優しいキセキ

吉野ゆき

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『…子供だね。周りを見ようともせず、自分ばっかりってタイプ。どうせ大した理由もなく自殺したんでしょ』


【大した理由もない】という言葉に私はピクリと反応した。


なんで見ず知らずのガキにそこまでいわれなきゃなんないのよ。


「どういう事?何が言いたい訳?
私に何があったかなんて…
私の気持ちなんてアンタにわかんの!?」


怒鳴った後で後悔した。
子供相手に少しムキになりすぎた。


子供は感情的な私とは対照的に静かに言葉を吐き出した。


『世の中には食べる物もなくて死んでいく子供や、生きたくても生きられなかった子達がいっぱいいるのに』


ガキのくせに正論言いやがって。
コイツもその一人だっていうのか…?

そう思うと躊躇してしまう自分もいる。

「そんなの私にだってわかってるよ。
でも…
まぁいいや。
ガキに言うことじゃないしね」


『何?言ってみなよ、聞くから』


「…なっまいき。親にどういう教育受けたの」


『口には気をつけることだね。親の悪口は許さないよ?僕の母親は世界一さ』


はじめてはっきりと感情が出た。
それにいきなり饒舌になったところを見ると…

はっ、マザコン。

そう思ったけど口には出さなかった。

世界一なんて言い切られると逆に清々しい。
親思いの奴はキライじゃない。


「それにしても、アンタの母親ってさては元ヤン?」


顔を覗き込みながら質問を投げかけると


『…大事なのは過去じゃなく今だ』

フイと視線を逸らしながらそう言った。


「フフ、当たりだ。私みたいな人間ってワケだ」

急に親近感が湧いて、私は子供の横に腰をおろした。

最初は驚いた顔をして何か言いたそうに口をあけたが、にやけた顔をした私を見て勝手に言ってろという感じで口を閉じた。 
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