転生天馬は乙女に寄り添う

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第一章

ゾディアカルト聖王国

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 洞窟を進むこと2時間。
 特に問題もなく洞窟の出口までやって来た。

 ちょくちょく敵とは遭遇したが、俺の持つ【索敵】スキルとパーティとしてのコンビネーションのお陰で簡単に敵を倒していった。
 因みにロックドックとブラッドバッドが単体で出てきただけだからザコでしかなかった。

 でも、生まれたばっかりで1レベルの俺にとってはそんな雑魚でも貴重な経験値になったらしい。


(《ステータス》)

 

《名前:なし
 種族:幻獣種 ペガサス
 LV:2
 HP体力:102 2up
 PW攻撃力:270 120up
 DF防御力:124 4up
 SP素早さ:320 120up
 MP魔力:1030 30up
 称号:『転生者』、『幻ノ魔獣マボロシノマジュウ
 スキル:【水属性魔法】Lv.1
     【風属性魔法】Lv.1
     【雷属性魔法】Lv.2
     【重力魔法】Lv.2
     【回復魔法】Lv.1
     【補助魔法】Lv.1 New
     【剛力】Lv.1
     【俊足】Lv.1
     【魔法師】Lv.1 New
     【HP自動回復】Lv.1
     【MP自動回復】Lv.3
     【物理攻撃耐性】Lv.1
     【魔法攻撃耐性】Lv.2
     【誘惑耐性】Lv.1
     【視覚強化】Lv.1
     【魔力感知】Lv.2
     【思考加速】Lv.1
     【索敵】Lv.1
     【隠密】Lv.1
     【領域支配】Lv.1
     【種族統制】Lv.1
      (称号:『次期王』特典、固有スキル)

     【鑑定】
      (称号:『転生者』特典、ユニークスキル)
     【念話】
     【威圧】
     【暗視】
     【第六感】
     【自動地図】
     【幻獣浄化ゲンジュウジョウカ
      (称号:『幻ノ魔獣』特典、固有スキル)
スキルポイント:1600》



 レベルが1上がった。
 たった1レベルかよ、と思うかもしれない。けど、現在4人と一頭のこのパーティ(仮)。完成されたパーティに回復役が一人増えてもやることがない。むしろ、みんなのおこぼれで経験値が貰えてレベルが上がったのは喜ぶべきことであって悲しむのは違う気がする。
 まあ、自分の弱さと役立たず感に涙は出るかな?

 ちなみに新しく増えたスキルの【補助魔法】Lv.1は対象一人の攻撃力を少しだけ上げる効果で、【魔法師】Lv.1はレベルアップ時に+10のMP補正が入るスキルだった。


(これだけ見ると、俺はスピード特化の物理・魔法攻撃、回復、補助のバランスが取れたオールラウンダーってとこかな?)


 役職としてどっち付かずなのは微妙のような気がしないでもないけど、俺が今後どうなりたいのかが定まってない以上、選択肢は大いに越したことがない。タンク職や純粋な剣士、モンクとかにはなれないだろうけど、前も言ったけど俺的には暗殺者アサシンとか狙撃手スナイパーの方が合ってるし、好きなタイプだ。


(目指すならそういう系が良い)


 そんな感じで俺の今後について考えてたのは、一種の現実逃避に近かった。

 考えてもみて欲しい。
 俺が居たのは山のいただき。そこから僅か2時間で外に出る。
 つまりは直下して山を降ったわけでもなく、ダンジョンを踏破したわけでもなく、ダンジョンの中間ポイントのような感じで空の見える景色の綺麗な安全地帯(仮)に、3台の馬車と一個中隊の騎士がいた。
 そいつらが居ただけならまだしも、もう一台の馬車が空からゆっくりと降りて来る光景を見たらもう…………。

 これはダンジョンの意味を考え直すしかない。


(外と繋がってるダンジョンってなんだよ!)



「SPICA, ?Noso Nomoma」

「Rukesuta Chita Shitawa. Kui Ruretsu Rude Toso」

「?Tonho」

「Aa」



 騎士と回復術師と剣士が何かを相談してるけど、大方……というより確定で俺のことだろう。
 ペガサスが珍しいのか魔物を連れているのが珍しいのか、もしかしたら両方とも理由として当てはまるのかもしれないし、全然違うことかもしれない。

 言語が理解できないっていうのは本当に不便だ。
 美貴みき夏帆かほ辰巳たつみも同じような目に遭ってたら……?


(まず間違いなく夏帆と辰巳は神様に文句を言だろうな。翻訳機能付けろとか、ケチだのなんだの(笑)。
 でも、神様のアクセス権だっけ? 一回しか使えないみたいだし──



[神へのアクセス権が一回あります。使用しますか?]



 ──いらねえよ。……とまあ、こんな感じで隙あらば使わせようとしてくる所為で転生直後に誰かが一回使わされて、そのあと今まで何も起こってないから多分俺と同じで同種族間での会話は成り立つんだろう。そして多種族との会話は【念話】を使わない限り通じない。
 あいつらの種族は分からないけど、人間の言葉を理解しておいて苦労はしないはずだ。何かあったら俺は【念話】を使えば俺の言葉だけは通じるしな)

 そういうことをつらつらと考えていたら回復術師が近付いてきた。



「?Susgape. ?Rukide Buto Raso」



 両手を翼のように羽ばたかせている彼女は、きっと飛べるのかと聞いてるんだろうと思って、素直に飛べないことを伝える。



(「悪いな。生まれたばかりの俺はまだ飛べないんだ」)

「?!Ina Ma Muu」

「!Ina Rujinshi」

「?Rua Isechi Ina Ma Muu」



 みんな凄く驚いてる。
 「生まれたばかり」に驚いてるのか「飛べない」ことに驚いてるのか判断つかないけど、ざわざわとした驚愕の声がしばらく続いた。



「?Udo」

「?Kui Kuo」

「Ina. Kui Ruretsu Ittaze」

「?Rusu Udo. Tsumoni Susgape Ina Buto」

「SPICA, ?Rusu Rumerakia」

「Ina. Ruiniki Shitawa」



 回復術師の強い、決意の籠もった言葉だった。
 言ってる意味は分からないけど……。


(なんか、俺のせいで揉めてる……んだよな? 自意識過剰とかじゃなくて、事実だよな?)


