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2-1 無秩序テニス
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昼休みも終わり五限目に差し掛かる。科目は体育。新学期が始まってからは専らラケット競技を主体として行っている。他クラス合同ということもあり、生徒の数は普段より明らかに多い。
「今日は前回も言った通り、テニスをやるぞ~!」
晴れ晴れとした空のもと、体育教師によって本日の種目が高らかに宣言される。
その体育教師は歳のわりに筋骨隆々でノースリーブのTシャツから露出してる腕はその体格に見合った太さをしている。その腕でテニスラケットをくるくると回している。
大人だろうと子供だろうと、ラケットを持つと回してしまうのは同じらしい。
体育教師はラケットを止めると、どこからかホワイトボードを持ち出す。そのホワイトボードにはテニスのルールが記されている。
基本的にはテニスのルールに則っているが、学校の授業ということもあり、授業独自のルールが垣間見える。例えば、サーブ方法やスマッシュの禁止など――これはテニス部員の無双を阻止するために設定されたルールだろう。その証拠に体育教師は文末に、「テニス部はこれ禁止な~」と付け加えている。
体育あるあるだが、何かしらの部活に入っている奴、今回の場合はテニス部員なわけだが、素人相手に一切の手加減もなしに、ボコボコにして勝利をもぎ取っていくのは、もはや風物詩。
「今日はテニスなんだな」
オレの隣で体育座りをしている厳見春介が普段よりトーンを一つ上げてそう言った。
厳見春介とは入学式の日に知り合ってから二年間、まさかの同じクラス。まさかと付けるほどめずらしいかはともかく。
背の丈はオレと同じ程度で平均的、天然なのかそれともパーマをかけているのかわからないが、くねらせた髪が特徴的。それと突き抜けた愛想の良さ。そして、この厳見春介を象徴するのは、何よりも人脈が広いという点にある。オレも生徒会長という役職柄(?)人と関わることは多い。人脈も比較的広い方だという自負はあるが、こいつには残念ながら及ばない。それも少しなんて生易しい差ではなく、圧倒的と表現しても過剰ではない。
不撓導舟が高尾山だとするならば、厳見春介はエベレストといった具合だ。
オレが十五人いてようやく上回れるほどの人脈を誇る。究極の八方美人といってもいい。
「と、いうことは俺がテニス部で鍛えたこの両腕が火を吹くということだな」
厳見は「なあ、導舟!」と得意げな笑みを浮かべ、その細い腕を捲し上げた。
オレは求める共感を無視して、話題を変える。
「ところで、テニス部に入ってモテたか?」
「あったら即日即時即秒で伝えに行ってるけどな?」
愛想の良さを象徴する笑顔は消え去り、真顔で淡々と答える色欲の塊がそこにはいた。
究極の八方美人であるが故に、厳見はモテないらしい。
「おかしいだろ! 自分で言うのもなんだが友達は日本でもトップクラスで多いのに、どうして一向にモテる気配がないんだ!」
そんな嘆きを叫ぶと、付け足して「モテないのにどうしてテニス部に入ったんだ」などと言ってのけた。
「全国のテニス愛好家たちに謝れ」
立ち上がってモテなきゃ意味ない宣言をした厳見は、一つ大事なことを忘れている。
「厳見ぃぃい!」
只今、体育の先生によるテニスのルール講座の最中であったことを。
厳見はすぐさま事態の重大さに気づき、体が凍ったように固まっていた。
しかし、すぐさま自分自身を解凍し、言い訳を述べる態勢に転じる。
「いやぁ、テニスってあれですよね、紳士淑女の嗜むスポーツでこれだけ素晴らしいスポーツはいくら探せどもないといいますか……」
言い訳するところはそこじゃないぞ厳見よ。
体育教師の体が段々と大きくなって、対する厳見が小さくなっていくのが見えているが、これは恐らく幻覚だろう。あまりのオーラで体が大きく見えているだけ……。
「俺が言ってるのはそういう話じゃねぇ」
言い訳のせいか、怒りが頂点に達している。
クラスの空気は凍りつき、ざわざわと聞こえていた話し声は途端に静寂に飲まれた。
当の怒らせてしまった本人は、真っ青な顔で気をつけの態勢を維持していた。
迫りくる怒声に備えるべく。
いつだ、いつ来るんだ――と、クラス全体が静寂に耐えていると、そのときは唐突に訪れた。
「怒らせるようなことやってんじゃねぇぇえ! 俺の血圧が上がんじゃねぇかぁあああ!」
え、そっち?
