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第6章
第87話 第二王子の暴走と危機
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セイエン様は深々と頭を下げた。まだ解毒が終わったばかりで、体がふらついている。ソファに横になるよう勧めたが、背もたれに寄りかかるだけで眠る気はないようだ。
「感謝は元気になった後で受け取ります」
「……そうのんびりしていられない。奏波たちからどこまで話を聞いている?」
「今回の騒動の首謀者は、第二王子だということぐらいでしょうか……」
「第二王子は強引にも城内を占拠する形で玉座を得ようと考えた」
「そんな!?」
「もっとも狙いは、グエン国王と私だ。だから、それ以外の被害を出さないように眠りの魔法──または魔導具を使ったのだろう」
(そしてセイエン様を毒殺しようとした……。本当に標的は二人だけなのかしら?)
ふとローズの帰りが遅いことに気づいた。建築物の中ならシルキーはほぼ無敵だ。限定的な空間ではあるが、そのローズが苦戦するだろうか。それとも途中で何か予想外の出来事があったとしたら。
不安になり立ち上がろうとした私に、セイエン様は手首をつかんだ。
「ソフィ様、ところで奏波と来波はどこに?」
「あ、えっと。疲れていたので私の寝室を使ってもらっています」
「……え。貴女の?」
「はい。幸いベッドは広かったので、二人寝ても大丈夫な広さですよ」
「いや、そうではなく──。なんと羨ましい……」
「?」
心底悔しそうにしているのだが、体の傷は痛まないのだろうか。なんとも嫉妬する部分が人とズレている気がした。いや、フェイ様に似ているかもしれない。
「それよりも解毒しましたが、細菌が入らないように消毒して包帯を巻いておきますね」
「有り難い。ぜひお願いする」
救急箱はダイヤ王国から持ってきたものを使うことにした。この部屋にも救急箱はあるが、安全かどうか確認するのがいちいち面倒だからだ。確かにこんな風な生活をしていたら、神経がすり減りそうだわ。
(時間跳躍の時間軸でフェイ様が気を張っていたのが、なんとなく理解できるわ)
「手当慣れしているだな」
「そうでしょうか。……よくジェラルド兄様やフェイ様が模擬戦をするので、少しだけ覚えました。最初はぐるぐる巻きにして、よくからかわれたものです」
思わず懐かしくて口元が緩んでしまった。
「そうか……。本当にどこにでも現れるのだな」
「え?」
「いや何でもない。……ここもあまり長居は出来なさそうだ」
セイエン様の目つきが変わった。
刹那、ドアを叩く音が部屋に響く。普通のドアであったなら壊れるほどの衝撃、肌で感じる敵意に身が震えた。
「ソフィ様。何か上に羽織るものはありませんか?」
「え、あ……。外套なら」
「ありがとう。少しの間お借りします」
「はい」
寝室のクローゼットから外套を持ち出すと、セイエン様に手渡した。
男女兼用の外套なので、そこまで可笑しくないだろう。寝室で寝ていたソウハ様とライハ様の姿はなかった。すでに避難したのだろうか。
(この城の構図はだいたい把握しているけれど、抜け穴とかあったのかしら?)
「ソフィ様?」
振り返るとセイエン様は外套を羽織っており、中々に似合っていた。
纏う空気は昼間とは別人で、にじみ出る気品と、堂々とした佇まい。何より化粧をしてないセイエン様は、精悍な顔立ちをしている。この状況に対して彼は冷静で落ち着いていた。
「この部屋は、シルキーが守りの加護をしたので頑丈ですが、短時間なら吸血鬼の力を覚醒させた我々が上回る」
「吸血鬼……?」
迫りくる敵の攻撃は徐々に増し、ドアやその周囲の壁に亀裂が入った。漏れ出した敵意、いや殺意は獰猛な獣に近い。もはや柵や檻のない猛獣と対峙するような圧力に、押し潰されそうになる。
(怖い……! フェイ様っ!!)
「感謝は元気になった後で受け取ります」
「……そうのんびりしていられない。奏波たちからどこまで話を聞いている?」
「今回の騒動の首謀者は、第二王子だということぐらいでしょうか……」
「第二王子は強引にも城内を占拠する形で玉座を得ようと考えた」
「そんな!?」
「もっとも狙いは、グエン国王と私だ。だから、それ以外の被害を出さないように眠りの魔法──または魔導具を使ったのだろう」
(そしてセイエン様を毒殺しようとした……。本当に標的は二人だけなのかしら?)
ふとローズの帰りが遅いことに気づいた。建築物の中ならシルキーはほぼ無敵だ。限定的な空間ではあるが、そのローズが苦戦するだろうか。それとも途中で何か予想外の出来事があったとしたら。
不安になり立ち上がろうとした私に、セイエン様は手首をつかんだ。
「ソフィ様、ところで奏波と来波はどこに?」
「あ、えっと。疲れていたので私の寝室を使ってもらっています」
「……え。貴女の?」
「はい。幸いベッドは広かったので、二人寝ても大丈夫な広さですよ」
「いや、そうではなく──。なんと羨ましい……」
「?」
心底悔しそうにしているのだが、体の傷は痛まないのだろうか。なんとも嫉妬する部分が人とズレている気がした。いや、フェイ様に似ているかもしれない。
「それよりも解毒しましたが、細菌が入らないように消毒して包帯を巻いておきますね」
「有り難い。ぜひお願いする」
救急箱はダイヤ王国から持ってきたものを使うことにした。この部屋にも救急箱はあるが、安全かどうか確認するのがいちいち面倒だからだ。確かにこんな風な生活をしていたら、神経がすり減りそうだわ。
(時間跳躍の時間軸でフェイ様が気を張っていたのが、なんとなく理解できるわ)
「手当慣れしているだな」
「そうでしょうか。……よくジェラルド兄様やフェイ様が模擬戦をするので、少しだけ覚えました。最初はぐるぐる巻きにして、よくからかわれたものです」
思わず懐かしくて口元が緩んでしまった。
「そうか……。本当にどこにでも現れるのだな」
「え?」
「いや何でもない。……ここもあまり長居は出来なさそうだ」
セイエン様の目つきが変わった。
刹那、ドアを叩く音が部屋に響く。普通のドアであったなら壊れるほどの衝撃、肌で感じる敵意に身が震えた。
「ソフィ様。何か上に羽織るものはありませんか?」
「え、あ……。外套なら」
「ありがとう。少しの間お借りします」
「はい」
寝室のクローゼットから外套を持ち出すと、セイエン様に手渡した。
男女兼用の外套なので、そこまで可笑しくないだろう。寝室で寝ていたソウハ様とライハ様の姿はなかった。すでに避難したのだろうか。
(この城の構図はだいたい把握しているけれど、抜け穴とかあったのかしら?)
「ソフィ様?」
振り返るとセイエン様は外套を羽織っており、中々に似合っていた。
纏う空気は昼間とは別人で、にじみ出る気品と、堂々とした佇まい。何より化粧をしてないセイエン様は、精悍な顔立ちをしている。この状況に対して彼は冷静で落ち着いていた。
「この部屋は、シルキーが守りの加護をしたので頑丈ですが、短時間なら吸血鬼の力を覚醒させた我々が上回る」
「吸血鬼……?」
迫りくる敵の攻撃は徐々に増し、ドアやその周囲の壁に亀裂が入った。漏れ出した敵意、いや殺意は獰猛な獣に近い。もはや柵や檻のない猛獣と対峙するような圧力に、押し潰されそうになる。
(怖い……! フェイ様っ!!)
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