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タタキ②

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その情報とはコレだ!
四人の家族それぞれの個人情報が事細かに綴られているのだ。
学歴は勿論、最近の趣味まで調べ上げている。
どの様にして名簿屋がこういった情報を知り得るのかといえば、こういう情報を売る情報屋から買っているといった現実がある。
情報データを取り扱う会社は昨今急増している。
秘密情報、つまり個人情報を裏で売買しているのである。
よくこの個人情報は絶対に悪用はしません…ごときの文句をよく目にすることがある筈だ。
その情報は金で買われている可能性があるので注意して出来るだけ情報は表には出さない様にしなくてはならない。
このSの値段は一万円からの天井知らずである。
何故なら犯罪グループの誰もが欲しがる情報だからだ。
その一枚があればその家族は丸裸同前なのだから…。
その一枚の紙を作り上げる名簿屋の中には一年で豪邸を建てた奴までいるくらいだから、儲かるのは当然の話だ。
名簿屋はジャーナリストや情報屋などとの連携をとり、犯罪グループが必要な情報を作成する。
そのやり方は年々巧妙になる。
情報漏洩がニュースとかで取り上げられることがあるが、一般の人には何のことだかさっぱりわからない。
それだけ日本人は平和な国だと思われているのである。

話を戻そう。
翼は運転席に一人で小太りの指示通りにエンジンをかけたままで二人が帰ってくるのを待った。
小一時間程した時に二人の男が慌てて車に帰ってきた。
「す、すぐに車を出せ…!」
小太りの男の右手にはパールのようなものが握られていた。
血だ…!!!
先端部分にドス黒い血が付いていた。
慌てて車を発信する翼…。
「ど、どうしたんですか…その血は…?」
助手席に乗った小太りに翼が質問をぶつけた。
「ひ、人がいたんだ…!
留守で誰もいないって情報だったのに…」
真夜中の車の中ではっきりとは見えないが、小太りの手足が震えているのがはっきりとわかった。
「殺したのですか?」
翼は運転しながら聞いた。
運転する手は小刻みに震えている。
「わからない…。
初老の老人男性だった事だけは確かだけど、大声を出されるといけないので頭を殴ったんだ。
そしたら倒れて動かなくなったんで恐ろしくなって逃げてきた…」
もし男性が死んでいたとしたら殺人をやった事になる。
「ぽ、僕は何にも知らない…。
金になる仕事があるからって運転していただけなんだ…!」
運転中に小太りの男に言いよる翼。
大通りに出るとパトカーのサイレンが遠くで聞こえる。
このまま逃げたら殺人の共犯にされてしまう。
パニックに陥った翼はとっさにハンドルを切り、信号機の柱の鉄柱にぶつけたのだ。
「な、何をするんだ…!」
急にハンドルを左に切ったせいでシートベルトなどしてなかった助手席の小太りの男は左のガラスに頭を思いっきりぶつけた。
窓ガラスは割れて顔面から血を流している小太り。
後ろに乗っていたもう一人の男は車が止まると後部座席のドアを開けて走って逃げる。
真夜中とはいえ大通りは明るくて何人か人が歩いている。
小太りの男も逃げようとするが頭を打っていて思うように走れない。
事故した場所から数メートル走ったところで足がふらつき転んでしまう。
そのうちに警察が来て小太りの身柄は確保されてしまった。
逃げたもう一人の男も二人の警官に捕まえられている。
翼は逃げることもせずに運転席に座ったままだ。
何人かの警官に車を囲まれてはいたが、逃げるつもりは毛頭ない翼だった。
運転席で両手を上げている翼を見て警官が車の窓を開けるように促した。
「どうされました…?」
事故をしたのだから当然といえ、二人の慌て方からこの車に乗っていた三人がなんらかの犯罪に関与していると睨んだのだ。
これから翼はどのような形で犯罪に加担したのかをじっくり警察署内で取り調べられるだろう。
小太りに殴られた初老の男性は一時意識不明とまでなったが、何とか命は助かった。
翼ら三人は留置所に入れられて裁判を待つ事になった。
命が助かったとはいえ、強盗殺人未遂で裁判となる。
翼の場合は何も知らずに運転していただけとはいえ、殺人未遂の共犯という事になる。
三ヶ月間拘置所内で裁判の終審を待った。
犯罪を犯したのだから仕方がないが、初めての拘置所は一般人が思っている以上に辛い。
今回は初犯で共犯とはいえタタキの犯罪の為の運転だとは知らなかったということを裁判官が考慮して異例の執行猶予で済んだのだ。
だがこの犯罪に加担した事で翼はこの故郷の街で今まで通りに暮らしていくことができなくなり、逃げる様に街から去って行かなくてはならなくなった。
しかも家族は針の筵の上に座っている様な感じであった。
ニュースで息子が捕まった事はすぐに小さな街で広まり、両親は仕事を辞めざるを得ない状況になった。
翼には妹が一人いたが、兄の事件で婚約破棄され一家も逃げる様にこの街から去って行かなくてはならなかった。


タタキの場合余りにもリスクが高い。
メリットらしいメリットは成功した時の金だが、幾ら金があるが分からない。
今の情報社会ではタンス貯金をどのくらいしているのかという金額までが分かることがある。
その情報を基に名簿を作成する名簿屋も存在する事をあなたは知ってますか…?
貴方の情報があちこちで売られているかもしれません。
個人情報には細心の注意を図らなくてはいけませんよ!

そしてタタキなどという事は絶対に真似はしてはいけません。
たとえ成功したとしても時効までの間はずっと捕まらないかと怯えていなくてはならないし、捕まったとしても私は責任は取れませんから…!
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