探偵稼業は楽じゃない

紀之介

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ご相談

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「私、このホテルの総支配人の高橋と申します」

 部屋に内線電話を掛けてきた男は そう名乗りました。

「失礼を承知でお尋ねするのですが…、お客様、探偵の 石田左近様では御座いませんか?」

 宿泊者カードに偽名を書いた石田は緊張します。

「偽名でお泊りの事を とやかく言うつもりで、お電話を差し上げた訳では御座いません」

「…」

「実は 折り入って、ご相談したい事が御座いまして…」

「─ 別館で起きた、事件の事ですか?」

 当然の様に答えた石田に、高橋は驚きました。

「御存知じ…でしたか」

「…警察の捜査は、どんな感じなんですか?」

「実は、密室殺人らしいのです…」

 辺りを憚る様に、高橋は小声になります。

「田舎警察には、どうも荷が重い様でして…」

「─」

「解決に時間が掛かるのは、当ホテルとして 本意ではありません。」

「…」

「そこで、高名な石田様に御依頼をい…」

「お断りします。」

 途中で言葉を遮った石田に、高橋は戸惑いました。

「─ お礼なら、十分にさせて頂きますが…」

「そう言う問題では、ありません」

「…」

「私は もう1件たりとも、自分が遭遇した殺人事件に関わる訳には行かないのです」

 無言の高橋に、石田は無念そうに語り始めます。

「数多くの殺人事件の解決に 私は関わりました。そのお陰か、私の事を<名探偵>と呼んでくれる人もいます。

 …私が解決した事件に、依頼されたものは殆どありません。多くの事件は、私が出向いた先で、たまたま発生した殺人なのです。

 その事に気が付いた人は、こんな風に思い始めました。

『たまたま石田が殺人事件に遭遇しているのではなく、石田が訪れるから、殺人事件が起きているのではないか』と…

 私の事を、まるで疫病神か死神かの捉えている人が、少なからず いるのです」

「…」

「─ これ以上悪名が広まり 出禁の場所が増えたら、探偵業どころか 普通に生活出来なくなって しまいます。。。」

 暫くの沈黙の後、高橋は呟きました。

「幸い、あなた様が偽名で当ホテルに宿泊している事には、私以外は 気が付いておりません。」

「…え?」

「これからあなた様は、速やかにホテルを引き払って この土地からお離れ下さい」

「ど、どうして…」

「2時間程しましたら、私があなた様の携帯に、殺人事件の捜査依頼の電話を致します。」

 暫く間を開けた高橋は、穏やかな声で尋ねました。

「遭遇した事件でなく、依頼された事件を解決するために、当ホテルまで ご足労願えますでしょうか。石田様?」

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 佐和山ホテルで起きた密室殺人は、ホテルの総支配人の依頼で訪れた高名な探偵、石田左近氏の活躍で 無事解決されたのだった。。。
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