時代小説なお話

紀之介

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好機。

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「下がれ」

 広間に怒号が響く。

「その方の戯言は、もう聞きとうない。」

「しかしながら お上」

「さ・が・れ と言っておろうが!」

 太政師は、続けようとした言葉を飲み込んだ。

 不服げに深く一礼し、出口の扉に向かって歩き出す。

----------

「最近あの者は…」

 大扉が閉じられるや。

 皇王は、側に控えていた中政師に聞こえるように呟く。

「増長が目に余る」

「─」

「埒もない事を口にした。お主も下がれ」

「── は。」

----------

「最近、お上と太政師殿は──」

 屋敷に戻った中政師は、書斎で側近に漏らした。

「…どうも、上手く行っていないようじゃ」

「それは、好機で御座いませぬか」

「ん!?」 

「中政師様の出世を阻む存在を、体よく排除出来るのでは?」

「石柳、声が高い」

「これは…申し訳ございませぬ」 

 静寂に耐えきれなくなった様に、中政師が口を開く。

「で、どうするのじゃ」

「適当な罪をでっち上げ、太政師を奸臣にしてしまうのです」

「─」

「密かに私兵を動かし、屋敷囲み 自裁を迫れば宜しいかと」

「──」

「既成事実さえあれば、後はどうにで出来ます故」

「─── そちに任せてよいか?」

「御意」

----------

「騒がしい。何事であるか!」

 いきなり自分の書斎の扉を開けた人物を太政師は睨んだ。

「誰じゃ?」

「石柳で御座います」

「…お主か」

「恐れ多いことながら、このお屋敷を 兵で囲ませて頂きました」

 太政師は思わず立ち上がる。

「まさか…中政師殿の命で?」

「御意」

「─ 愚かな事を」

「恐れ多い事ながら…太政師様におかれましても、ご覚悟を」

「── 事ここに至っては、ワシの本意ではないが 是非もなしか」

----------

「お上。」

 翌朝、中政師は広間で皇王に駆け寄った。

「太政師殿が自裁されたと仄聞しましたが!」

「…その方が、そう取り計らったのであろ?」

「ご、ご明察で──」

 皇王が、沈黙で中政師に言葉を促す。

「恐れながら…奸臣を取り除いただけで御座いますれば」

「己の栄達のためであろう」

「め、滅相もございません。一重に、お上のために!」

「…まあ、良い。」

----------

「誰ぞある」

 皇王の呼びかけに応じて、広間に新たな人物が入って来た。

「は、ここに」

「だ、太政師殿?!」

 中政師には、相手を凝視する事しか出来ない。

「じ…自裁された筈では……」

「この者は、そう報告したのか?」

 いつの間にか太政師の背後には、中政師の見慣れた人物が立っていた。

「せ、石柳?」

 太政師は懐から取り出した書状を、中政師に見える様に広げた。

「─ いかなる理由があろうとも、謀殺の儀は 世の秩序を乱す重罪である」

「も、もしかして…そ、某は……」

「── 故に、その方を死罪とする」

「は……ハメられたのか………」

「─── お主が誘いに乗らず、戯けた行い慎めば 避けられた悲劇じゃ」

----------

「太政師」

「は。お上」

「石柳の功には、報いねばならぬ」

「同事」

「あの者、その方の下で使ってやれ」

「─ しかしながら お上」

「いつ背信するか判らぬと?」

「── ご明察で」

「その際は…今回の様に 処分すれば済む事じゃ」

「─── 御意」
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