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「…澪、良く見せてくれ、熱を持って腫れているじゃないか。」

陽斗は私の頬を優しく触れて触診しているようである。

「澪、これは少しのあいだ薄い痣のようになるかもしれない。本当に壁にぶつけたのか?」

陽斗は私の瞳を真っすぐに覗き込んだ。
嘘を言っているのがバレてしまいそうで、私は目をそらした。

「詮索はしないが、何かあれば俺に言ってくれ。俺は澪の夫なのだからな。」

私は静かに頷くことしかできなかった。
頬も痛いが、今は彼女から言われた言葉で心がとても痛い。
確かに恋人がいるならば、私ではなく彼女が妻役をするべきなのかも知れない。


翌日になり、陽斗は念のために自分と一緒に病院へ私を連れて行くと言った。
大袈裟だと断ったが、後が残っては大変だと言って病院に連れて行かれたのだった。

病院に着くと、陽斗と一緒に居る私に向かって病院スタッフや看護師、医師の同僚などが挨拶の声を掛けて来た。

「奥さん、初めまして。僕は西園寺と同僚の外科医で、大久保と言います。」

「大久保さん、主人がいつもお世話になっております。」

少し動揺はするが、ホテルフロントで培った笑顔と姿勢で挨拶をした。
大久保は、外科医には見えない明るい髪色と日に焼けた肌の男性だ。
少しだけ遊び人といった匂いがする。

「奥さん、困った事があれば僕に言ってくださいね。西園寺は意外と鈍い所があるのでね。」

陽斗が怒った表情をすると、大久保は嬉しそうに手を振って去って行ったのだった。

「楽しい方ですね。」

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