ファイナルトリック

黒崎伸一郎

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一つ目のトリック

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今マジック界では数々のスターが生まれ年収は億を超える者も少なくはない。
彼らのショーの値段はピンキリで安いものは1日1万円で上は数百イヤ数千万円とも言われる。
まあそれほどの額になるにはそれ相当の知名度がいるがケントはその中に入っていた。
売れっ子のケントはスケジュールの関係で休みはあまり取れなかったが志保とのデートの時間だけは特別に入れ込んでいた。
そして今日はその中でも最も特別な日であった。
ケントが買った指輪は特注で波打ったゴールドに目にも鮮やかな1ct以上あるダイヤモンドが真ん中にあり誰もが欲しがる様な品物だった。
1千万円は下らないだろう。
だがケントにとっては金額の問題ではなかった。
ケントはあまり欲のない人間だった。小さい頃から貧乏で35歳まで大金は触ったことすらない。
もちろん大金持ちに越したことはないがそれよりも志保の笑顔を見るのが嬉しかったのだ。
ケントはテレビ出演の後からいろんなオファーが来ていたがあまり興味がなくマジックとは関係ないオファーは受けなかった。
そんなことをしなくてもお金には困らなかったのだ。
絶好調に見えたケントに1つの大きな不安があった。
それは最初のマジックショーでのことである。
実はケントのテレポートは実際には瞬間移動などしてはいなかった。
当たり前のことだがそこにはトリックがあった。
前もってケントに体型から顔まで似た人を用意した。
そして日本で特殊メイクをさせたら右に出る者がいないとまで言われていたジェーン岡田に細部まで似せて舞台の上に登場させた。
そして舞台の明かりを消しダミーの姿を隠して会場の一番後ろにいたケントにスポットライトを当てさせたのだ。
ただそれにはダミーのケントとは別に内部に協力者が必要だ。
それがTVディレクターの弓川だった。
ケントのマジックショーへの参加は弓川のTVの視聴率を上げるための秘策だったのだ。
そのマジックをする為だけなら技術はあまり必要はなかったがマジックの腕はある若手が必要だった。
もしこのテレポートがTVで認められたら必ず他のマジックの力を問われることになる。
その時にマジックを巧みに操れる者でないとまずい。
そこで顔もまずまず視聴者受けするケントに白羽の矢が立ったのだ。
何しろ経歴不詳というのが弓川にとって最適だった。
何かあったら何処かに逃せばいい。
もしも成功すれば一躍メジャーに出すことができる。
だがそのタネがバレた時にはディレクターとしての手腕が疑われることになる。
弓川にとっては賭けであった。
だがその賭けに勝って一躍有名になったケントに一人儲けさせることはしなかった。
利益の半分は弓川に渡すという条件を付けたのである。
最初はデビューさせてくれたのは弓川だし当たり前のように弓川の言うことを聞いてきたがあまりの横暴さに嫌気がさしていた。
今のままでは弓川の飼い犬のまま一生過ごすことになりかねない。
そこでケントは弓川さえいなくなればこのマジック界で大手を振って生きていくことができると考えた。
もちろん新しいテレポートの方も自分でする自信もあった。
だがまだ時期が早いと感じ、機を伺ってたのだ。
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