上 下
12 / 56
第1幕

第6話 王城での生活1-1

しおりを挟む
(宿泊代、治療費、入浴にエステマッサージ、ドレス代、メイク代だけで一年分の働いた賃金が吹っ飛びそう……)

 現在、鏡に映る自分の姿は、どこに出しても申し分ないご令嬢に見える。詐欺ともいえるほどのメイク技術に脱帽した。花柄のワンピースに髪まで綺麗に結ってくれたのだ。身に着ける耳飾りやネックレスはもはや値段など考えないようにしている。

 昨日は胃の消化にいいものとして、ジンジャーと野菜のコンソメスープ、デザートはゼリー系など固形物を避けてくれたようだ。スープの中に虫の死骸もないし、スプーンやフォークを隠されることなどもなく久しぶりにお腹いっぱい美味しいものを食べた。
 食後に話をする予定だったのだがセドリック様が部屋に訪れる前に、私はそのまま眠ってしまった──らしい。元々寝不足だったのもあるだろう。
 眠っている私をセドリック様が寝室まで運んでくれたそうだ。しかもそれからしばらくは傍についていてくれたとか。
 それをサーシャさんから聞いて、羞恥心で死にそうになった。

(ああ、でも、ふかふかで石鹸のいい香りのするベッドでの睡眠は最高だった……)

 翌日も昼前に起床し、ヘレンさんとサーシャさんが着替えを手伝ってくれた。着替えが終わった後で、ローレンス様は私の足に新しい包帯を巻いて──至れり尽くせりだ。
 諸々が終わってカウチソファに腰を下ろした瞬間、あまりの柔らかさに驚いた。自分の部屋の硬いソファとは全く違う。

(あー、これは人をダメにしてしまう椅子だわ。昨日のアワアワお風呂もすごかった。気付いたら寝てしまって、セドリック様と話が出来なかったのは申し訳ないけれど)
「オリビア。食事の準備ができたそうですが──」

 ひょっこりと姿を見せたセドリック様の姿に背筋を伸ばした。部屋を訪れた陛下は私の姿を見て固まっている。そこで自分が座っていることが不敬だと思い、慌てて立ち上がろうとして失敗した。崩れ落ちる私をセドリック様は素早く抱きかかえた。

「も、申し訳ありません!」
「いえいえ。役得です」

 かなりご満悦だ。私に触れる口実が出来たとばかりに、傍にあるソファに私を抱えたまま腰を下ろした。距離感的に絶対に可笑しいのだけれど、壁に佇んでいる衛兵たちは微笑ましい視線を向けるだけだ。王族としてかなりマナー違反なきがするけれど、グラシェ国は違うのだろうか。

「セドリック様、申し訳ございません。その──」
「オリビア、とてもよく似合っています。すごく可愛らしい。ああ、このまま神殿で式を挙げてもいいぐらいです」
「え、ええ!?」
「あ。もしかしてまだ私を子ども扱いなさいますか? 貴女が目覚めるのを待っている間にそれなりに成長したとは自負しているのですが」
「子ども扱いは……していません」
「よかった」

 どうみても成人した男性にしか見えない。けれどセドリック様の言葉尻からこの方は、百年前から私との時間が止まっているようだ。百年前に私は幼いセドリック様と出会った。何があったのか思い出せないままだけれど。

「オリビアは竜魔人の求愛について覚えていますか?」
「すみません……」
「謝らないでください。竜魔人は生涯の伴侶を見つけると、自分の匂いが染みつくまで離さない習性があるのです。けれどそれが難しい場合、神殿で契約を結ぶことで繋がりを濃くします」

 セドリック様の話では匂い付けや契約を結ぶ──結婚することによって私の安全を確固たるものにしたいらしい。それも私が人族だからだ。多種多様な種族が居る中で、最弱の人族を守るためには陛下の庇護下にあるだけでは足りないという。
 それ以外にも何か急ぐ理由があるのかもしれない。たとえば──など、立場を持っているのなら王族の義務が発生するのも当然だ。

 エレジア国で私がクリストファ殿下や聖女エレノアの評価を上げるための駒として使われたように、ここでも同じ扱いを受ける可能性だってある。甘い囁きと都合のいい言葉を並べて信じ込ませる手口はどこも同じなのだろう。それでももしかしたら──セドリック様は違うかもしれない。言葉一つ一つに温かみがあり、私を気遣ってくれているのがわかる。だからこそ早めに確認してしまおう。
 淡い期待をもたないように。幻想はすぐに砕けてしまえばいい。

「あ、あの……セドリック様に、このようなことを尋ねるのは……不敬かもしれないのですが──」
「なんでも言ってください。貴女に遠慮されると悲しくて泣いてしまいそうです」

 グッと拳を握りしめ、口を何度か開閉しつつ言葉を紡ぎ出す。

「私は……生贄として召し上げられた……のではないですか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

【完結】聖女の力を失った私は用無しですか?~呪われた公爵様に嫁ぎましたが、彼は私を溺愛しているそうです~

八重
恋愛
コルネリア・ルセックは聖女として教会に併設された孤児院で二歳まで育ち、子に恵まれなかったルセック伯爵夫妻に養子として引き取られる。 だが、このルセック伯爵はコルネリアの強い聖女の力を、金儲けの道具として使って富と名声を得る。 そんな時、突然コルネリアは聖女の力を失くしてしまった……! 力を失って役に立たなくなった彼女を、ルセック伯爵夫妻は冷遇して地下牢に閉じ込めてしまったのだ。 そうして彼女は徐々に感情を失っていく── 一方、彼女が教会にいた時に一目惚れしたレオンハルトは、若くして公爵の地位についたその後、17歳になった彼女を救い出す。 彼に溺愛されるうちに、コルネリアは感情を取り戻し、そして彼に惹かれていく。 しかし、そんなレオンハルトにも新月の夜に子供の姿になってしまう呪いにかけられていた……! 力を失った虐げられ聖女×ショタ化する公爵の、不思議で甘々溺愛シンデレラストーリー! ◆第一部(全28話+閑話3話)、第二部(全17話)でお届けします! ※他のサイトでも公開しております (小説家になろう先行公開です) ※タイトル変更しました(旧:力を失ったことで虐げられて感情が欠けた聖女は、秘密を抱えた公爵様に甘々に溺愛される)

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

処理中です...