃないからね。事実を認めない。と、言うことは~最高トップのサイオン皇帝陛下のご采配次第ね。結構時間かかるわ。手続きに数日かかる。その陛下の御再考のお時間中に、12貴族院が全て集まるわけではないし。ふう。 )
 
 清春をチラッと見てから、身を乗り出す繁。
 ネイジェア星域皇国では、最大級の案件は12貴族院全体の採決が必要になるのであった。
 
「いいかなノラ。結局、京子に連絡ってことは、地球側の窓口はアメリカのオリジナル・ペンタゴンって事になるのかな?天の川銀河、天の川銀河辺境のアース恒星系の窓口、オリジナル・ペンタゴン。……だけど、そのペンタゴンが動かない。っていうより事象がハッキリしないと動きようがない、いや、動けないっって事なのか?」
 
 目を閉じて黙り込むノーラ。
 
「……。地球側も同じって事か。」
 
「その代わり、京子やノラが俺に連絡って事は、俺たちが任せられたと、言う事になるのかぁ?マジか。」
 
 苦しい顔をしてゆっくり目を開けるノーラ。
 
( そうね。そう言う事。 )
 
 口を横に曲げるノーラ。
 思いっきり目を開く繁。
 
「えっ?えっ、マジかぁ。うわぁ……成功したら政治判断。失敗したら勝手に動いた俺たちのせいになる。そんな感じかな?……うわぁ。なまらはんかくさいわ!とにかく両星域の政治家は微妙な問題で、直ぐ救出に動けないって感じか。」
 
( そう、シゲル。またもやご名答よ。サイオン皇帝陛下はジン・シュウの皇族家、天皇家の直系。12貴族院内での戦争や紛争を今までも、これからもずっ~と、嫌がるの。これ伝統なのよ。極力平和裏の内で解決案を探る。みたいな。 )
 
「それは、そうかもしれないがぁ。ノンビリしてたら赤んぼ、死ぬべさ。そのシワ寄せが俺たちか。でもリチャードやエダは友人だから、救出作戦は嫌じゃない。もう、話が解ったから逆に直ぐにでも助けに行きたいべし。(ん?さっき、吐きそーとかいってたべ。吐きながら助けるんだべか。カカカッ。)うるせっおやじっ!ノラ?だけど、こちらでもかなり準備が必要だべあ。」
 
 繁のイメージでは日本の宙空母艦とオース皇国、シーラス皇国の聯合れんごう大艦隊の護衛で助けに行き、繁の自衛隊と日本国軍の救出作戦で機動歩兵の各1大隊、投入のイメージをしていた。そんな妄想中の繁に話を続けるノーラ。
 
( 有難う。うふふっ。でも、リチャード達の軟禁されている場所が問題なの。それも困ったわ。正確な位置を京子たちが調べてるハズよ。 )
 
 腕を組んで、上を向く繁。
 
「ん~。……俺ならなぁ。月とハービタルゾーンの中間の宙域、条約中立宙域かな。ネイジェアも、地球も手出しできないように。差し詰め~そうだな、NE-NZ(Neijea Earth-Neutral zone during the treaty)の中間宙域に軟禁するだろうな。じゃないか?ノラ。でも、そうなると正規の軍はAN-T GATEの協定で出動できないかぁ。」
 
 同じく腕を組んで、繁を見る父の清春と画像の向こうにいるノーラ。
 清春は腕組を止めて、上着の作業ジャンパーの内ポケットから煙草を出して吸い始めた。
 足でドアを広げて換気に気を使う。
 そして、勝手に推測して話を進める清春だった。
 
「ス~、ハ~ッ。良く解らんが、ワシのような老いぼれは足手まといになる。ス~、ハ~。お前たちが行くしかなかろうて。ワシは若い頃、救出作戦を経験したが、全てが自分達の予想通りに行かない。全く想定外だらけ。敵地へ行く訳だから思い通りに行かないのが救出作戦じゃて。シゲルも、そんでケガしたここにいるんだべあ。(うるせぃ。俺は救出作戦でケガこいたんじゃないから。)カカカッ。知っての通り、生きるの死ぬの、大ケガこいたべや。(解ってるって。)お陰でシゲルと同じで、この有様よ。(しつこい、解ってるって親父っ。)あははっ!救出作戦、アメさんの作るハリウッドの映画の様に全くカッコ良くいかん。そうか、そうか。救出作戦かぁ。」
 
 昔を思い出して、目を閉じてシミジミおもう清春だった。
 
「ん……。この写真の中の人間が行けばぁ敵に隙も出来るだろうし。そうじゃないか。お前と京子さんが行けばな。」
 
 嫌~な顔をして父親を横目で見る繁。
 昔を思い出して話始める父親の清春。
 
「凄い繊細な作戦になるべさ。失敗したら、人質が殺される。和歌山の且来先生の奥さんを俺達は死なせてしまった。京子さんや麗ちゃんのお母さんを俺達は助けられ……。」
 
「もう、親父!しつこい。何回も聞いた。もう良いって。今はエダ達の話だべ!昔話する時じゃないべ。」
 
 キョトンとする繁の父親。
 その目は、老齢になり目の前の重要な話題より、自分の話をしたがる普通の老人の目だった。
 そんな老化し始めた親をにらむ息子。
 具体的に注意される息子、繁の目を見て頭を掻いて反省する清春だった。
 
