165 / 231
第20章 秘密裏プロジェクト
02 呼び出し
しおりを挟む週明け——。失恋の痛手で惨憺たる顔で来るのかと思ったが、十文字は元気だった。
「おはようございます! 金曜日はお世話になりました」
笑顔で出勤してきた彼は、自分のしでかしたことは覚えていないらしい。彼はさっそく田口に頭を下げた。
「本当に色々とありがとうございます。田口さん、これからもよろしくお願いします」
「なんだよー、おれたちには?」
渡辺や谷口がからかうように口を挟む。
「もちろんです! 渡辺さん、谷口さん。そして、係長」
自分の名前を呼ばれて保住も顔を上げた。
「みなさん! こんな馬鹿なおれですけど、どうぞご指導のほどよろしくお願いします」
「そんな硬い挨拶するな」
保住はこういうことは苦手だ。気恥ずかしくて、思わず視線を逸らした。
「そうだそうだ。まだ始まったところだろう?」
「これからがますます大変だからなー」
二人に冷やかされると、十文字は恥ずかしそうに自分の席に座った。
週初めの朝はどこか浮き足立っている気がする。パソコンに視線を向けていると、隣にいた田口が内線の対応をした。
「おはようございます。振興係の田口です」
——こんな朝から誰だ?
そんなことを思考の片隅に置きながら、キーボードを叩いていると、田口の次の言葉に不穏な空気を感じ取った。
「電話当番は決めておりません。出られるものが出ます。いえ、失礼いたしました。事実を述べたまでですが、不愉快なお気持ちにさせてしまったのでしたら、謝ります」
田口が険しい顔をしているのを見て、頬杖をついて保住はじっとその様子を眺めた。
「係長は……」
田口にこんな険しい表情をさせる相手なんて一人しか思いつかない。不愉快な気持ちになって、彼に声をかけた。
「来いって?」
保住の視線を受けて、田口は意図を汲み取ったのだろう。小さく頷いてから口を開いた。
「参りますと申しております」
会話はそれて終わりなのだろう。田口は受話器を戻すと、保住をじっと見つめていた。
「副市長室までとのことです」
「げ、澤井副市長か」
「なんの用なんでしょう?」
渡辺たちの言葉に微笑を浮かべて、保住は歩き出す。
「ちょっと行ってきます」
「係長」
無視するわけにはいかないのだ。心配そうな田口には申し訳ないが、保住は廊下に出た。
***
田口は保住が出て行く後ろ姿を見て不安な気持ちが隠せない。ここのところ、彼との接点が皆無だったおかげで、耐性がないのかもしれない。動悸がして変は冷や汗が背中を流れた。
「席を外していると言いたかったんですけど」
落ち込んだ。
——どうして「いない」と言えなかったのだろう?
どす黒いあの重低音に負けた気がする。ガックリと肩を落とすと、渡辺と谷口はフォローしようと声をかけてくれた。
「そう言っても、先延ばしするだけだろう? 仕方ないって」
「そうだよ」
「すみません……役に立たない」
十文字だけは意味がわからず目を瞬かせているだけだ。
——澤井さんが近づくのは嫌だ。
心がざわつく。
ともかく、嫌だった。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる