罪人(つみびと)

黒崎伸一郎

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何もかもが…

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弁護士事務所に行くと警察が来ていた。
ま、まさか…?
偽の領収書を私の前に差し出した刑事は私に向かって「これがなんだかわかるな!」と言い放ち「黒崎伸一郎、詐欺の容疑で同行してもらう」
……声を発することさえできない私は黙って警察の車へ乗るしか術はなかったのだった。
車がついた場所はもちろん警察署であった。
悲しいかな私はその時すぐに釈放されるかもしれない?
という思いがあったのだ。
何故なら五十万円は弁護士に渡すつもりで持ってきていたからである。
もちろん調書を取られた時にその事はちゃんと刑事に話していたからだ。
だが、警察はそんな甘い事はない。
現実に領収書を偽造しているという事実があるからだ。
その事実は曲げる事はできなかった。
警察署内の取調室に入った私は刑事からの質問責めにあった。
先ずは弁護士事務所の領収書を偽造したかどうかを聞かれたのだ。
それに関しては実際に領収書がここに存在していて、それには私の筆跡もあり指紋さえもついている訳だから否定しても仕方がなかった。
だが、本当に金は作り渡すつもりで持ってきていたのである。
その旨を刑事に切に訴えたのだがそれは後の祭りに過ぎないことを私はまだよくわかっていなかったのだ。
三畳ほどの牢屋に一人入れられる。
閉所恐怖症の私にとってこの部屋にいる事自体が非常に辛い。
じっと座っていることができなくて狭い部屋を何度も歩き回る。
店はどうなるんだ…?
詐欺で捕まったという事はテレビや新聞には出るに違いない。
すぐに釈放されたにしても最悪しばらくは休みにしなくてはならないだろう。
テレビに出るという事は近所にはもちろん文にも知られてしまうということか…。
まだその時は事の重大さがあまりわかっていない私だったのだ。
夜も留置所の中は真っ暗にはならない。
監視をしなくてはいけないからだ。
全く眠る事など出来るわけがない。
なんて馬鹿な事をしでかしたんだ…!
今更後悔しても後の祭りだ。
私はいったいどうなるのだろう…?
何をどのように考えていけばいいのか全く分からないまま朝を迎えた。
全く眠れなくてもさすがに朝方になるとウトウトして来る。
朝食の時間が来たらしい。
鉄格子の下側から食事が入ってきた。
昨日から何も食べていないが、腹は減った感じはしない。
麦飯だろうか、見慣れないご飯と味噌さ汁と沢庵だけだ。
少し口をつけるがうまくない。
留置所のご飯は皆こんなものかもしれない…と仕方なく納得して半分ほど胃袋に流し込んだ。
午前中から取り調べが始まり取調室に連れていかれる。
取調室といってもテレビで見るようなテレビカメラで見るとかはしない…(と思う)
犯行の内容を事細かに何度か聞いてくる。
自供する間も自分のバカさに呆れてくるが、刑事からも「そんな事をやってバレないとでも思ったのか…?」
と聞かれる始末である。
バレるのはわかっていたからすぐに金を作ったのだが、それをしてしまう前に考えなくてはいけなかった。
罪を犯してしまったのだから捕まるのは当然の事だったのである。
悲しいかな、檻の中にいる今、外のことはわからない。
店はやはり閉めているのか、親が鍵を開けてバイトだけでやっているのかさえわからないのだ。
捕まってから二日経ち、三日経ち、一週間が経った。
すぐにでも釈放してくれるかもしれない…?という私の願いは崩れ去ってしまった。
二週間が過ぎ起訴されるというのがわかるともうはかない願いどころの話ではない。
起訴されるということは拘置所に送られるということである。
裁判にかけられるわけだから拘置所での拘留期間が長くなるというのだけは確実なことであった。
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