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しおりを挟む「田中さん、田中のじいちゃん、大丈夫ですか!?」
家で倒れている田中さんに声を掛けるが返事が無い。
陽斗が聴診器で心臓の音を確かめた。
「…重症心不全だ。」
それを聞いた大久保が大きな声を出す。
「陽斗、あの診療所で手術は出来るのか?」
「あぁ…手術台はかろうじてあるが、旧式の超音波くらいしか機器は無い。もちろん人工心肺装置なんて無いんだ。」
陽斗は俯いて唇を噛んだ。
すると、大久保はさらに大きな声を出した。
「何を迷っているんだ!ここには天才外科医の西園寺陽斗と凄腕外科医の大久保がいるじゃないか!」
大久保の言葉に陽斗は顔を上げた。
「大久保、一緒にやってくれるか。」
「俺を誰だと思っているんだ、目の前に患者がいたら助けるのが俺達だろ?さぁぐずぐずしてられないぞ。」
田中さんを乗用車に乗せて急ぎ診療所に運び、すぐに緊急オペを始めた。
設備も無いこの診療所で心臓手術なんて本来はありえないことだ。
神業以外に考えられない。
手術が始まってすでに3時間が経過している。
私は田中さんのお嬢さんの背中をさすりながら祈ることしかできなかった。
辺りが少し暗くなり始めた時だった。
手術をしていた部屋から陽斗と大久保がゆっくり出て来たのだった。
田中さんのお嬢さんと私は陽斗たちに駆け寄った。
「田中さんは?」
「爺ちゃんは…爺ちゃんは…。」
少しして陽斗がお嬢さんに笑顔を向けたのだ。
「田中のじいちゃんはもう大丈夫ですよ。良く頑張ってくれました。」
その言葉を聞いて、お嬢さんは安心して力が抜けたように床にペタンと座ってしまった。
私は彼女を抱き起しながら声を掛けた。
「田中さん、良かったですね。」
田中さんの娘さんは、陽斗と大久保に手を合わせて御礼を伝えた。
「先生、本当に…本当にありがとうございます!先生たちは神様だねぇ。」
陽斗も大久保も嬉しそうに目を細めている。
すると陽斗は大久保に向かっていきなり頭を下げたのだった。
「大久保、本当にありがとう。お前がいなかったら助けることも出来なかったよ。」
大久保は少し照れくさそうにニヤニヤとしている。
「お前から頭を下げられる日が来るとは思わなかったよ。でも、お前の言っていたこの診療所の良さが少しわかった気がするぜ。それと…お前はやっぱり天才外科医だな。」
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