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しおりを挟む「理久、私は理久が大好きだよ…でも、私はまだやり残して来たことが沢山あるし、今すぐにここで暮らすことは出来ないと思う。」
すると理久は少し俯いて小さな声を出した。
「澪はあの男の所に帰るのか…こんなにも傷つけられて、なぜ帰るんだ。俺は澪を帰したくない。」
「…理久。」
その時だった、店のドアがカランコロンと音を立てて開くと同時に懐かしい声がしたのだった。
「理久くん、澪ちゃん、久しぶりだね!」
店に入って来たのは、学生時代の友人である 陽太(ようた)と早紀(さき)だった。
二人は大学卒業と同時に結婚したと聞いていた。
先に返事をしたのは理久だった。
「陽太、早紀、よくここに俺達がいるってわかったな。」
陽太が自慢するように話し出した。
「今日は俺たちの結婚記念日なんだ。だから理久の所で美味しい酒でも買おうと思って行ったら、理久が町に行っているとおばさんが教えてくれたんだ。さらに澪ちゃんが帰って来ていると聞いたんで、二人が行きそうな場所はすぐわかったよ。」
早紀も嬉しそうにうんうんと頷いていた。
そして陽太が何かを思いついたように目を輝かせて話し始めた。
「そうだ、今日はもともと俺たちの家でパーティーをする予定だったんだ。理久と澪ちゃんもうちに来ないか?」
理久は私をチラリと見ながら確認するような表情を見せたので、私は大きく首を縦に振った。
「いいねぇ、澪も行くって言ってるし、後でパーティーにおじゃまさせてもらうよ。」
「理久くん、澪ちゃん、どうぞ上がって!」
出迎えてくれたのは、エプロン姿の早紀だった。
早紀は忙しそうにパーティーの料理を作りながら出迎えてくれた。
陽太はテーブルにグラスを並べたり部屋の準備をしていたようだ。
「陽太くん、早紀ちゃん、おめでとう。」
私は町で買ってきた花束を早紀に手渡した。
「うわぁ、綺麗なお花をありがとう!」
さらに理久が紙袋から何かの瓶を取り出した。
「これは当店自慢のワインなんだ。契約している農家さんが製造していてなかなか手に入らないワインだぞ。」
陽太は理久からワインを嬉しそうに受け取った。
「よっ、さすが老舗酒屋の御曹司!」
久しぶりに会う友人たちだが、そんなことも忘れるくらい昔のままで変わらない皆の笑顔。
昔話にも花が咲いてくる。
理久と陽太が昔の武勇伝に夢中になっていた時、早紀が私に話し掛けて来た。
「ねぇ、澪ちゃんは理久くんと付き合っているの?それとも他に恋人がいたりしてね。」
「う…うん。理久とはただの幼馴染だし…特に恋人と言える人もいないかな。」
「ふう~ん、澪ちゃん怪しい。だってすごく綺麗になったし、好きな人いるんじゃない?これは女の勘だけどね。」
早紀は私の顔を覗き込み、何かを探るような悪戯な表情をした。
私の好きな人は誰なのだろう。自分でも分からない。
ただどうしてもいろいろな場面で思い出してしまうのは、なぜか陽斗の顔だった。
まだ出会って間もないはずなのに、私の頭から離れないのだ。
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