上 下
5 / 55
第1章 銀河の果てに。

第4話 養女、オディアリーム・エダ・ウィルソン・椎葉。

しおりを挟む
オービターの窓からは巨大なアイラが、歩き去るのが見える。
 
 この55スーリアの空港ポットに佇む自衛隊オービター・シャトル。
 オディアを搬送する為に杉山達が千歳宙空ステーション空港から乗って来たのだ。まだ、制式配備されていない140メートル級の巨大武装オービターの試作機だった。
 
 現在、配備されている航空宙空自衛隊の120メートル級大型オービター(BR-BM-1ビッグマム)は、一昨年末に配備されたばかりの新型オービターではあるが、鈴木達が出発準備をしているこのアース・スーリアの巨大なオービターはビッグマムと運用目的が違う別の新型機体だった。
 
 ネイジェア星域皇国からの提供技術によって今も1500~2000メートル級の宙空戦艦や宇宙戦闘巡洋艦が製造されていたが、その巨大な宇宙船にコバンザメの様にドッキングして今後運用される予定の、戦術目的のいわゆる次期試作機だった。
 
 その名も正式名称(GH‐60ジャイアントホーク)。
 
 ジャイアントホークの格納室には巨大な機動モービル1中隊(21機)と機動歩兵2個小隊(20台)を搭載し、宇宙空間、惑星大気圏内を長期間に渡り作戦運用する目的で作られた宙空急襲攻撃型オービターなのだ。
 杉山達はシーラス軍と共同で今年2月、120メートル級のビッグマムを通常の作戦高度降下運用から、急襲攻撃型に改良・試験をして成功したのだ。晴れて4月にシーラス全軍で採用された。杉山と鈴木はその実績と腕を買われ、ジャイアントホークを試験運用をしていたのだ。
 そのオービターで運用される機動モービルに、呼称は複数あった。
 
「アメリカ軍制式装備名称:HARMOR(ハマー)有人搭乗軍事機動作戦用人型装甲機:(Humanoid Armored Machine for Operations and Reconnaissance)」または「NATO軍国際制式装備名称:HMAE(フメイ)高機動装甲急襲攻撃戦略機器(High Mobility Armored Assault Strategic Equipment)」
 
 などと呼ばれた。でも日本では普通に機動モービルと言った。
 その21機の機動モービルを固定し放出するシリンダー装置が規則正しく、上下に並んでいる。そのコクピット側奥に、直径2メートル程度の円柱形のポットが固定されていた。
 巨大オービター、ジャイアントホークのペイロードベイ(格納庫)の奥に歩き進む3人。
 コクピット側の両舷に2.2メートル程の装甲化機動歩兵被服兵器のアーマード・ロボ・スーツ(アーマード・パワード・スーツ)が5体づつ左右に分かれセットされているのが見える。
 この、人間サイズの機体にも数々の名称があった。
 
「アメリカ軍制式装備名称:WALKER(ウォーカー): Weaponized Armored Locomotive Kinetic Exoskeleton for Reconnaissance」とか「NATO軍国際制式装備名称:AMIBA(エイムバー): Armored Mobile Infantry Battle Armor」
 
 と呼ばれていた。しかし、日本では普通に機動モービルに対して、機動歩兵と言われている。
 だが、ちょっとヲタ気味もしくは完全ヲタ脳のゲーマー達からは、昔から知ってる知ってる風に、ロボ・スーツやパワード・スーツと知ったかぶって呼ばれていた。
 
 その円柱形のポットの前に、顔だけ白人男性で体がチタニュウム・シルバーのアンドロイドとメガネをかけた神経質そうな白人女性がならんで何やらチェックしていた。
 
 その2人に椎葉繁と杉山機長、後ろからアルフレッドが歩いて来た。
 3人が近づくと手を止める女性。
 アンドロイドは気にせずそのまま3Dコンソールで作業を進めていた。
 繁の顔を見るなり、ニッコリ笑顔になる女性。それの女性はウィルソン家の公式執事、執事長のクラウディア・ガンジェットだった。
 
「クラウディアさん、3週間、有難うございました。」
 
 繁が、深々と頭を下げた。クラウディアは口に手を充てて笑って話した。
 
「ほほほっ。椎葉さんのような地球の方なら、いつでも大歓迎ですわ。楽しかった。おほほほっ。ほんと楽しかった。私たち執事一同、皇女殿下の地球の里親はどんな方かって、大変心配していましたのよ。ホント。安心致しました。ましてや、アイラ殿下様達の武道のご師範はどんなお方か。皆、会いたくってお待ちしていました。とにかく、こちらこそ3週間楽しかったですわ。」
 
