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最終章

最終話 誕生日パーティー1-2

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「ところで、ラッピングリボン巻きされているのは、どのような趣向があるのですか?」
「え、あ。これは──」
「もしかしてオリビアが贈り物とか!?」

 歓喜する尻尾を見た瞬間「違います」と反射的に口に出てしまった。それでも「この姿もかわいい」とセドリック様に抱き付かれたのはいつものことだ。
 その後、セドリック様が執務に戻った(アドラ様に引きずられていった、が正しいけれど)ので、待たせていた料理長のジャクソンさんと話を詰めることにした。

 ジャクソンさんは狼人族で、外見は三十代後半だが年齢は百二十歳らしい。頬に傷がある強面な上、長身なので威圧的に感じる人も少なくないとか。
 鬼の料理長とも呼ばれているのだが、私には優しく接してくれる。

「セドリック殿下は木苺が好まれているので、見栄えとしてスモモ、キウイを砂糖漬けにしてフルーツを使いましょう」
「タングルという砂糖漬けね。宝石みたいで綺麗になりそうね」
「はい。……きっと殿下も喜ばれるでしょう」
「ふふっ、そうね。そうなるように当日は頑張らないと」

 ジャクソンさんは眉間に深い皺を寄せることが多いらしいが、私と話す時はいつも穏やかだ。どこか懐かしむような、そんな顔をするのは少し不思議だけれど。

「貴女様とまた一緒に厨房に立てる日が来るとは……長生きをするものです」
「え?」
「いえ。何でもありません。ささ、作る時間ですが──」

 当日の料理とケーキの話を終えて、次に向かったのは城の皿やカップなどの陶器などを作るドワーフ族たちの工房だ。サーシャさんが根回しをしていてくれたおかげでこれから焼き上げるカップをいくつか見繕ってくれた。

「おお、オリビア様。こんな場所によく来てくださった!」
「オリビア様。おーいオリビア様が来てくれたぞ!」
「おお!」

 彼らも私に対して好意的に接してくれる。ただ不思議なのはジャクソンさんと同じように微笑ましいというか生暖かい視線を受け、歓迎されることだ。
 たまに「やはり腕は鈍っていないようで」とか「素晴らしい器用さだ」と称賛してくれる。もしかしたら記憶を失う前にどこかで会っている──のだろうか。
 けれど誰もそこに対して言及することも、名乗り出ることもなかった。ただ今の私を受け入れて優しく接してくれている。

(なんだか昔の自分の言動が巡り巡って今の私に戻ってきているみたい)

 記憶がないことを寂しいと思わない。ただ記憶を失う前の私は搾取されていたかもしれないが、それだけではなかったことが嬉しかった。

「城の人たちはみんな優しいのですね」
「それはオリビア様の人徳です!」
「その通りかと思います」

 サーシャさんとヘレンさんは自分のことのように喜んでくれた。いつも助けてくれる二人に、髪留めを送った。ヘレンには銀で作った羽根模様、サーシャさんは大人っぽい金の薔薇と真珠が付いているものにした。
 二人とも飛び上がるほど喜んでくれたようで、贈る相手は喜んでもらえるほうが嬉しい。

 そんなこんなで準備も一段落したところで夕食になった。
 夕食になるとセドリック様が部屋に来るのだが、執務室で仕事が残っているらしく私が迎えに行くことになった。
 廊下の途中でローレンス様を見つける。温室の薬草の世話をした帰りなのだろう。歩み寄ろうとしたら、何もないのにつまづいてしまった。とっさにローレンス様に支えてもらったので、転ばずに済んだ。

「ローレンス様、すみません」
「いえ。……足が完治したとはいえ気を付けてくださいね」
「はい」
「それで、なにか私に用があったのですか?」
「あ、あの実は明後日はセドリック様の誕生日でして、よければみなでお祝いの席を設けようと思うのですが、ご都合が合えばいらしていただけないでしょうか?」

 ローレンス様は目を細め「それはおめでたいことです」と微笑んだ。
 足の怪我が完治した後も、私の健康状況を確認するため二週間から三週間に一度診察を受けている。これはセドリック様の心配性な部分もあると思う。

「しかし私などが参加してよろしいのでしょうか」
「もちろんです。こういったのはみんなで祝うのが楽しいものだと思います」
「ふふっ……。たしかにそうかもしれませんね。では私も楽しみにしております」
「はい。場所は後でサーシャさんからお手紙を送るようにしますね」

 話を終えてローレンス様と別れたのち、執務室に赴くと──なぜかセドリック様の姿がなかった。兄王のディートハルト様はなんとも複雑そうな顔をしつつ、「机の上に置手紙がある」と告げた。
 小首を傾げつつ机の上にある手紙を手に取り、そこには達筆な字で「探してください」と書かれている。

(え、ええっと……。この場合、『探さないでください』と思うのだけれど……)

 斬新というか「置手紙とは?」といろいろ思ってしまう内容だった。いつもなら執務室に入った途端、抱擁とキスの嵐が来るのだがセドリック様に何か心境の変化があったようだ。

「ディートハルト様、セドリック様がどこに行ったかわかりますか?」
「あー、うん」

 目線を隣の仮眠室に向けると、扉が開いておりチラッとセドリック様の姿が見えた。隠れる気のないかくれんぼをしている気分だったが、仮眠室へと向かった。
 部屋の中に居ると思ったのだが、カーテンと窓が開いている。

「ええっと、これは……逃げられた……ということでしょうか」
「ああ、あれはセドリックが昔よく使っていた手法で《拗らせ病》だから、面倒なら放っておけば一年ぐらいで戻ってくるから」
「一年!?」

 竜魔人にとっての一年は短いと聞いたことがあるが、それにしても探さずに一年も放置というのはいいのだろうか。
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