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二人で食べるオムライス 4
しおりを挟む「海音、なんで閉めるの? 開けて」
飛鷹くんに叱られて、もう一度、そろそろと開ける。
キラキラしている桜の花びらを象った石を持つ指輪。
その指輪の曲線に沿う形で造られた、シンプルなデザインのもう一つの指輪。
素材はプラチナと思われる、二つの指輪が並んで収められていた。
(しかも、これ……だ、ダイヤモンド……だよね?)
「ひ、飛鷹くん……これ」
「婚約はしないけど、指輪くらいあってもいいかと思って」
「で、でも、指輪……二つある……」
「もう一つは結婚指輪」
(け、結婚……指輪。ということは、結婚する……の?)
ニコニコキラキラ王子様スマイルを炸裂させている飛鷹くんに、何か言うなんて、畏れ多くてできない。
「…………」
わたしが沈黙していると、王子様スマイルを消し、ぎゅっと眉根を寄せる。
「……結婚、したくないの?」
「えっ! し、シタイデス……」
「ちっとも嬉しそうに見えないけど」
「う、嬉しいよっ!? ただ、びっくりして……」
「海音は、俺をどんな男だと思ってるの? 結婚するつもりがない相手とは、寝ないって言ったよね?」
「…………」
「ほら、左手出して」
言われるままに差し出した左手の薬指に、二つの指輪を嵌められる。
「うん……似合う」
満足そうに笑う飛鷹くんを見て、ふと疑問が湧いた。
(結婚指輪なら……飛鷹くんも、するのでは?)
「あの、飛鷹くんの指輪は……?」
「あるよ」
「……しないの?」
「してほしい?」
「……うん」
「じゃあ、海音が嵌めて」
差し出されたもう一つの白い入れものには、わたしのものより少し大きな指輪が収められている。
取り出して、内側の刻印を見ればちゃんとわたしたちの名前が入っている。
大きな手を取り、長い指にそっと嵌める。
「……いつ、用意したの?」
さすがに、いくら飛鷹くんでも、昨日の今日で用意できるようなものではないだろう。
「帰国して、海音に会ってすぐ。きっと、こうなるってわかってたから」
自分の手と飛鷹くんの手に収まる指輪を眺めていたら、なぜか涙があふれた。
掴んだ手を放したくなかったけれど、苦笑しながら諭された。
「海音。オムライス、冷めるよ?」
「う、うん……」
促され、ようやく二人で作ったオムライスを頬張る。
味はしなくても食べられるだろうと思っていたから、ひと口食べて、驚いた。
(トマト、ケチャップ……?)
急いでふた口目を。さらにもうひと口、食べる。
(トマトケチャップ。卵。隠し味のカレー粉。タマネギ、ニンジン、鶏肉、ごはん……)
それ以上、食べられなくなった。
「どうしたの? 海音」
「塩辛い……」
「え?」
「飛鷹くん、塩入れすぎだよ」
しばし、飛鷹くんは固まっていたけれど、すかさず言い返した。
「そんなはずないっ! ちゃんとレシピどおり作ったからっ! 塩辛いのは、海音が泣いてるせいでしょっ!?」
「飛鷹くんだって……塩辛いと思ってるくせに」
「思ってないっ! 美味しいしっ!」
絶対に、わたしと同じく塩辛いはずなのに、むきになって言い返す飛鷹くんは、なんだかかわいい。
「……嘘つき」
「なんなの? 海音。俺と一緒に作ったオムライス、美味しくないの?」
「……美味しい」
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