話の闇鍋Ⅱ

紀之介

文字の大きさ
上 下
1 / 10

食べるしかない

しおりを挟む
「これが…」

 閑散とした放課後の教室。

 机の上に佳奈さんが置いた包装された小箱に、一子さんが身を乗り出します。

「─ お取り寄せした、噂の銘菓<夢旅人>?」

「そう」

「…綾は?」

「今日は、都合悪いんだって」

 手に取った箱を宙に浮かせた一子さんは、底に描かれた日付を確認しました。

「消費期限が短いから…今日2人で食べるしかないねぇ」

「一番楽しみにしてたんだけどねぇ。綾ちゃんが」

「運の悪い子」

 再び机に戻された小箱の包装紙を、佳奈さんが丁寧に解き始めます。

「綾ちゃんは、次の機会って事だね…」

「代金、2人で折半かぁ」

 佳奈さんは、包装が取り除かれた箱の蓋を開けました。

「3個入り」

「1人1個と半分…」

 顔を上げた一子さんが、ニヤリとします。

「─ でも それだと、面白くないよね。」

「え?」

「何かで対決して勝った方が、2個取る事に しよう!」

「一子ちゃんって…そう言うの、好きだよねぇ」

「で、何で勝負する?」

「早くリーマン予想を証明出来た方が勝ち」

「…それ、100万ドルが貰える難問だよね?」

「じゃあ、先に どこに邪馬台国があったかを証明出来た方が…」

「何でお菓子1個のために、古代史マニアに挑戦しないといけないの!」

「だったら…じゃんけん。」

----------

「最初はグー」

 教室に、一子さんが声を響かせました。

「じゃんけん、ぽん!」

 2人の前に、3つ目の手が差し出されます。

「え?」

 驚いて顔を上げた佳奈さんに、新たな手の持ち主は尋ねました。

「で、勝利者には、どんな栄冠が もたらされるの?」

「き、桔葉さん!?」

「机の上のお菓子を…3つ食べる権利?」

 伸びた桔葉さんの手の甲を、一子さんが叩きます。

「1個だけ!」

「…ケチくさいわねぇ」

 躊躇なく お菓子を1つを手に取り、頬張る桔葉さん。

 咀嚼されたタイミングを狙って、一子さんは手を差し出しました。

「500円、頂きます」

「へ…?!」

「物凄く美味しかったでしょ? お・か・し」

 一子さんが、桔葉さんに迫ります。

「私達が割り勘で買った、と・く・べ・つ・な お取り寄せ なんだからね!」

「─」

「まさか、食い逃げするつもり?」

「わ、判ったわよ!」

 ポケットから財布を出しながら、桔葉さんはボヤきました。

「どうして私は…こんな所で、お金なんか払う羽目に なってる訳?」

「これに懲りたら、通りすがりのじゃんけんには、迂闊に混ざらない事だね」

「肝に銘じるわ。。。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

処理中です...