「いやいや……。すまんついな。まぁ、でもな大部隊での救出作戦は無理じゃな。シゲル、ハハハッ!」
 
 繁の頭の中の大部隊の救出劇のイメージがパっと消えた。がっかりする繁だった。
 
 この子にして、この親。
 初代道場師範の清春は彼も若いころは自衛隊の特殊作戦群、部隊員だった。
 日本のEEZの領海に建てられた中国の天然ガス採掘場に、同盟国や防衛庁の情報技術武官、日本の科学者が誘拐監禁されていた。その人たちの救出時、清春は大ケガをして除隊したのだ。
 その救出劇の最中、跳弾が跳ねて胸を撃たれた且来教授の妻(繁の妻・京子の母親)が、小雪が降り始めた海上で命を落としたのだった。
 その事を思い出した父の清春なのだ。
 
 その後、清春の妻、奈美の実父で栗山町きっての農場主の菊池裕也が亡くなったのがきっかけに夕張郡栗山町、菊池農場の跡を継いで椎葉農場をひらいたのだ。
 清春は同時に新格闘道場も自宅の離れに作り、椎葉新格闘道場を開いた開祖でもあった。
 
「結局は、ワシがおまえの自衛隊の入隊をずーと反対してた理由が、はぁ~あ。あはははっ!今、ここに来ちゃったな!って感じだな。カカカカッ!」
 
 他人事のように言う父親を嫌な横目でジーッと見る繁だった。
 
「ワシらの運命では、生きてりゃ必ず2~3回の大きな何か、節目と向き合う。お前も一緒だ。まぁワシのせがれだから諦めろ。どんな大きな事件や事故でも向き合って、攻めろ!向き合え。逃げずに真向から戦え。今回、お前が大怪我した1回目で~、まぁ、なんとか無事に生きて帰ってきたから~、2回目の今回も、まぁなんとかなるんじゃないべかぁ。なぁ繁!3回目はアウト~!だと思うけど。人生2回目の危機だべ~!あはははっ。」
 
 息子の繁の背中を、パシンッと叩く清春。
 
「痛っ!父、何言ってんだべや。ひとごと、と思って!俺は助けに行きたいけど、まだな~んも、」
 
 繁が話掛けた時、3Dに急いで京子も入ってきた。
 
( 解ったわパパ!あっお父さんも! )
 
 煙草を持った手で挨拶する清春。
 
( パパ、リチャード達、NE-NZの宙域でえーと、80・30・12ポイントで、ウシハクルの無人の機械化武装戦艦に幽閉されてる。宙域周辺ではオース皇国とシーラス皇国が機動艦隊で包囲してるけど、条約中立地帯で侵入出来ない。軍属以外の民間人や研究員しか入れないわ。 )
 
「ウシハクルの機動艦隊は?」
 
( いえ、居ないわ。この無人戦艦だけ。 )
 
「この無人戦艦に爆弾積んでるとか。広域破壊兵器を積んでるとか。異空間振動弾とかトラップだべさ。」
 
( それも考えてスキャン中だけど。理屈でも、ん~それは無いわね。ネイジェア星域皇国内での全面戦争になるから。あくまでも一部の過激派の単独犯行にしたいのかも。スキャン中だけど通常兵器の反応しかない。 )
 
「そうか。」
 
 頭を掻いてまた、イヤな顔をする繁。
 ドヤ顔で息子を見る父の清春。
 そんな腹立つ目線の父親へ、チッ!と返してから空を仰いで見る繁だった。繁は大きなため息をついた。
 
「はぁー。……んで?京子。」
 
( それで、パパ?いい? )
 
「いい?って何だべ。もう、や~な予感満載のシゲルさんだべ。」
 
 少しむくれ気味の繁。チラッと父親を見る。楽しそうに繁を見る父の清春。むくれたままへの字の唇をして京子を見る。
 
( パパ、勝手に私。今、日本国軍とアメリカ宙軍除隊した。(はっ?)シーラスの情報技術院の長官を辞めたわよ。軍属のシーラスから抜けて、ただの民間人よ。 )
 
「ゲッ!」
 
( ゲッて、何よ。ゲッて!私は表のアメリカ国防省、一般会計職員よ。表ペンタゴンの事務受付のオバちゃん。あはははっ!ノラはただのシーラス皇国の普通のオバちゃんになったわ。むふふっ。月裏スーリアの駄菓子屋のオバちゃんになったみたい。 )
 
( えっ?何っ?京子! )
 
