インスタントフィクション

希望の花

ある山の頂上にどんな病でも治す力を持っている「希望の花」が咲いていました。ただし、この花は、自力で山に登り、自分の手で摘んだときにだけ、効力を発揮しました。

ふもとの村に住む男が病にかかりました。いろいろと手を尽くしましたが病は一向に良くなりませんでした。その男が助かる唯一の方法は、「希望の花」を摘むことしかありません。

男は病の身体からだにムチ打って、山の頂上を目指しました。ただでさえ険しい山道を、重い病にかかった男が登るというのは、それ自体が死期を早める行為に他なりませんでした。

それでも男は生きる希望を「希望の花」に見いだし、山を登り続け、ようやく頂上にたどり着きました。頂上は開けていて、希望の花が一面に咲き誇っていました。後はこの花を一輪摘みさえすれば男は助かります。

しかし、何ということでしょう。疲れ果てた男には、もはや花を摘む力は残っておらず、花を前にして倒れこんでしまいました。

息が絶える寸前、「希望の花」を求めたせいで死期を早めることになったことを、男は後悔したと思いますか？