 頭を掻いて照れる椎葉繁。
 
「いえいえ、私も、オディ子が巨人化した時は、取り乱してご迷惑おかけいたしました。体は大きくても中身は5歳児。大変でしたが、頑張るオディアを見て我が子ながら、また可愛くなりました。はははっ。将来オディ子がどんなイイ女になるかも解りましたし。本当に驚きの毎日でした。こちらも大変貴重な経験をさせていただきました。でも、自分が巨大化させて頂いた時も、本当になんというか……。はははっ!有難うございました。」
 
「おほほほっ。椎葉様もオース化の遺伝子をお持ちとは。更に奥様共々、原始因子をお持ちとは。偶然なんでしょうか。それとも宇宙かみさまの御意志なのかしら?本当に驚きましたわ!地球で万が一の時は妃殿下をお助けしてくださいませ。」
 
「はい!地球では我が子、椎葉家の長女ですから。お任せください。これからも夫婦で大切に育てます!」
 
「……。」
 
 メガネを取り、涙目になり目頭を押さえるクラウディア執事長。
 
「オディア皇女殿下のご両親様も、あの世でお喜びなされてることでしょう……。」
 
 一瞬、沈黙の場。
 繁の顔が瞬間曇る。
 その繁を見て、
 
( しまった! )

 という表情のクラウディア執事長だった。
 
「これ、クラウッ!息子のリチャード達の事はもう!ええわいっ!バカ者!」
 
「た、た、大変失礼いたしました殿下。私め、といたしたことが……。」
 
 手でアルフレッドの腕を押さえる椎葉繁。
 そして苦笑いをしながらクラウディア執事に気を使って言った。
 
「少将、いいんです。いいんです。クラウディアさんも気にせず。」
 
 チタニュウム・シルバーのアンドロイドの作業の手が一瞬止まり、4人を見た。

 その4人の脳波をモニタリング・チェックしてから、何事も無く作業を続け始めた。
 
 今は亡き、オディアの両親。
 そのワケは。

 ……実は、4年前に起きた誘拐事件だった。

 オース皇国のリチャード殿下とエダ妃殿下は、赤ん坊のオディアを連れて月裏にジャンプした。

 しかし、月裏リゾートのジャンプ・ポートで敵国の手に落ちたのだ。

 オース皇国・皇室夫婦誘拐事件の始まりだった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち
SF
 港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。  遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。  その第1次上陸先が苫小牧市だった。  これは、現実なのだ!  その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。  それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。  同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。  台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。  新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。  目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。  昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。  そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。  SF大河小説の前章譚、第4部作。  是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

「メジャー・インフラトン」序章3/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 FIRE!FIRE!FIRE!No2. )

あおっち
SF
 とうとう、AXIS軍が、椎葉きよしたちの奮闘によって、対馬市へ追い詰められたのだ。  そして、戦いはクライマックスへ。  現舞台の北海道、定山渓温泉で、いよいよ始まった大宴会。昨年あった、対馬島嶼防衛戦の真実を知る人々。あっと、驚く展開。  この序章3/7は主人公の椎葉きよしと、共に闘う女子高生の物語なのです。ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。 いよいよジャンプ血清を守るシンジケート、オリジナル・ペンタゴンと、異星人の関係が少しづつ明らかになるのです。  次の第4部作へ続く大切な、ほのぼのストーリー。  疲れたあなたに贈る、SF物語です。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

「メジャー・インフラトン」序章5/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 JUMP! JUMP! JUMP! No2.

あおっち
SF
 海を埋め尽くすAXISの艦隊。 飽和攻撃が始まる台湾、金門県。  海岸の空を埋め尽くすAXISの巨大なロボ、HARMARの大群。 同時に始まる苫小牧市へ着上陸作戦。 苫小牧市を守るシーラス防衛軍。 そこで、先に上陸した砲撃部隊の砲弾が千歳市を襲った! SF大河小説の前章譚、第5部作。 是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

8分間のパピリオ

横田コネクタ
SF
人間の血管内に寄生する謎の有機構造体”ソレウス構造体”により、人類はその尊厳を脅かされていた。 蒲生里大学「ソレウス・キラー操縦研究会」のメンバーは、20マイクロメートルのマイクロマシーンを操りソレウス構造体を倒すことに青春を捧げるーー。 というSFです。

銀河文芸部伝説~UFOに攫われてアンドロメダに連れて行かれたら寝ている間に銀河最強になっていました~

まきノ助
SF
 高校の文芸部が夏キャンプ中にUFOに攫われてアンドロメダ星雲の大宇宙帝国に連れて行かれてしまうが、そこは魔物が支配する星と成っていた。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

怪獣特殊処理班ミナモト

kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。

処理中です...