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最終章

第21話 王太子クリストファ殿下の視点3/悪魔ラストの視点1-2

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「ようやく本体をさらけ出したな、色欲ラスト
「ほんと、中々現れないから不安だったけれど、やっと殺せるわ」

 忌々しい天使族の娘と、同族でありながら私を殺そうとする悪魔族の小僧。

「なぜエレノアの器を悪魔が奪ったと気づいた?」
「お前の行動パターンならお見通しだ、同じ悪魔だから、わかることもある」
「チッ」

 エレジア国に逃れた後、ちょうど絶望の淵に居た娘を見つけた魂を食らった。以前使っていた侍女の器は損傷が激しく、聖女エレノア異世界人の器を手に入れたというのに。クリストファのせいで髪や肌がボロボロだがこの際しょうがない。精神的に疲弊していたので魂を食らって器を奪うのは容易かった。、オリビアに関わったことで運命が変わった。自身の行いによる報いと言うべきか。
 この器の娘は簡単に絶望したのに、オリビアは折れなかった。眼前の悪魔は私と同類なくせに、どうしてそっち側でいられるのか。苛立ちが抑えられない。

(あの魂を絶望させ、それを食らえば……分かるかもしれない。あの特別な魂を!)
「リヴィには、もう絶対に手を出させない!」

 真っ赤な長い髪に凛とした美女天使は白銀の甲冑に身を纏い、巨大な魔法陣を展開する。あれは──亜空間。あの中に連れ込まれたら、逃げられない。すぐさま離脱しようとしたが、両手両足ともに漆黒の鎖に繋がれていた。

「ばーか、逃がすかよ。お前はここで殺す」
「ふざけるな……。やっと、あとちょっとだったのに……」

 同族の癖に天使族と手を組んだ恥知らず。使い魔である触手はセドリックが瞬殺。魔物を呼び寄せるために作った亀裂も既に封じられ討伐されている。対応が早過ぎる!
 奥の手に取って置いた神官使い魔に命じる。ここは撤退しかない。大丈夫だ、ここを逃れてもっと時間をかけてオリビアの魂を奪えばいい。

 魔導具の《蝴蝶乃悪夢バタフライ・ナイトメア》は私の核の一部で作った。。悪夢を解除できるのは私だけ!

神官お前たち、アレを止めろ!」
「ハハッ!」
「承知しました」

 使い魔にした神官たちに相手をさせたが、第三者によって斬り伏せられ炭化して消えた。凄まじい魔力を感知し、竜魔王かと思ったが──そこにいたのはディートハルト前竜魔王と、その妻である天使族のクロエだった。ありえない。
 二人とも石化したまま解除されていなかったはず。
 百数年という時間の流れを感じさせない程二人は、以前と変わらぬ美貌と魔力を備えて私の前に現れた。

「ば、馬鹿な。お前は──」
「百数年ぶりか。お前の始末は竜魔王である我が請け負うと決めていてね。弟には迷惑をかけた分、この先の相手は我ら四人でさせてもらう」
「ふ、ふざけるな! ようやく見つけた至宝の魂を目の前にして諦められるか!」

 今こそ百数年間の悪夢を見せ続けたフィデス王国国民から負のエネルギーを根こそぎ奪って──。そう思った直後、急に力が衰え、魔力が失われていく。

「な、なぜだ。私は百年以上前から、準備をしてきたというのに!」
「はっ、それはこっちの台詞だ。百三年前にリヴィが石化魔法を使った段階で、お前の負けは決まっていたんだよ」
暴食グラトニー、お前が、魂を食らったのか!?」
「いいや。俺が食ったのは記憶だよ。リヴィに関する記憶だ。お前はリヴィを利用して負の感情や魂を集めていたのだろう。だが、肝心のリヴィが覚えていなければ意味はない」
「なっ……」

 眼前の悪魔は、リヴィの記憶を食らい私の魔力増幅を防いだ。
 そして全ての準備を整える為にディートハルトとクロエは雲隠れした。
 天使族と悪魔族の共闘?
 ありえない。悪魔族は自分の愉悦のために生きる存在だ。
 他者の為に動こうとなど考えない。そういう風に出来ていない。
 まるで他種族として認められ、受け入れられている悪魔族の少年に嫉妬し、憎悪し、激高した。

「この悪魔の出来損ないが! 悪魔族の癖に、私と同じ、人間の闇から、泥から劣悪な場所から生まれたくせに! そっち側で、輪の中に入っているんじゃない!」

 蝙蝠の翼を生やし、両手に漆黒の鎌を携えて漆黒の鎖を引きちぎる。
 かつてないほどの怒りが、私の中で燃え上がった。

「お前だけはあああああああああああああああ!」

 暴食グラトニーめがけて突貫する。それに合わせて暴食グラトニーは、漆黒の槍を生み出し、私に向けて投擲した。その速度と威力は肩を抉り、速度が落ちた瞬間、ディートハルトが背中から私を突き刺した。

「があっ……」
「滅びろ、色欲ラスト

 崩れ逝く私を天使族の二人が亜空間へと誘う。あの隔絶された空間内で死ねば復活は不可能。
 終わり、死ぬ。
 蝙蝠の羽根は消え、体も崩れて亜空間へと落ちた。
 隔絶された世界。
 誰もいない何もない──世界。

 悪魔は孤独だ。
 私の能力は相手を洗脳すること。その力があれば誰も彼もが私に良くしてくれる。
 私を褒めてくれる、贈り物もくれるし、愛してくれる。
 でも、傍には居てくれない。
 だって私は悪魔だから。
 私の近くに居れば人間の魂を吸収エナジー・ドレインして殺してしまう。それは止められない。
 仲良くなっても、仲間になっても、家族であっても殺してしまう。
 昔、お人好しの伯爵家があった。優しくて、温かい。そんな人たちの絶望した顔が未だに忘れられない。当時のことはあまり覚えていないけれど、
 心から満たされた深みのある味わい。

(ああ、あの魂を──宝石のように輝く魂を食らうことができれば、私も……今度こそ……)
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