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第2章 仕事の仕方
21 犬、歓迎される
しおりを挟むその夜。田口は、一か月遅れの歓迎会を受けていた。
「田口ちゃん、一人前おめでとう!」
渡辺の声に、谷口と矢部は嬉しそうだ。保住は若い割に、こういうノリにはついていけないらしい。微笑を浮かべて三人の様子を眺めているだけだった。
「係長、二日酔いなのに。大丈夫なんですか?」
矢部が急遽、予約をとった大衆居酒屋。小さい個室を貸し切って男五人で飲むには、少々きつい感じの場所だった。
「迎え酒だ」
田口の囁きに答える保住は、平然としていた。
「これで、田口も一人前の文化課振興係の一員であります」
歓迎会なんて言っておいて、自分たちが飲みたいだけなんじゃないのかと思うくらい、渡辺も谷口も矢部も、酒が好きみたいだ。ビールの泡があちこちに飛び交い、大騒ぎだ。
「いつもこうなんでしょうか……」
静かに飲むのが好きなタイプの田口からしたら、面食らってしまう。今までの部署では、そうそう飲み会もないし、あったとして、あまり好かない場所だった。
なにせ飲み会となると、その場にいない職員の悪口が大半だからだ。真っ向勝負が好きな、バカ正直な彼からしたら、そういう陰険な場所は好まない。
だからいくら悪口を言われようと、そういう場に行きたいとは思わなかったから、あまり参加したこともなかったのだ。
それに引き換え、この部署の飲み会は明るい。仕事とは、全く関係のない話ばかりだ。
渡辺は娘の話。矢部はアニメの話。谷口は恋人が欲しい話。そういう話に時折、口を挟んで話を盛り上げるのが保住というところか。それぞれが不愉快な気持ちになることなく、自分の話したいことを話せる場。なかなか居心地がいいのかもしれない。
「だから、魔女娘マジョリーはかわいい訳。そんじゃそこらの女の子とはわけが違う訳」
酔っぱらって呂律が回らない矢部は、アニメの話をクドクドとしている。
「その子のどこが可愛いんですか?」
真面目に話を聞く保住に、谷口は制止をかけた。
「係長、これ以上話を助長させないでくださいよ。戻ってこられなくなります」
「いいじゃないか! おれは係長にマジョリーの良さを説明しているんだぞ? ねえ、係長」
「そうですね。おれも聞いてみたい」
「嘘でしょ!?」
「本気じゃないですよね? 係長」
渡辺も口を挟む。
「え? 矢部さんをここまで夢中にさせるのだ。見てみたいし、その魅力を聞いてみたいのです」
「係長!」
「係長までアニメにはまったらどうするんですか?」
二人は、オロオロと突っ込みを入れ続ける。それを見て田口は苦笑するばかりだ。切れ者みたいなところもあるけど、抜けているところも多い。日本酒を自分のペースであおっている保住は、いつもの彼とはまた違って見えて、目の前にいる彼から視線が外せないでいた。
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