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暫くして、お父さんが目を覚ましたと連絡が来た。

陽斗と私は急いで病室へと向かった。


「父さん、具合はどう?」


陽斗がお父さんに声を掛けた。
お父さんは陽斗を見てゆっくりと話し始めた。


「陽斗…お前が助けてくれたんだってな。驚いたよ…お前は俺を憎んでいるのだろ。」


陽斗はお父さんのベッドの横に近づいた。


「一度は父さんを憎んだよ…でも、澪が僕の目を覚ましてくれたんだ。これで僕が父さんを助けなかったら、一生後悔するとね。」


「そうだったのか。」


お父さんは私の方を見るように向きを変えた。


「澪さん、私はあなたに酷い事を言ったのに、あなたは私を助けてくれたんだね。申し訳ない…この通りだ。」


お父さんは私に向かって頭を下げたのだった。


「そ…そんな…頭を下げないでください。」


お父さんは頭を上げると、陽斗さんにもう一度顔を向けた。


「陽斗、私はもうそろそろ引退を考えているんだ…母さんとも話をして、ゆっくりと老後を楽しむ事にしようと思っている。そこでお前にお願いがある。私の勝手な願いだが、もう一度、西園寺家に戻ってくれないか…お前に病院の経営も全て任せたいんだ。」


しかし、陽斗はお父さんに首を振ったのだった。


「父さん、僕は今、小さな島の診療所で働いている。そこでは僕を必要としている人が沢山待っているんだ。僕が戻らないと島の人達が困ってしまうからね。」


すると、お父さんはフッと小さく笑ったのだ。


「…陽斗、その話は大久保から聞いていたよ。設備の無い手術室でのオペも話は聞いている。しかし、その後に大きな病院と連係してドクターヘリなどを島に飛ばせるようになったのは覚えているだろ?」


「あぁ…大久保が話を進めてくれたと聞いていたよ。」


その時になって陽斗は気が付いたようだ。
考えてみたら、ただの外科医である大久保がそんな大きな話をまとめる事が出来るはずがない。

これはお父さんが動いたのではないだろうか。


「お父さん、もしかして大きな病院と連係の話は、父さんが動いてくれたの?」


お父さんはゆっくりと頷き笑みを浮かべた。





「これからの医療はお前に任せたい。誰もが平等に医療が受けられる仕組みを、おまえなら作れると私は確信している。」

「父さん、それはどういう事なのですか?」


お父さんは陽斗を見てもう一度微笑んだ。


「この病院も、これからの日本の医療も、お前が西園寺の当主となって変えていって欲しい。私には出来なかったことだが、陽斗ならできるだろ。」


陽斗は島の診療所で働いてから、地方や離島の医療を改善したいといつも言っていた。
確かに一人の医師では出来ることもたかが知れている。
しかし、西園寺の大きな力を使えば、大きな改革も夢では無いのだ。


「お父さん、それは僕も願っていたことだから、やりたいと思っています。でも一つ確認したい事があります。それは、澪のことです。澪を僕の妻として認めてくれるのなら、西園寺の当主は引き受けます。…まだ一条の令嬢と婚約しろなんて言わないですよね。」

お父さんは陽斗の話を聞いてクックッと笑い始めた。

「一条の令嬢は、お前の従兄と結婚させたよ。それにあの子がお前と一緒に小さな診療所について行くと思うか?」


「…それでは、澪を僕の妻として認めてくれるんですよね。」


お父さんは大きく頷き、お母さんの方を見た。
お母さんは私を見ながら口を開いた。


「澪さん、明日から西園寺の嫁としての教育をビシビシと行きますからね。」

「お…お義母さん、ありがとうございます。」


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