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第2章 仕事の仕方

09 野良は野良が好き

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「すみません。局長。……で、なんです?」

「なんです? じゃない」

 澤井は煙たそうに言う。

「後期の演奏会企画を新人にやらせているそうだな」

「試行錯誤中ですよ」

「締め切りギリギリだ。お遊びみたいなことやっているな。お前がやれ」

「遊びかどうかは、締め切りに決めてくださいよ」

「大きな口を叩くものだ。このざまで」

「こんなことは日常茶飯事じゃありませんか」

 保住は肩を竦めて立ち上がる。休む暇も与えてもらえないらしい。立ち上がってパイプ椅子を戻した。

「しばしお前には、きっちりとした教育をしていなかったな」

「勘弁してくださいよ。十分ご指導いただいています」

「六時に東口だ」

「仕事が——それこそ、後期の企画書が夕方に出来上がるんですが」

「明日でいい」

「話が矛盾していますけど……」

 澤井に一瞥をくれられると、さすがの保住でも減らず口は叩けないようだ。言葉を切ってから、「承知しました」と答える。

「よろしい」

 澤井が出て行くのを見送って、ますます大きくため息だ。

「サラリーマンなんて、辞めてやろうか……」

 澤井との付き合いは入庁してからずっとだ。
 
 最初の部署で、彼は課長の椅子に座っていた。入庁時から保住はこんな調子。自分の能力が高いだけに、好き勝手なことを言い放ち、上司の言うことはあまり聞かないという始末。仕舞には、係長に食って掛かって連日の大ゲンカだった。課長である澤井の目に留まらないはずがなかった。

 事あるごとに呼び出されては、説教を食らう毎日だったのだ。澤井が先に異動となったが、その時に呼び出されて釘を刺されたことも覚えている。

『貴様は市役所にとったら爆弾だ。好き勝手なことをして組織を脅かす存在になりえる。おれが在任中は、お前のことはよく見させてもらう。それがおれの責任だ』

 彼はそう言った。面倒で深くは追及しなかったけれど、なぜ澤井がそこまで自分の行動に責任をもたなくてはいけないのだろうかと疑問だ——。

 そう思っていた時に、こうして再び彼の元に配属させられた。これは、人事に澤井が手を回したのではないかと思わずにはいられない。二千人以上いる職員同士で、上司と部下になるのは、そう何度もあることではない。

 確かに、片方が偉くなればなるほど、部署は集約されてくるので、またこの人の部下になった、なんてことはあるのかもしれないが。入庁して八年で二度もということは珍しいことでもある。 

「気が進まないが」

 あの時の意味深な言葉の真意も知りたい。

「今日こそは吐かせてみせるぞ」

 今晩の澤井との晩餐を好機と捉えることで、気持ちを上げようと努力した。





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