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モンスター料理

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「さて、それじゃあもうすぐお昼時でもあるし、トカゲ料理に挑戦するわよ」
「……はあ、仕方がないか」
 清美の言葉に、伊吹がため息をつく。

「私も見学させてもらっていいですか?」
 水沢が、清美にそう尋ねた。
「トカゲを捌くくらい、一人でできるけど?」
「いえ、未知のモンスターですし、純粋に解体するところを見学したいと思って」
「そう言うことなら、かまわないわよ」

「うーん。魚を捌く時の応用で何とかなるかと思ったけど、骨格が異なるから予想より難しいわね」
「皮を剥がすのにも、もう少し慣れが必要ですね」
「まあ、皮と内臓を取り除いておけば、鳥の骨付き肉みたいなものだから、食べられるわよ」

「ところで、内臓を調べていて気になったのですが、この心臓と対になった位置にある器官は何なんですかね?」

「どれどれ。中を切り開いてみるわね……。あら、中から奇麗な石が出てきたわ。もしかして、これが魔石かしら?」
 そう言って、清美は5ミリ角ほどの赤い石を、水沢に見せる。

「どうでしょうかね? 体の位置から見て、ただの砂嚢とも思えませんが……。とりあえず保管しておきましょう」

「それで、トカゲはどう料理するつもりですか?」
「コンソメで、野菜と一緒にポトフ風に煮込んでみようかと思うの」
「ポトフですか。いいですね」

 しばらくして、料理が三人の前に並べられる。
「これが、トカゲ料理か。見かけは脂身のない鶏肉っぽいのう」
「お味の方はと……うん、なかなかいけるじゃない」

「不味くはないが……普通じゃな。わざわざトカゲを食う必要があるとも思えんが……」
「確かに、ゲームでよくあるように、モンスターの肉を食べたら、他の物が食べられなくなるというほどではないわね」

 その言葉に伊吹がぎょっとする。
「おい、それは文字通りの中毒性があるということではないのか」
「まあ、今のところその様子もありませんし、大丈夫では?」

「むしろ、少しコクが足りない気がします。何日か冷蔵庫で熟成させてからの方が、よかったのかも知れませんね」
「余計なことを言うな」
「そうか、熟成かあ……何日か置いてから、また挑戦してみるわ」

「おや、ステータスを見ていたのですが、トカゲの肉を食べたことで1ポイントだけですが、経験値が入ったようです」
「1ポイントかあ。レベル1までに60回となるとどうなのかしら」
「そうですね……ですが、食事のたびに経験が入ると考えると、長期的には悪くないのかもしれません」
「……毎食、トカゲを食わせるつもりかい」

   ◇◇◇

 食事を終え、三人がリビングでお茶を飲んでいる時、清美が思い出したように水島に話しかける。
「ねえ、そういえばあの魔石はどうなったの」

「ここにありますよ」
 そう言って、ガラス瓶に入れられた石を見せる。
「そんな石ころが何かの役に立つのか?」

「魔石と言ったらすごいのよ。ネット小説なんかじゃ、万能のエネルギー源と言われているんだから」

「まあ、この石が魔石と決まったわけではありません。それに、万能のエネルギー源は明らかに言いすぎですよ」
「うーん。やっぱり?」

「ええ、ガソリン自動車に、この石を入れても動かないのは明らかでしょう?」
「そして、新しい燃料が開発されたからと言って、今自分が持っているガソリン自動車をわざわざ買い替えようとは、なかなか思わないでしょう」
「水素燃料や電気動力の自動車も、なかなか普及しないものねえ」

「かといって、発電所のような大型設備となると、さらに大変ですしね」
「既存の設備は、化石燃料や水力、原子力といった、既にあるエネルギー源に特化しています。これを別のエネルギー源に対応させるのは、ほぼ不可能です」

「ほぼということは、完全に不可能というわけではないんじゃろう?」
「確かにその通りですが、改修費用が、改修後の運用で得られる利益を上回るでしょうね。化石燃料が完全に枯渇したという事態にでもならない限り、現実的ではありませんよ」

「また、改修するにしろ、新造するにしろ、発電所のような大型の建造物の建築には、数年から10年単位の時間と、数千億円から兆単位の金が必要です。仮にエネルギー源が魔石にシフトするにしても、相当な時間が必要です」

「じゃが、ダンジョンの中で落ちているものを拾ってくるだけじゃ、ただみたいなもんじゃろう?」
 それには清美が反論する。
「甘いわね。誰かが必要とするものなら、それには必ず値段が付くのよ。そもそも、地面に落ちているものが無料というなら、石油も石炭も無料ということになるはずだけれども、そうじゃないでしょう?」

「それに、供給側の原価、つまり人件費などの問題もあります。命がけで、ダンジョンに潜っていながら、生活費も稼げないで餓死するのは誰だって嫌でしょう?」
「まあ、そうは言っても供給過剰になれば、価格が大暴落ということもあり得るのだけれど……」
「その場合には、魔石を掘る人間自体がいなくなり、需要と供給のバランスを保とうとするでしょうね」

 伊吹は、参ったという風に手を上げる。
「分かった、分かった。わしの負けじゃ」
「ふふん。元SF研を舐めないでよね」
「……この石が魔石と決まった訳ではないんですが……」

「それで、仮に魔石が手に入ったとして、それを利用するのにはどうすれはいいと思う?」
「魔石固有の性質については、空想の領域をでないので置いておくとして……やはり、熱エネルギーとして取り出す方法を探すのが手っ取り早いでしょうね」

 清美も、その意見に同意する。
「熱さえ取り出せれれば、それで水を沸騰させて蒸気タービンで発電機を回せばいいものね。蒸気タービンは、火力発電所や原子力発電所で用いられている、十分に実績のある方法だから問題ないと思うわ」

 あきれたように、伊吹が呟く。
「SF研は、そんなことばかり考えとるのか……」
「その通りよ!」

   ◇◇◇

「さて、午後からもダンジョン探索よ」
「トビトカゲを5匹、いえ、17匹以上倒して、レベル3まで上げるわよ」
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