上 下
5 / 23

1-4

しおりを挟む

その男性は意味が分からないようで、蓮に真っすぐ向き合うように立った。

「蓮、俺に分かるように説明してくれ。」

すると、蓮はその男性の威圧感に怯えたような表情をしながら話を始めた。

「僕が全部悪いんだよ…実はね…」

蓮は自分がシャワーを出したまま寝てしまった事、家じゅうが水浸しになった事、下に住んでいる私の部屋に水漏れをさせてしまった事、すべて正直に話をしたのだ。
蓮は話を終えると、深くその男性に頭を下げた。

「兄さん、だまって部屋を借りてごめん…でもそこに居る唯さんを追い出したりしないで欲しい。」

すると、その男性は蓮の肩をポンと叩き笑顔を向けた。

「蓮、やってしまった事は、もう仕方ない。でもご迷惑をかけたことにはお詫びをしないとならないな…だから頭を下げるのは俺じゃないだろ…俺も蓮の兄として責任がある。追い出すなんてするわけがない。」

蓮のお兄さんは蓮の頭に手を置いて、私の前で頭を下げさせた。
そして、自分も深く私に向かって頭を下げたのだ。

「知らなかったとはいえ、申し訳ない。弟の蓮が大変ご迷惑をお掛けしてしまい、兄としてもお詫びをしたい。」

私は頭を下げる二人に向かって慌てて声を出した。

「あ…ああの…もう頭を下げないでください。私こそ蓮君のお兄さんの家と知りながら勝手に着いて来たし…でも、明日の朝には出て行きますから…だから、それまでここに置いていただけませんか。」



こんな真夜中にどこかに放りだされても困る。

私は失礼を承知の上で、蓮のお兄さんへ明日までここに居させてくれるよう頼むことにした。
すると、蓮のお兄さんは優しい微笑を浮べた。

「もちろん、出て行けなんて言わないよ。それに蓮がご迷惑をお掛けしたのだから、部屋が元通りになるまで居てくれて構わないよ。ホテルの方が良ければこちらで手配も出来るし、君の好きな方にして欲しい。…でもホテル住まいは長くなると結構不便だから、嫌じゃなければここを使って欲しい。使っていない部屋もあるから、自分の家だと思って自由に使ってもらって構わないよ。」

蓮のお兄さんはとても優しい人で良かった。
しかも、先程まで慌てていて気が付かなかったが、美少年の蓮に負けず劣らず、むしろ大人の魅力がプラスされている。
美丈夫?眉目秀麗?ありとあらゆる言葉を浮べるが、言葉では言い表せない美しい姿。
涼しげな目元は少しブラウンで蓮と同様に日本人離れしているが、どこかエキゾチックな雰囲気もある。
ふわりとした柔らかい感じのダークブラウンの髪を少しウェットにビジネス仕様に整えている。
ローマ彫刻を彷彿とさせるのような鼻筋と、バランスの良い少し薄い唇。
どこから見ても非の打ち所がない絶妙なバランスの美形。

それにこれだけの家に住んでいるのだから、当たり前かもしれないが、紳士的でいかにも社会的地位もありそうな男性ではないか。

私が答えに困っていると、その男性は高い身長を私と同じ目線になるように屈むと、私の顔を覗き込むようにしてもう一度微笑んだのだ。
美形がこんなに近くで微笑むと、ものすごい破壊力だ。
私の心臓は急にドクリと大きく跳ねあがり、飛び出してしまいそうな勢いだ。

「唯ちゃんと言ったよね。…僕は玲也(れいや)、橘 クロード 玲也と言います。知らない男で不安だと思うけど、部屋にはそれぞれ鍵がかかるから…どうかな?それに弟のお詫びもしたいから、ここに暫く居る事にしてくれないかい。」

そこまで言われると、断りずらくもなる。
結局、部屋が直るまで、ここにお世話になることになった。
しかし、こんな魅力的な男性と一緒に暮らすなんて、心臓が持つか不安なくらいだ。

そして、今日はもう深夜と言う事もあり、私は用意してくれたゲストルームで休むことにした。
ゲストルームも思った以上に豪華なつくりだ。
部屋の中にシャワールームまでついている。
ちょっとした高級ホテルよりも、豪華なうえに居心地が良さそうだ。

大きなベッドが部屋の中央にあり、私はそこに向かって仰向けにポスっと音を立てて寝てみた。
私の家にあるベッドはまだ3年くらいしか使っていないのに、最近は寝返りを打つと、ギシリと音が出るようになってきたのだ。
安物に飛びついた自分に後悔していたところだった。
しかし、このベッドはさすがに高級なのか、音どころか体の沈み具合も心地よい。
コロンと寝がえりを打っても、体を包んでくれるような寝心地だ。

今日はいろいろなことが有り過ぎた。
自分では気が付かなかったが、そうとう疲れていたようだ。
布団に入って間もなくして意識がなくなっていた。



白皙の美青年である蓮、そして大人の色気が駄々洩れの美男子である玲也。

災難からの偶然ではあるが、こんな美しい兄弟と出会ったことはない。

そして、見ず知らずの人の家に泊まらせてもらうのも初めてだ。
私の頭の中はもうパニックで処理が追い付かない。
無意識に考えることはもうやめていたようだ。

そして、いつしか私は夢を見ていた。


どこか救われた気持ちになっていたのだろう。不謹慎ではあるが、気持ちは楽になっていた。

夢の中に、大好きだった姉が出て来たのだ。
姉は微笑んで何かを言っている。言葉は聞こえないが、何かを言いながら笑顔でうなづいて居るのだ。
まるで、『良かったね』と嬉しそうな表情にも見えるのだ。

「待って!行かないで!お姉ちゃん!」

大きな自分の叫び声で目が覚めた。
姉が夢の中で手を振って消えてしまったのだ。

「夢だったんだ…。」

私は小さな声で呟きながら、ゆっくりと起き上がった。

笑顔の姉は、私の気持ちなのだろうか。

辺りを見回すと、ここは蓮が昨日連れて来てくれた兄の玲也の家だ。
私は窓に近づきカーテンを開けた。
朝日に照らされた美しい街が視界に飛び込んでくる。
昨夜は夜のため見えなかったが、高層階からの景色はかなり遠くまで見渡せる壮大な景観なのだ。
遠くには富士山と思われる山も見えている。

「すごい!遠くのビルや富士山まで見える!」

本来なら落ち込んで朝を迎えるはずの状況だが、なんだか少し浮かれている気分になってしまう。
私はフルフルと顔を左右に振って冷静を装うと、ドアを開けて部屋を出た。

すると、パンの焼ける香りだろうか、香ばしい匂いが部屋に充満していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...