48 / 88
7-1
しおりを挟む暫くして、お父さんが目を覚ましたと連絡が来た。
陽斗と私は急いで病室へと向かった。
「父さん、具合はどう?」
陽斗がお父さんに声を掛けた。
お父さんは陽斗を見てゆっくりと話し始めた。
「陽斗…お前が助けてくれたんだってな。驚いたよ…お前は俺を憎んでいるのだろ。」
陽斗はお父さんのベッドの横に近づいた。
「一度は父さんを憎んだよ…でも、澪が僕の目を覚ましてくれたんだ。これで僕が父さんを助けなかったら、一生後悔するとね。」
「そうだったのか。」
お父さんは私の方を見るように向きを変えた。
「澪さん、私はあなたに酷い事を言ったのに、あなたは私を助けてくれたんだね。申し訳ない…この通りだ。」
お父さんは私に向かって頭を下げたのだった。
「そ…そんな…頭を下げないでください。」
お父さんは頭を上げると、陽斗さんにもう一度顔を向けた。
「陽斗、私はもうそろそろ引退を考えているんだ…母さんとも話をして、ゆっくりと老後を楽しむ事にしようと思っている。そこでお前にお願いがある。私の勝手な願いだが、もう一度、西園寺家に戻ってくれないか…お前に病院の経営も全て任せたいんだ。」
しかし、陽斗はお父さんに首を振ったのだった。
「父さん、僕は今、小さな島の診療所で働いている。そこでは僕を必要としている人が沢山待っているんだ。僕が戻らないと島の人達が困ってしまうからね。」
すると、お父さんはフッと小さく笑ったのだ。
「…陽斗、その話は大久保から聞いていたよ。設備の無い手術室でのオペも話は聞いている。しかし、その後に大きな病院と連係してドクターヘリなどを島に飛ばせるようになったのは覚えているだろ?」
「あぁ…大久保が話を進めてくれたと聞いていたよ。」
その時になって陽斗は気が付いたようだ。
考えてみたら、ただの外科医である大久保がそんな大きな話をまとめる事が出来るはずがない。
これはお父さんが動いたのではないだろうか。
「お父さん、もしかして大きな病院と連係の話は、父さんが動いてくれたの?」
お父さんはゆっくりと頷き笑みを浮かべた。
「これからの医療はお前に任せたい。誰もが平等に医療が受けられる仕組みを、おまえなら作れると私は確信している。」
「父さん、それはどういう事なのですか?」
お父さんは陽斗を見てもう一度微笑んだ。
「この病院も、これからの日本の医療も、お前が西園寺の当主となって変えていって欲しい。私には出来なかったことだが、陽斗ならできるだろ。」
陽斗は島の診療所で働いてから、地方や離島の医療を改善したいといつも言っていた。
確かに一人の医師では出来ることもたかが知れている。
しかし、西園寺の大きな力を使えば、大きな改革も夢では無いのだ。
「お父さん、それは僕も願っていたことだから、やりたいと思っています。でも一つ確認したい事があります。それは、澪のことです。澪を僕の妻として認めてくれるのなら、西園寺の当主は引き受けます。…まだ一条の令嬢と婚約しろなんて言わないですよね。」
お父さんは陽斗の話を聞いてクックッと笑い始めた。
「一条の令嬢は、お前の従兄と結婚させたよ。それにあの子がお前と一緒に小さな診療所について行くと思うか?」
「…それでは、澪を僕の妻として認めてくれるんですよね。」
お父さんは大きく頷き、お母さんの方を見た。
お母さんは私を見ながら口を開いた。
「澪さん、明日から西園寺の嫁としての教育をビシビシと行きますからね。」
「お…お義母さん、ありがとうございます。」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる