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抵抗4

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 丁寧に整えられたベッドにもつれ込むと、ひんやりと気持ちのいいリネンから清潔な石鹸の香りが立ち上る。

 その香りと温度に、じゃれて浮ついていた気持ちがわずかに冷えるようだった。


 そんな私の胸の上――着地前に体を捻ってマリーを上にしたのはよかったが、勢いよく衝突したマリーはゆっくりと身を起こす。


(あぁ、ちょうどマリーが飛び降りたあの時がこんな体勢だったな)


 それを身ながらぼんやりとそうと思うのと同時に、マリーは私の肩に残る傷跡を撫でた。


「……ロラン、あなたバカよね」


 迷うようにそっと触れるマリーは悲しみとも慈しみともつかない複雑な顔をしていた。さらさらと肩からすべり落ちる銀色の髪が肌をくすぐるから、少しだけ笑ってしまう。


「もう、全然痛くないよ」

「怪我のことだけじゃなくて」


 マリーは軽く唇を合わせて軽口をきこうとする私を黙らせた。


「呪われてるって知ってて、なんで見舞いにきたり、誕生日を祝おうとしたりしたのよ?」

「なんでって聞かれてもなぁ……」


 相変わらず鋭い眼光に返事に困り、苦笑いで顎を掻く。

 初夜の褥でも、マリーは同じようなことを言ったなと、ぼんやり思った。


「ただ、いてもたってもいられなかった」

「それがなんでって聞いてるの」

「なんでだろうね? 自分でもよくわからないけど」


 笑っている私に落胆したのか、マリーは肩を落とし細い吐息を吐く。


「でも、本物の恋ってそんなものなのかなって思うんだよ」


 くるりと目を見張ったマリーの顔がどうしようもなくかわいらしくて、思わず鼻先にキスをして抱き寄せる。


「理屈や理性じゃなくてね、ただ君に会いたくて。会えないとイライラしてさ。歯止めが、きかなかったんだ」


 ぴくりと肩が揺れ、私の胸の上できゅうっと拳を握る。

 歯止めが利かない――その感覚にマリーにも身に覚えがあるからだろうかと思うとたまららなく愛おしい。


「私に真実の愛を教えてくれたのは君だよ、マリー」


 耳元に囁くと、あたたかく湿った吐息が何度も首筋にかかって、くすぐったかった。

 押し殺した嗚咽に震える小さな背中をゆっくりとさする。


 耳元にそっと「愛しているよ」と囁く。

 しばらく喉を詰まらせていたマリーは「……私も」と呟いた。

 それからむくりと体を起こしたかと思うと、まっすぐに目を合わせた。


「愛してるわ、ロラン」

「……ふふ、なんでだろうね? 君が言うと、宣戦布告みたいに聞こえるよ」


 挑むような強い目に、苦笑いがこぼれた。


「でも――それもいいかな」


 でも、そう。

 それもいい。


「魔女に見せつけてやろう?」


 必ずマリーを守ってみせるという、決意を。

 好意を向けられることに恐ろしく不慣れで、臆病な猛犬みたいにまわりを威嚇して必死に守ろうとしてきたマリーのために、盾にでも剣にでもなろう。


 笑ってみせると、マリーは目元を潤ませ唇を小さくふるわせた。こつん、と私の胸に額を当て、息を詰める。


「………………バカね」

「うん、自覚してる。だけど君をこの腕の中に留めることができるなら、どれほどの苦痛にも耐えられる」


 少し、沈黙があった。

 肩が小さく揺れていた。ぱたぱたと温かい液体が肌を濡らす。


「……ロラン……あなた、本当にバカね……」

「うん、だけどそれは君のせいだからね」


 ぽろぽろとこぼれる涙を拭いながら悪態をつくマリーの頭を撫でて笑う。マリーの悪態が、なんとも耳に心地よかった。


「この呪いがどれほど苦しいか、あなたはまだ知らないのよ……」

「じゃあ、そのぶんまで今のうちに幸せになっておかないとね」


 ぴくりと肩が一際揺れて、震えが止まった。ぎゅうっと強くその頭を抱え込んだ。


「……君をこうして抱きしめられるだけで、私は幸せだよ。だから君はずっとそばにいてくれればいい――」


 囁くと、マリーは私の首に両腕を回して押しつけるようなキスをしてきた。


「愛してる……愛してるわ、ロラン」


 辿々しく舌が滑り込ませながら言うから、たまらずに舌を絡ませる。マリーは辿々しくもそれに応えようとする。

 猛烈な勢いで欲情が膨らんでいくのを自覚するのとほぼ同じくして、マリーが手探りで私の胸や腰を撫で、それに触れた。

 固くなっているそれを撫でるマリーのネグリジェの裾をたくしあげて下着を膝まで下ろし、内股につつぅと指を滑らせる。


「………っ、は、……ふ…っ」


 マリーはふるりと全身をふるわせ息を詰めようとしたが、私が甘い唾液を味わうために唇を離さないのでそれもままならず、身をくねらせる。肩を抱いて逃がさないようにし、指先は秘密の花びらに触れる。十分に潤った花びらから朝露のように蜜が垂れ、とろりと指を濡らしていく。


「……ん、んぅ……」


 マリーは時にびくんっと体をふるわせ、私を頭を強く抱え込むようにしながら懸命に私の求めに応じて舌を絡めてくれる。肩においていたほうの手でネグリジェのリボンを引き、揺れる胸を露わにする。

 ほのかに甘い香りを放ち、透き通るように白くなめらかな果実が揺れるのを目にすると、たまらずそのやわらかな双丘の間に顔を埋めた。


「あっ……」


 深呼吸で甘い香りを肺一杯に吸い込み、やわらかさとあたたかさを頬で味わう。一度息を止めてそれを丁寧に味わってから、今度はその果実の味を舌で確かめていく。

 淡い桃色に染まる丸みを帯びた果実の感触も香りも、まさしく禁断の果実を思わせる。その先端の一際濃い桃色の尖りを口に含み、舌で転がし、つぶしてみる。


「ん……はぁ…っ、あんっ……」


 マリーは甘い喘ぎ声をこぼしてふるふると小刻みに体を震わせ、花びらからはくぷ、くちゅ、と音を立てて蜜が溢れている。


「マリー……かわい……、いっ!」


 伸びをする猫みたいな体勢を胸の下から楽しめる優越感に酔っていると、唐突に首筋をカプリと噛みつかれた。

 反撃とばかりに首筋を舐めあげながら、さわさわと両手で私の腕をさすり胸をたどって脇腹を撫で、小さな雷に打たれるような快楽が何度も全身を駆けめぐる。


「……ふふ、ロラン、かわいい」


 声をかけられ思わず瞑っていた目を開けると、目の前には猫みたいに皮肉っぽい目を爛々と輝かせた笑顔があった。


「やってくれるじゃないか」


 冗談半分に眉を釣り上げると、マリーは笑い声の間にわざとらしいきゃあきゃあという悲鳴を上げながら身を引いて。

 追いかけるように寝返りを打って組み敷くと、脇腹をくすぐられる。

 仕返しに鎖骨を舐めると、今度は耳朶に噛みついて乳頭を摘まれ、反射的にビクンと全身が跳ねた。


「あはははっ! ロラン、弱いわね」

「……普段はそうでもないんだけどね」


 普段ならちょっとやそっと触れられたくらいでこんなにビクビクとのたうちまわったりはしないのにという恨めしさと、掛け値なしのマリーの笑顔を眺められる幸福が半々の複雑な気持ちで、その笑顔を眺めた。


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