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抵抗7

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 ふいに、すん、と鼻をすする音が聞こえた。


「マリー? ……泣いてるの?」


 マリーは首を振ったが、顔を見せようとはしなかった。


「マリー?」


 繋がっていた体を離し肩を掴んで強引に振り向かせると、顔の上に腕を乗せて隠してしまう。


「……マリー、ごめん。私はなにか悪いことをしてしまったのかな? それとも、痛かった?」

「ごめんなさい、違うの。続けて?」

「マリーが泣いてたら無理だよ」


 マリーは手を退けてくれたが、そこにあるのは無理矢理作った笑みだった。


「――私、なんて幸せなのかしらと思ったら、勝手に出てきたのよ」


 マリーの残した沈黙が、本当に泡になって消えていくんじゃないかと逆に心配になる。


「私は、あなたをたくさん不幸にする。あなたはそれでも私を見捨てないでいてくれる。だから私もあなたを幸せにしたいけれど、どうしたらいいのか…わからないのよ……」


 逃げるようにうつ伏せになったマリーの肩が揺れていた。


「私は笑顔の君がそばにいてくれたらそれだけで幸せだよ」


 ぴたりとその背中に肌を寄せてぬくもりを分かち合う。何度もその言葉を繰り返すとあたたかな吐息が混ざり合い、繋いだ手のぬくもりに心を預けた。




 互いのぬくもりに寄り添いキスを重ねるうちに、空気は再び色を帯びる。


「はぁっ…ロラン……続き、して?」

「うん」


 マリーはもぞもぞと猫のようにおしりを持ちあげて、かわいらしく頬を染めてねだる。無意識に収まりのつかない欲望をその背中に押しつけてしまっていたことに気づき、苦笑いが漏れた。


「………は…………っ……マリー……」


 一旦身を起こすとゆっくりと息を吐いて快感を逃がしながら、再び蜜の滴る花芯の奥へと欲望を滑り込ませる。最奥まで達すると愛しい背中を全身で包み込み、手を握る。


「……愛しているよ……」


 耳元に囁きながらゆっくりと腰を回す。


「んっ、あぁ……っ……ロ…ラン………っ」


 蠢く感触とゆったりと喘ぐ声の心地よさを味わい、酔いしれていると、ふいにぴくりとマリーの肢体が揺れた。


「……マリー、どうかした……?」

「――――――ぁっ。もうっ、だ……めぇっ!」


 そっと耳元に囁くと、ビクビクッと全身が震えて身体の奥がきつく欲望を搾り取ろうとするように締めあげてくる。

 不意打ちの快感に慌て、気を引き締めて耐える。


「っ、……ぁ――……」


 波には耐えたものの、このまま休ませてあげるべきか、続けてもいいものかと思慮していると、静かな絶頂の緊張を解く息をついたマリーが再び私の手を握った。


「……ご…めん、なさい……私だけ……」
「いいよ、何度もよくしてあげるのは男の甲斐性ってものだ」
「………で…も、私――」


 くたりと力なくうつ伏せているマリーから一旦体を離し、仰向けにする。


「――だけど」


 意地悪く笑いながら何の抵抗もしない両足の間に潜り込み、再度交われるように先の方をあてがう。


「次は君が満足する瞬間の顔が見たいな」


 かぁぁっと頬を染めたマリーは、両手で顔を隠そうとするから、両手でそれを遮った。困った顔をしているけれど、抵抗はない。


「……いい?」


 聞くと、マリーはこくんと頷いた。


「――――……ぁ、っ。はぁ……んっ」


 ゆっくりと貫くと、背中が仰け反り大きく開けた口からか細い嬌声が漏れた。形のいい眉を下げて、目を強く閉じて、仰け反った白い喉元が無防備に晒される。その白い首筋に吸血鬼のように吸いついて、軽く痣を残した。

 言いしれぬ喜びが胸の底から湧いてきて、次から次にキスの跡をつけていく。


「あ……ん…んんっ、はぁ、はぁ……っ!」


 この体勢で口が届くところすべてに醜い痣をつけても、マリーは一度も文句を言わなかった。

 既に一度満足したからなのか、快楽に喘ぐマリー先ほどまでのように力一杯に足を絡めてこない。ゆっくりと中の感触を味わいながら、大きく抜き差しを繰り返していると、マリーの舌が震えた。


「はぁ……っ」

「……う。マリー……キツい……」


 ぴんっと足が伸びて、中の感触が変わった。心地よさに思わず吐息が漏れると、マリーは懸命に手を伸ばしてきた。

 絡めてほしそうに蠢く舌先がなんとも艶めかしい。


 繋がったままでひょいとマリーの体を引き上げ、向かい合わせに座っているような格好にする。


「マリー……かわいい」


 ちゅっ、と軽く唇を触れ合わせる。マリーは潤んだ瞳で私を見つめ、両腕で頭を引き寄せると自ら舌を差し入れ絡めようとしてくるから、それに応える。


「はふっ……ねぇロラン……気持ち、いい?」

「うん、とても」


 素直に応えると、マリーは赤い顔ではにかむ。


「ふふ、ロランって女の子みたいな優しい顔なのに、こういう時の顔を見るとやっぱり雄なんだなって実感する」


 マリーは自由になった両手で私の顔を包み込んだ。

 ちょっと複雑な気分を押し殺していると、耳元に囁く。


「ロランが気持ちいいって顔してるの見るとなんだか私も嬉しいの」

「私もだよ。だからマリー、もっと喘いで、もっと感じて」


 そう応えてやりながら、目の前に無防備に晒されている白い首筋に吸いつく。


「ふっ…う、はぁっ……」


 再び舌を絡めあわせながら、たわわな胸の柔らかさを両手で味わう。つん、と立ち上がったその先端をこりこりと指先で転がすと、息がさらに荒くなる。


「あふっ、あっ、あっ……!」


 マリーはビクビクと震える肢体を、嫌々をする子供のようにくねらせる。


「君が絶頂を迎える顔を見せてくれる約束だよ」


 両手で小さな顔を包み込むと、マリーは私の肩に手を置いて赤い困り顔でこくんと頷いた。

 ゆっくりと腰を揺らすと、瑞々しい唇から桃色の吐息がこぼれ、眉を寄せた。顔から首筋をとおり、胸と脇の下へと滑らせた両手で、細くくびれた腰を掴む。息を飲む隙を与えず、激しく揺らす。


「―――……あぁ……っ!!」


 仰け反った首筋の白さ。

 悲鳴にも似た嬌声をあげる唇。

 弱々しくハの字に寄せられた銀の眉。

 薄く開けられた瞼から覗く、潤んだアメジスト。


「マリー……っ!」


 たまらずに抱き寄せた勢いでベッドに押し倒し、滅茶苦茶にその美しい肢体を獣のように食い荒らした。



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