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第3幕

第37話 新たな可能性・前編

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 ぷい、と視線を逸らしたシン様は不服そう──いや、照れ隠しだったのか少しだけ頬が赤い。こんな風に表情を見せるのもシン様が留学した変化の産物だろうか。少なくとも時間跳躍タイムリープの時間軸で出会ったシン様は、そのような表情をすることはなかった。

「ちなみに私はソフィにどのような物を贈ったのだ? 今後の参考までに知りたい」

 時間跳躍タイムリープの時間軸でシン様から何か貰った記憶は──ない。
 思い出したら悲しくなってきた。

「まさか、一つも」
「あ、ええっと……」

 沸々と怒りを露わにするシン様に必死に思い出す。一つだけ覚えているのがあった。

「ええっと、真っ白な百合が入った箱と短剣……だったような」
「……短剣?」
「はい。……ああ、でもそれは婚約破棄の後ですから、贈り物だったかは不明ですが」

 シン様は神妙な顔で何か考え込んでいた。
 もしかしたらスペード夜王国では短剣を贈ることに、何か特別な意味でもあるのだろうか。

「話を戻すとして、二つ目に夢で見た際のスペード夜王国の情勢について、どこまで覚えているか教えて欲しい」
「と言いますと?」
「婚約破棄に、四か国同盟の破棄。これは私一人で決断できるものではない」
「え、でも……」
「私の王位継承権は婚約を結ぶ前に放棄しているので、王族としての権威はほとんどない。そしてスペード夜王国ではダイヤ王国に対して、同盟破棄をせざる得ない状況がないと可笑しい。そもそもダイヤ王国と戦争をしてもメリットがないからだ。むしろマイナスいえる」
「シン様もそうお考えなのですね」
「ああ」

 私よりも現実的かつ冷静に分析するシン様の指摘に驚きの連続だった。確かに私も最悪の未来を回避するために情報を集めていたが、他国の情勢など複雑に入り組んだ状況で、過去の時間軸とどのようにズレているのか判断は難しい。
 それをシン様は一つずつ明確にしていく。

「スペード夜王国は《クドラク病》に苦しむ者が多く、症状を抑える特効薬の開発に力を入れている。次に王位継承権を巡る皇子同士の骨肉の争い、地下街にある違法カジノと人身売買、階級差別──それらが火種となり、ダイヤ王国を侵略するという未来を想像したが、やはりそれでも考えにくい。そもそも妖精と共存している国に戦いを挑むなど愚の骨頂だ」
「(そうだ。過去の時間軸では妖精たちの姿は減っていった)……もし妖精たちの力が衰えていたとしたら?」
「だとしても、妖精の加護や恩恵はあったのだろう」
「恩恵は……そうですね。あったとおもいます」
「なら戦争を起こすほうがデメリットだ」
「それならどうして同盟解除が起こったのですか? 原因があったからじゃないの!?」

 思わず声を荒げてしまった。原因があったからこそ、それらを潰そうと私は抗った。時間跳躍タイムリープの時間軸でもそうだ。それだというのに、シン様の言葉はそれら全てを否定するように聞こえてしまう。
 私の行動は、無意味だったと。
 そんなこと一言も言っていないのに。そう勝手に受け取ってしまう。

「ソフィ」
「……大きな声を出して、……ごめんなさい」

 シン様はそっと私の背中を擦って落ち着くまで待ってくれた。
 やはり子供の体は感情的になりやすい。淑女として声を荒げるなど、あってはならないのに。

「ソフィ。こういう時は考え方を変えるべきだ。原因があったから滅んだのではなく、、と」
「え」
「敵の目的が最初から『ダイヤ王国の滅亡』だとしたら、各国で燻っていた火種を炎上させ仕向けることは難しくない」
「なんで……そんな結論になるのです?」
「ダイヤ王国は妖精と精霊の加護がある。その加護や恩恵でも太刀打ちできなかったから、国は滅びたのだろう。だとしたら背後にいるのは妖精や精霊と拮抗する、いやそれを上回る存在がいると考えられないか」
「あ……」
「その夢の中で妖精や精霊は居たか?」
「いたけれど……声は届かなくなって、妖精たちも……あ!」

 あまりにも当たり前すぎる疑問。
 いつも傍に居た妖精たちや精霊の存在がやり直しの中で薄れていったこと、私自身その事実に気づいていなかった。

(ううん。オーレ・ルゲイエは何か知っているようだけれど、誤魔化していたから言及しなかった。それが関係している?)
「その私が贈った短剣だけれど、恐らく付与術式が組み込まれていたのだと思う」
「付与術式?」
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