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第7話 呪い持ちの鼬瓏の視点1

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 呪いなど王宮内では日常茶飯事だった。
 私も、颯懍ソンリェン様も呪いには耐性があったし、邪気を祓うだけの力と武力は幼い頃から指南役に叩き込まれた。颯懍ソンリェン様が昼を照らすなら、私はアヤカシが跳梁跋扈する夜の世界を統べる。
 二人でこの皇龍国を支える──それが昔した約束だった。

 それが陰りを見せたのは蓬莱国の仙女、陽香月ヨウ・シィンユが第四王妃として見初められてからだ。四神に選ばれた彼女は後宮を掌握しようと暗躍したが、第一から第三王妃の異能によって退く。
 後宮の面倒事が終わったと思った途端、第四王妃は凶の兆しを進言した。後宮で望む地位と立場を得られないと悟ったからか、アヤカシ討伐などにも尽力した。

 颯懍ソンリェン様は「元気があっていい」とか暢気な事を言っていたが嫌な予感はあった。悪しき神は後宮を掌握しようと目論見、結界を逆手に取った。さらなる力を得るために四神を弱らせて喰らう。
 それによってより力を得ようと考えた。
 
 王宮の庭園。夕闇が傾く頃、そこに私と颯懍ソンリェン様は散歩がてら今後の話をする。供は庭園の傍に控えているが、ここなから会話を聞かれることもないだろう。もっとも私を忌む者たちからすれば近づきたくもないだろう。私は颯懍ソンリェン様の影なのだから。

「後宮が結界の中心であると悪しき神が気付いたからか、あるいは誰かの手引きか」
「手引きと考えるほうが妥当ではないですか? 陽家は特にアヤカシ関係に熟知しているし、最近の蓬莱国の噂もあまりよくありません。なにより彼女が嫁ぐと決まった時に、この呪いが生じたのですから、普通に考えれば真っ黒でしょう」
「四神の結界を強化するため嫁ぐのを認めたあたりから、策略は始まっていたのだろうな。それが陽香月ヨウ・シィンユか陽家当主の考えかは不明だが」

 それから一カ月もせずに、颯懍ソンリェン様は陽香月ヨウ・シィンユの指示通り、召喚儀式を許可した。彼女の宮を訪れるたびに瘴気を体内に蓄積される姿は見ていて痛々しかった。

(時間を稼ぐため、颯懍ソンリェン様を贄になどと……第四王妃は何を考えているのだ!?)

 傍から見れば凛とした利発そうな娘だった。だが、その本性は苛烈で自己中心的なものだと宮の花たちは話していた。何か画策している──そう警戒していたのに。

「第四王妃が術式で亡くなった!?」
「はい! 召喚術式は離宮で行われたのですが、魔法陣の発言は主上の目の前で展開したようなのです!」

 王宮からの知らせで、急ぎ颯懍ソンリェン様のもとへ急ぎ向かった。そしてそこで沙羅紗殿と出会う。
 女性の身で美しくも鋭い剣戟に驚きつつも、胸が高鳴った。
 これほどの研鑽を積むのにどれだけ過酷な道を歩んできたのだろ。

 黒い艶やかな髪、すらっとした美しい容姿に、意志の強さを感じる瞳。
 疎んでいるわけでも、忌む目でもない。
 ただ真っ直ぐに見つめる眼差しは心地よかった。

 電光石火、豪胆にて豪快。
 可憐な少女と言うよりも歴戦の武将のような雰囲気を纏ったものだった。
 だがその姿に惹かれている自分がいる。

 従僕なのかアヤカシを付き従え、信頼を寄せているソウゲツという存在が無性に腹立たしい。

(従僕だという割に密着しすぎてないか?)

 そんな視線を送っていたら、ソウゲツは私を一瞥したのち勝ち誇った顔で見下してきた。カチンときたのは、いつぶりだろうか。
 自分が呪われていたこと、颯懍ソンリェン様が内側から瘴気によって弱っていく事態よりも、なぜか腹立たしい。

(彼女の傍は賑やかだ。アヤカシたちもあっさりと心を開いて受け入れる)

 人と異なる存在であることも、彼女にとっては些末なことのようだった。あの四神を知人のように接することも、無邪気に笑うことも新鮮で、どんな考えと信念をもっているのか。
 何が好きなのか、何が嫌いなのか。
 元の世界に帰ることを強く願っている理由はなんなのか。
 気付けば知りたいことが増えていった。

(この気持ちに名をつけるとしたら、何というのだろう?)
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