優しいキセキ

吉野ゆき

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帰る家も失って、友達の家に泊まり歩く日々が続いたよ。


でもそうそうずっと人の家にもいられないじゃん?

素行の悪い私は友達の家族からはあまり歓迎されていないことはわかってたし。


なにより、愛情のある『暖かい家族』を間近で見るのが辛かった。



私は友達の家も出て、かといって行くところもなく、しょうがないから独り公園のブランコに座ってたんだ。


夕方になると目の前の砂場で遊んでいた子供達なんかがさ、一人、また一人と親に連れられて消えていくんだ。


『今日のお夕飯はハンバーグよ』
なんて幸せそうな会話をしながら。



真っ暗になる頃にはその公園にはもう私しかいなくて。


しかも雨まで降ってきてさぁ。そんなに私が憎いかって、神様を恨んだなぁ。





『相模?』

先生に声をかけられたのはそんなときだったよ。



『隣のクラスの相模だろ?
何してるんだ?こんなところで。
もうこんな時間なのに危ないぞ』 


濡れている私を見て先生は慌てて駆け寄ってきて、持っていた傘を私のほうに向けてくれたよ。

『早く家に帰りなさい』
そう言って。



センコーなんか信じてなかったし、自分の保身ばかり考えてる奴しかいないと思ってた。


実際ウチのクラスの担任は虐待に気づいていながら、私のことなんか見て見ぬフリだったし。



『困ったことがあったらいつでも言ってね』
という担任の言葉を信じて勇気を出して言った

『助けて』の言葉。

『そんな事実はありません。いいんですか?これ以上変なことをいうようならこちらとしても考えがあります』

という親の言葉で一瞬にして揉み消された。


面倒なことに巻き込まれたくないと考えたんだろう。



そのくせ人の顔を見れば
『困ったことがあったらいつでも言ってね』
といかにもいい教師を強調する。


…言ったって何もしてくれないくせに。

私がヤバイ連中とつるみ始めてからは声すらかけられなくなった。



でも目の前の私に傘を傾けて自分が濡れている先生を見ていると、なんだか自然と涙が溢れてきた。
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