 申し訳なさにその場から飛び去ってしまいたかったけど、今の俺には無理──


(本当に飛べないのか?)


 母親の話だと成長が足りてない、みたいなことを言っていたけど、やる前から出来ないと決めつけるのは好きじゃない。
 何事もやってみないと分からない。出来たら儲けものだし、出来なかったら出来ないことを素直に受け止める。そのあと努力するか諦めるかはその時々による。

 そんなこんなで未だに囁き合っている集団から少し距離を取って、ゆっくりと背中の翼を広げた。

 飛ぶ、ということ自体は知っている。
 ペガサスとして生まれたからなのか、身体にどうすれば空を飛ぶことが出来るのかは刻み込まれている。
 あとはそれを実行するだけ。
 成長が足りないってことは筋力とかが足りない、レベルが足りない、とかそういうことだと思う。
 たかが1レベル上がっただけで飛べるとは思わないだろうけど、されど1レベル。やってみる価値は十分にある。


(風を空気と捉えるんじゃなく、塊りと捉えて……それを翼で押し込む。その時に体に力を入れずに、翼だけに力を込めて……)


 バサリと羽ばたく翼の速度と威力を徐々に上げていき、周囲はバサバサという音だけが響いていた。

 中々上手く体が浮かばず、ポニーくらいの大きさの馬が空を飛んだらファンタジーと言うよりファンシーだな……なんて余計な考えが頭をよぎったのを振り払い、より一層飛ぶことに集中する。



「Rubanga...」



 回復術師の囁きが引き金になったわけじゃないけれど、なんとなく背中を押された気がした瞬間に俺の体は宙に浮いた。


(あ、飛んだ……というか、浮いた?)


 一度飛んでしまえば後は簡単だった。
 翼で風を掴む感覚は自転車に乗る感覚と似ていて、乗れてしまえば上昇も下降も、左右の旋回もあっさりと出来てしまう。
 自由に空を飛べたら、後は風景を楽しむだけ。

 流石に高度を上げれば上げただけ重力が働くうえに現在位置が山野山頂付近ということもあってあんまり高くは飛べないけれど、それでも地に脚を付けている時より空気が澄んでる気がするし、何より遠くまで見渡せる。


(うわ、すご……)


 俺が居る山は標高が低いからなのか雪の「ゆ」の時も見当たらなかったけど、遠くの山はそれなりの標高なのかきちんと雪化粧をしていて、山の青さと雪の白、灰色掛かった雲の色合いが凄く綺麗だった。



[【冷気耐性】Lv.1、【氷結耐性】Lv.1を獲得しました]



 寒さも忘れて風景に魅入ってた俺の頭の中に機械的な声が水を差した。
 いや、逆に助かったのかもしれない……。脚先の感覚が分からなくなっていたからな。

 多少の寒さと冷たさによる麻痺が緩和され、ゆっくりと元の場所へと降りていく。
 全員に視線が俺に向けられていて恥ずかしい……。


(ちょっと調子に乗りすぎたか?)


 地面に降り立つと、回復術師が駆け寄ってきた。勢い的にはそのまま抱きつきそうだったから一歩身を引くと、案の定抱き着こうと思っていたのか前のめりにツンのめって恨みがましい視線を貰ってしまった。

 別に避けるのは普通だと思う。異性だし、出会って間もなければ尚更だ。



「Ina Idanmo」

「?Sou Ina Buto」

「Rusu Udo Kutsu Sou」

「Kashita」

「Kui」



 またしても騒めき出した騎士達に魔法師が何かを言って黙らせた。すごすごと馬車に乗り出した騎士達を見るに、「喋ってないでさっさと乗れ」みたいなことを言ったのかもしれない。



「Kuyaha Kui Rukide Binju」

「Aa」

「Aa」

「Rueka. Zodiacult」



 全員が馬車に乗り込むと、地面に紺色の光で描かれた紋様が浮かび上がり、馬車を一台一台その光で包み込んだ。



「!Kui Miki」



 馬車の扉を開けて回復術師が手招きしながら何かを叫んだ。すると馬車はゆっくりと浮かび上がり、徐々に高度を上げていった。

 ついて来い的なことを言われたんだろうと、俺も翼に力を入れて空へと浮かんだ。
 一回目よりはスムーズに飛ぶことができたが、まだまだ拙いという言葉が似合うくらいには不格好だった。


(目指すは颯爽と? 優雅に? とにかく格好悪くならないように飛びたいものだな)


 そんな事を考えながら後を追うと、馬車は空中でピタリと止まってゆっくりと方角を変えて走り出した。
 【自動地図】は彼らの方角を南東だと教えてくれている。ちなみに彼らの点は相変わらず緑色で、これが仲間を意味するのか敵対しないその他を意味するのかが分からない。

 仲間というグループにされていると思うと複雑だ。
 パーティを組んでるわけでもなく、ただ目的地に向かって一緒に行動しているだけ…………これを仲間、パーティと呼ぶのか?
 まあ、どうでも良いか。こういう定義は曖昧だからこそ役に立ったりするものだ。

 次々と南東に向かって進む空飛ぶ馬車に遅れないよう、俺も羽ばたく力を強くした。
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