「知るかああああ、そんなもん! 教師なら今の行為を糾弾しろよ! 自分の血圧気にしてんな!」
体育教師と厳見は、この場にいた生徒たちの血圧と心拍を大いに上げることとなった。
「今日は前回も言った通り、テニスをやるぞ~!」
晴れ晴れとした空のもと、体育教師によって本日の種目が高らかに宣言される。
その体育教師は歳のわりに筋骨隆々でノースリーブのTシャツから露出してる腕はその体格に見合った太さをしている。その腕でテニスラケットをくるくると回している。
大人だろうと子供だろうと、ラケットを持つと回してしまうのは同じらしい。
体育教師はラケットを止めると、どこからかホワイトボードを持ち出す。そのホワイトボードにはテニスのルールが記されている。
基本的にはテニスのルールに則っているが、学校の授業ということもあり、授業独自のルールが垣間見える。例えば、サーブ方法やスマッシュの禁止など――これはテニス部員の無双を阻止するために設定されたルールだろう。その証拠に体育教師は文末に、「テニス部はこれ禁止な~」と付け加えている。
体育あるあるだが、何かしらの部活に入っている奴、今回の場合はテニス部員なわけだが、素人相手に一切の手加減もなしに、ボコボコにして勝利をもぎ取っていくのは、もはや風物詩。
「今日はテニスなんだな」
オレの隣で体育座りをしている厳見春介が普段よりトーンを一つ上げてそう言った。
厳見春介とは入学式の日に知り合ってから二年間、まさかの同じクラス。まさかと付けるほどめずらしいかはともかく。
背の丈はオレと同じ程度で平均的、天然なのかそれともパーマをかけているのかわからないが、くねらせた髪が特徴的。それと突き抜けた愛想の良さ。そして、この厳見春介を象徴するのは、何よりも人脈が広いという点にある。オレも生徒会長という役職柄(?)人と関わることは多い。人脈も比較的広い方だという自負はあるが、こいつには残念ながら及ばない。それも少しなんて生易しい差ではなく、圧倒的と表現しても過剰ではない。
不撓導舟が高尾山だとするならば、厳見春介はエベレストといった具合だ。
オレが十五人いてようやく上回れるほどの人脈を誇る。究極の八方美人といってもいい。
「と、いうことは俺がテニス部で鍛えたこの両腕が火を吹くということだな」
厳見は「なあ、導舟!」と得意げな笑みを浮かべ、その細い腕を捲し上げた。
オレは求める共感を無視して、話題を変える。
「ところで、テニス部に入ってモテたか?」
「あったら即日即時即秒で伝えに行ってるけどな?」
愛想の良さを象徴する笑顔は消え去り、真顔で淡々と答える色欲の塊がそこにはいた。
究極の八方美人であるが故に、厳見はモテないらしい。
「おかしいだろ! 自分で言うのもなんだが友達は日本でもトップクラスで多いのに、どうして一向にモテる気配がないんだ!」
そんな嘆きを叫ぶと、付け足して「モテないのにどうしてテニス部に入ったんだ」などと言ってのけた。
「全国のテニス愛好家たちに謝れ」
立ち上がってモテなきゃ意味ない宣言をした厳見は、一つ大事なことを忘れている。
「厳見ぃぃい!」
只今、体育の先生によるテニスのルール講座の最中であったことを。
厳見はすぐさま事態の重大さに気づき、体が凍ったように固まっていた。
しかし、すぐさま自分自身を解凍し、言い訳を述べる態勢に転じる。
「いやぁ、テニスってあれですよね、紳士淑女の嗜むスポーツでこれだけ素晴らしいスポーツはいくら探せどもないといいますか……」
言い訳するところはそこじゃないぞ厳見よ。
体育教師の体が段々と大きくなって、対する厳見が小さくなっていくのが見えているが、これは恐らく幻覚だろう。あまりのオーラで体が大きく見えているだけ……。
「俺が言ってるのはそういう話じゃねぇ」
言い訳のせいか、怒りが頂点に達している。
クラスの空気は凍りつき、ざわざわと聞こえていた話し声は途端に静寂に飲まれた。
当の怒らせてしまった本人は、真っ青な顔で気をつけの態勢を維持していた。
迫りくる怒声に備えるべく。
いつだ、いつ来るんだ――と、クラス全体が静寂に耐えていると、そのときは唐突に訪れた。
「怒らせるようなことやってんじゃねぇぇえ! 俺の血圧が上がんじゃねぇかぁあああ!」
え、そっち?
「知るかああああ、そんなもん! 教師なら今の行為を糾弾しろよ! 自分の血圧気にしてんな!」
体育教師と厳見は、この場にいた生徒たちの血圧と心拍を大いに上げることとなった。
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