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第15章 狐疑
02 大晦日の会合
しおりを挟む大晦日。保住家の会合は、一族の会合と呼べる代物ではなかった。てっきり、保住の祖父の自宅で集まるのだろう、などと高を括っていた田口だったが、保住に連れてこられたのは市内のホテルだった。ホテルのワンフロア貸し切りだった。
——ちょっとした政治家のパーティーじゃないか!
「正装をしてこい」と言った保住の言葉の意味を初めて理解した。保住の祖父の兄弟から、その子供たち。そして、その家族たち。総勢百名はいるのではないかと思うほどの豪華さ。
ワインレッドの可愛いドレスのみのりもいた。保住が参加するということで、彼の母親も姿を見せた。
田口は、あちこちの親族たちに声をかけられて、名刺を渡される。銀行関係から、一流企業、公務員……。様々な職種の人たちの集団だが、どの人もそれなりの地位にいる人ばかり。目を白黒させている田口を保住は笑ってみていた。
「からかっているのですか? 保住さん」
「違う。お前は素直で面白いと思って」
「こんな話だとは聞いていません。もう名刺はありませんから」
「おれも初めてだったから予想外だった。すまなかった」
素直に謝られると返す言葉もない。
遠方からやってきている人たちは、そのままそこのホテルに宿泊をするようだが、地元民たちは自宅に帰っていく。深夜の零時を過ぎ、新しい年を迎えてから会合は解散となった。
「もう疲れた! 来年は来ないんだから!」
ぶうぶう怒っているみのりに、保住は小さい声で「もう今年だが」と訂正を加える。
「なにか言った? お兄ちゃん」
機嫌の悪いみのりには保住も敵わないようだ。田口は表情を緩めた。
「出会いでもあるならいいけど。結局、親族ばっかりじゃ、なんの意味もないじゃないの! こんなんだったら、婚活パーティーにでも出たほうがマシよ」
そう言ってから田口を見る。
「あらやだ。田口さんがお付き合いの対象圏外だってことじゃないのよ」
「いえ、おれは……」
——保住さんがいいんです。
みのりにそういう目で見られたいなんて思ったことはないのだが。社会一般的に見れば、そういうことだろう。
「田口さんは、お兄ちゃん一筋じゃない。だからってこと」
「え?」
保住と田口は目を見張る。
——彼女はどこまで感付いているのだろうか? 女性は鋭い。
「仕事、仕事って顔しているし。もう! 詰まんないの。飲み会も進まないし。お兄ちゃんとくっついていると、本当に婚期逃しますからね。しがない独身男性。友達も彼女もいない寂しいおじさん。それがこれだから。成れの果て」
みのりは保住を指さす。
「成れの果てって失礼じゃないか? おれはまだ三十越えたところだぞ?」
「三十を越えたらおじさんじゃん。人気ないよ? 三十とかで括っているけど、もうすぐ三十からも離れていくんだから……」
「悪かったな……」
みのりは容赦ない。さすが保住の妹だ。兄に似て言葉がきつい。田口は苦笑した。
「もうすぐって。保住さんの誕生日はこれからでしたか?」
そういえば大好きなクセに、保住の細かいデータは知らない。その人となりや、人柄が好きだから。あまり気にしていなかった。
「知らなくていい」
保住はそう言うが、みのりが口を出す。
「この人、いい日生まれなんだから」
みのりは酔っているのだろう。頬を赤くして目が据わっている。
「いい日?」
「みのり! 昔からバカにされるから好かない。誕生日は嫌いだ」
「バカにって……」
「お兄ちゃんの誕生日は、女の子の日。お雛様の日よ」
「言うなよ」
「三月三日ですか」
保住を見ると、彼は困った顔をしていた。
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