 ノーラが肩を京子にぶつける。
 
( え~!な~にぃ~京子ぉ~。私が駄菓子屋のオバちゃんって。なんでそんな登録したのよ~。 )
 
( まぁイメージとして、エプロンに両手いれて、牛乳瓶の底の様なメガネしたオカン。いいじゃない!スーリアのちびっ子相手や悪ガキ相手でさ。ふふふ。 )
 
 ほっぺたを膨らませて、また京子の肩に肩をぶつけるノーラ。
 
( もう京子ったら。うふふっ。 )
 
 画面の中でそんな2人のやり取りを見ていると、突然、繁が。
 
「ゲッ!うわー。」
 
 ゆっくり両手で顔を手の平で塞ぐ繁。
 
( だから、ゲッって。何よゲッって。パパ。 )
 
「うわ、うわ、うわ、うわ。」
 
 それから苦い物を食べたような顔で京子を見つめる繁。
 そして先が読めて繁が目を閉じた。
 
( パパっ!休隊中で申し訳ないけど、御舩閣下から幕僚長へ。オリジナル・ペンタゴンに報告が終わったところよ。 )
 
 目をつむりながら話す繁。
 
「う~、俺も勝手に除隊したんだろ?俺は普通の農業従事者だろ?んだべ。椎葉農場代表。いやいやまだ、親父の名義だから農家の長男か。椎葉サムライ道場の2代目師範か?なんでもいいけど、人に相談もしないでさ。まぁ、う~。まぁ、しゃーないかぁ。んだべ京子。」
 
( ね~パパ。ね~お願い。ねぇ。 )
 
 頭を傾けて、目をつむり黙る椎葉繁。
 ニコニコして息子を見る清春。
 その笑顔から、急に真顔に変わる清春。
 繁の肩を2度叩いた。

( ペシッペシッ! )
 
 帽子を脱いで、清春が息子の肩を持った。
 
「かぁさんには、何にも言わなくてもいい。お前が下手こいて死んだらワシからテキトーに説明するべさ。まぁ、この誘拐劇の内容、良く解ってないけどなっ!カカカカッ。」
 
 3D画面に顔を寄せて話す清春。
 その日に焼けたシワシワな顔を真顔で画面に近づけた。
 
「なぁ?京子さん。どうせ京子さんも、ノラちゃんも行くんだべ?」
 
 小さく小刻みに顔を上下にする京子。更にマジ顔で話す清春。
 
「なんとか皆、生きて帰って来て下さい。エダちゃんとも晩酌したいし。赤んぼも見たいし。あの、おっちょこちょいの3代目のリチャードにワシ~、麻雀負けたままだしな。リベンジせにゃ。はははっ。孫のきよしもまだ中学生なったばかりだし。家族で居る時間は孫には、きよしには、まだまだ必要だでばな。必ずみんな無事に帰って来て下さい。お願いします。」
 
 マジ話をする親父を見つめる繁。
 京子たちに頭を下げてお願いする清春。
 
「ノラちゃんもな!あんたらのハイテク使って、なんとか繁と京子さん守って下さい。頼みます。」
 
 手を挙げて挨拶するノーラ。
 そのノーラを横で見て、ネイジェア語(ポーランド語)で話し始める京子。
 そしてノーラも京子の目を見る。うなずくノーラ。
 
( パパ?私、準備するわ。一応、昔、きよしが使ってた赤ちゃん用品、使ってないおむつとかもろもろ2階の物置の端の段ボールにあるから適当に持ってきて。中のアンパンマンのリュックにひと通り入ってると思うけど。段ボールにきよし赤ちゃん用品って確か書いてある。2~3セットおむつも入っているし、保存の効く緊急用赤ちゃんミルクも確か入っているから。粉ミルク用にコンビニで、ミネラルウォーターも2~3本買って来て。じゃパパお願い! )
 
 サっと画面から消える京子。
 
「京っ。あらら、」
 
 その京子を目で見送ってから、ブルーの瞳で画面を正視するノーラ。
 そのノーラに話しかける繁。
 
「じゃノラ?何時に来る。」
 
「シゲル、1時間後。ピーターは機動艦隊のバックアップ制御に回ってしまったから私の武装短艇ルサウカ、そっちに廻すわ。よろしく。」
 
 3D画面が解けた。
 しばらく沈黙のハーベスターの運転席。
 そして、父親と目を合わせながら、ハーベスターのエンジンを掛ける繁。

( キュルキュルキュル、ブワンーブワン、ブワーン!カラカラカラ。 )

 繁の肩をもつ清春。
 
「後の作業は、ワシがやる。お前は早く行け。早く準備しろ。」
 
「あー、おやじ。ほんじゃ、行くわ。」
 
 ハーベスターを降りた繁は、畑から道路に入り、自宅に向かって歩いていく。その息子の後ろで、何事もなくハーベスターを動かし、続きの収穫作業に戻る父の清春だった。
 
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