上 下
33 / 88

4-2

しおりを挟む

「理久、私は理久が大好きだよ…でも、私はまだやり残して来たことが沢山あるし、今すぐにここで暮らすことは出来ないと思う。」

すると理久は少し俯いて小さな声を出した。

「澪はあの男の所に帰るのか…こんなにも傷つけられて、なぜ帰るんだ。俺は澪を帰したくない。」

「…理久。」

その時だった、店のドアがカランコロンと音を立てて開くと同時に懐かしい声がしたのだった。

「理久くん、澪ちゃん、久しぶりだね!」

店に入って来たのは、学生時代の友人である 陽太(ようた)と早紀(さき)だった。
二人は大学卒業と同時に結婚したと聞いていた。

先に返事をしたのは理久だった。

「陽太、早紀、よくここに俺達がいるってわかったな。」

陽太が自慢するように話し出した。

「今日は俺たちの結婚記念日なんだ。だから理久の所で美味しい酒でも買おうと思って行ったら、理久が町に行っているとおばさんが教えてくれたんだ。さらに澪ちゃんが帰って来ていると聞いたんで、二人が行きそうな場所はすぐわかったよ。」

早紀も嬉しそうにうんうんと頷いていた。
そして陽太が何かを思いついたように目を輝かせて話し始めた。

「そうだ、今日はもともと俺たちの家でパーティーをする予定だったんだ。理久と澪ちゃんもうちに来ないか?」

理久は私をチラリと見ながら確認するような表情を見せたので、私は大きく首を縦に振った。

「いいねぇ、澪も行くって言ってるし、後でパーティーにおじゃまさせてもらうよ。」




「理久くん、澪ちゃん、どうぞ上がって!」

出迎えてくれたのは、エプロン姿の早紀だった。
早紀は忙しそうにパーティーの料理を作りながら出迎えてくれた。

陽太はテーブルにグラスを並べたり部屋の準備をしていたようだ。

「陽太くん、早紀ちゃん、おめでとう。」

私は町で買ってきた花束を早紀に手渡した。

「うわぁ、綺麗なお花をありがとう!」

さらに理久が紙袋から何かの瓶を取り出した。

「これは当店自慢のワインなんだ。契約している農家さんが製造していてなかなか手に入らないワインだぞ。」

陽太は理久からワインを嬉しそうに受け取った。

「よっ、さすが老舗酒屋の御曹司!」

久しぶりに会う友人たちだが、そんなことも忘れるくらい昔のままで変わらない皆の笑顔。
昔話にも花が咲いてくる。

理久と陽太が昔の武勇伝に夢中になっていた時、早紀が私に話し掛けて来た。

「ねぇ、澪ちゃんは理久くんと付き合っているの?それとも他に恋人がいたりしてね。」

「う…うん。理久とはただの幼馴染だし…特に恋人と言える人もいないかな。」

「ふう~ん、澪ちゃん怪しい。だってすごく綺麗になったし、好きな人いるんじゃない?これは女の勘だけどね。」

早紀は私の顔を覗き込み、何かを探るような悪戯な表情をした。

私の好きな人は誰なのだろう。自分でも分からない。
ただどうしてもいろいろな場面で思い出してしまうのは、なぜか陽斗の顔だった。
まだ出会って間もないはずなのに、私の頭から離れないのだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5度目の求婚は心の赴くままに

しゃーりん
恋愛
侯爵令息パトリックは過去4回、公爵令嬢ミルフィーナに求婚して断られた。しかも『また来年、求婚してね』と言われ続けて。 そして5度目。18歳になる彼女は求婚を受けるだろう。彼女の中ではそういう筋書きで今まで断ってきたのだから。 しかし、パトリックは年々疑問に感じていた。どうして断られるのに求婚させられるのか、と。 彼女のことを知ろうと毎月誘っても、半分以上は彼女の妹とお茶を飲んで過ごしていた。 悩んだパトリックは5度目の求婚当日、彼女の顔を見て決意をする、というお話です。

俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜

明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。 しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。 それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。 だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。 流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…? エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか? そして、キースの本当の気持ちは? 分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです! ※R指定は保険です。

【完結】偽聖女め!死刑だ!と言われたので逃亡したら、国が滅んだ

富士とまと
恋愛
小さな浄化魔法で、快適な生活が遅れていたのに何もしていないと思われていた。 皇太子から婚約破棄どころか死刑にしてやると言われて、逃亡生活を始めることに。 最大の浄化魔法は陛下から使うなと言われていた使いました。 どうなるんでしょうね?「政治の腐敗を浄化する」魔法を使うと……。 少しずつ、聖女を追放したことで訪れる不具合。 ま、そんなこと知らないけど。 モブ顔聖女(前世持ち)とイケメン木こり(正体不明)との二人旅が始まる。

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。 その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。 自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

今の幸せを捨て新たな幸せを求めた先にあったもの

矢野りと
恋愛
夫トウイ・アロークは13年間も連れ添った妻エラに別れを切り出す。 『…すまない。離縁してくれないか』 妻を嫌いになったわけではない、ただもっと大切にするべき相手が出来てしまったのだ。どんな罵倒も受け入れるつもりだった、離縁後の生活に困らないようにするつもりだった。 新たな幸せを手に入れる夫と全ての幸せを奪われてしまう妻。その先に待っていたのは…。 *設定はゆるいです。

処理中です...