溺愛の価値、初恋の値段

C音

文字の大きさ
上 下
170 / 175

二人で食べるオムライス 4

しおりを挟む

「海音、なんで閉めるの? 開けて」


飛鷹くんに叱られて、もう一度、そろそろと開ける。

キラキラしている桜の花びらを象った石を持つ指輪。
その指輪の曲線に沿う形で造られた、シンプルなデザインのもう一つの指輪。

素材はプラチナと思われる、二つの指輪が並んで収められていた。


(しかも、これ……だ、ダイヤモンド……だよね?)


「ひ、飛鷹くん……これ」

「婚約はしないけど、指輪くらいあってもいいかと思って」

「で、でも、指輪……二つある……」

「もう一つは結婚指輪」


(け、結婚……指輪。ということは、結婚する……の?)


ニコニコキラキラ王子様スマイルを炸裂させている飛鷹くんに、何か言うなんて、畏れ多くてできない。


「…………」


わたしが沈黙していると、王子様スマイルを消し、ぎゅっと眉根を寄せる。


「……結婚、したくないの?」

「えっ! し、シタイデス……」

「ちっとも嬉しそうに見えないけど」

「う、嬉しいよっ!? ただ、びっくりして……」

「海音は、俺をどんな男だと思ってるの? 結婚するつもりがない相手とは、寝ないって言ったよね?」

「…………」

「ほら、左手出して」


言われるままに差し出した左手の薬指に、二つの指輪を嵌められる。


「うん……似合う」


満足そうに笑う飛鷹くんを見て、ふと疑問が湧いた。


(結婚指輪なら……飛鷹くんも、するのでは?)


「あの、飛鷹くんの指輪は……?」

「あるよ」

「……しないの?」

「してほしい?」

「……うん」

「じゃあ、海音が嵌めて」


差し出されたもう一つの白い入れものには、わたしのものより少し大きな指輪が収められている。

取り出して、内側の刻印を見ればちゃんとわたしたちの名前が入っている。

大きな手を取り、長い指にそっと嵌める。


「……いつ、用意したの?」


さすがに、いくら飛鷹くんでも、昨日の今日で用意できるようなものではないだろう。


「帰国して、海音に会ってすぐ。きっと、こうなるってわかってたから」


自分の手と飛鷹くんの手に収まる指輪を眺めていたら、なぜか涙があふれた。

掴んだ手を放したくなかったけれど、苦笑しながら諭された。


「海音。オムライス、冷めるよ?」

「う、うん……」


促され、ようやく二人で作ったオムライスを頬張る。
味はしなくても食べられるだろうと思っていたから、ひと口食べて、驚いた。


(トマト、ケチャップ……?)


急いでふた口目を。さらにもうひと口、食べる。


(トマトケチャップ。卵。隠し味のカレー粉。タマネギ、ニンジン、鶏肉、ごはん……)



それ以上、食べられなくなった。



「どうしたの? 海音」



「塩辛い……」



「え?」



「飛鷹くん、塩入れすぎだよ」



しばし、飛鷹くんは固まっていたけれど、すかさず言い返した。


「そんなはずないっ! ちゃんとレシピどおり作ったからっ! 塩辛いのは、海音が泣いてるせいでしょっ!?」

「飛鷹くんだって……塩辛いと思ってるくせに」

「思ってないっ! 美味しいしっ!」


絶対に、わたしと同じく塩辛いはずなのに、むきになって言い返す飛鷹くんは、なんだかかわいい。


「……嘘つき」

「なんなの? 海音。俺と一緒に作ったオムライス、美味しくないの?」















「……美味しい」










しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

アーキテクト
恋愛
弟の主治医と女子大生の恋模様

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...