上 下
58 / 110

ヒューの正体

しおりを挟む
バシュッ!

ティーンに絡み付いた植物をヒューが爪で刈り取る。

「すまん!助かった。」
絡み付いた植物の破片を払い、暗器を敵に投げつけるティーン。

狐の部下の腕に命中し、敵は怯む。怯んだ瞬間、ヒューに投げ飛ばされ気絶する。

ティーンは魔法で捕縛する。
ヒューはウランとヒヨリの援護へと向かった。

それを見たヒューはアルへと視線を向ける。

ティーンは暗器を狐の部下の背中に投げつけ、命中させ捕縛。

アルは狐と一対一となる。

「チッ!」
舌打ちする狐にアルは風の刃を向けるが素早い動きで避けられた。

「ティーンさんありがとうございます!コイツは任せて、ヒヨリを!」

ティーンは頷き、ヒヨリ達の方へ向かう。


「そんなこと言っていいんですか?先程から防御しか出来ていませんが。」

狐の回し蹴りを腕で受け止めて、上空へ飛ぶ。

「一対一なら余裕だよ?うちのマスターと違って弱いな狐のギルドマスター。」

ニヤッと笑い風の刃を放つ。

「逃げているだけの男に言われたくないですね!」

風の刃を交わし、獣化を強める。

アルは十字刃物を出し、風で操る。

「今度逃げるのはお前だ!」

狐は刃物を避けるが、軌道を変えて、追ってくる。

「な!チッ!」

避けつつ、10本の刃中二本を爪で止めるが残り8本に襲われる。

狐の肩と足に2本刺さりながらも、避けるが、何度避けても軌道を変えて戻ってくる刃物に狐は焦った。

焦り、アルから意識を逸らしてしまい、気付いた時にはアルがなぜか目の前にいた。

「ハッ!グアッ!!」

アルの風の球が狐の腹に命中し、暴風のように暴れ狂う風の圧力で吹っ飛び、木に激突し、意識を失った。

アルは狐を縛り上げる。


「どうだ!ヒヨリ考案の技の威力は!」


残る俺の仕事は……。

アルは風の囁きを使い、ある者に連絡を取る。


*******


「ヒヨリ!!」

ヒューは鬼ザメの部下からの炎攻撃を避け、爪で切り裂く。

「グアッ!」

残り、部下3人と鬼ザメ!

ヒューの蹴りが、部下の脇腹にヒットし、蹲るが、魔法を使おうと手を伸ばしたところをティーンに捕縛される。

ティーン、ヒューも加わり、鬼ザメはグッと顔を歪めた。

自分の部下も残り2名、オーク達も減り、残り五体ほど。

このままでは負ける!!

何か隙は……。

ふと、鬼ザメは気付いた。何故追い込まれてもヒヨリは逃げるだけなのか、ギルドメンバーでもあるのに。

ニヤッと顔を笑わせて、鬼ザメは両手を上げた。


「降参だ。俺達の負けだ。」

視線で部下に合図をし、部下達も頷き、両手を上げた。

ティーン、ヒュー、ウランは怪しげに3人を見るが、ヒヨリはホッと溜息をついて、ウランの背中から少し離れた。

必死にしがみ付いていたのを一歩、たった一歩が隙を招いた。

鬼ザメはニッと笑うと、足から水魔法を繰り出し、ヒヨリ目掛けて放つ。

ウランは咄嗟にヒヨリを抱き込むと、ウランの背中に水の刃が刺さる。

「ウラン!!」

ウランの背中に手を回すと、温かい血が流れ、ヒヨリの手を真っ赤に染める。

そして、刺さった水の刃が溶けて、ヒヨリの首に巻き付いた。

ぐっ!!
引っ張られるように、鬼ザメの元に行き、ヒヨリの首をより締め付けた。

「ガハッ!」
苦しく悶えるヒヨリに、ティーン達の顔色が変わる。

「ヒヨリ!!」

「おっと、近づくな?コイツがどうなってもいいのか?」

鬼ザメのニヤついた顔にティーンは体を硬らせる。

「ヒヨリから離れろ!!」

ヒューの呻くような叫び、興奮と怒りからか、ヒューの周りを青い炎のようなオーラが纏う。

それを遠目から気付いたジーンが焦る。

「よせ!落ち着けヒュー!」

だが、苦しむヒヨリの顔にヒューの怒りは治らず、全身の獣化が始まった。

ウオオオオオオオオオ!!

ヒューは咆哮を上げ、姿を変えていく。

ヒヨリは苦しみながらも、ぼやける瞳でヒューを見た。

茶色い毛並みだったヒューが青黒く艶やかに光毛並みとなり、獅子の姿へと変わった。

雄の巨大なライオン…しかも、青黒い毛並みにピンクの瞳。

「ヒュー?」

「な、な、青黒いライオンだと!?こんな、ライオンの獣人見たことないぞ!!」

ヒューはシュンッとその場から一瞬の速さで、鬼ザメの間合いに入る。

怯んだ鬼ザメはコンマ何秒魔法を放つのが遅れ、ヒューの鋭い牙に肩を噛まれた。

「ギャーーー!!」

鬼ザメの悲鳴に、部下は顔を青白くし、数歩下がるが、ティーンに捕縛される。


鬼ザメの血で汚れた口周りを舌で舐めながら、鬼ザメの身体を前足で踏みつける。

ボキボキッと鬼ザメの肋骨の折れる音が響く。

「ウガッ!!」

鬼ザメは口から吐血し、意識を失う。

失ったせいか、ヒヨリの首に巻き付いた水も、消えた。

ハアハアハアと必死に息をするヒヨリ。

そして、アルの加勢により、残りのオークも片付けたジーンがヒューに駆け寄る。

「馬鹿野郎!せっかく目立たなくしていたのに!」

ジーンの言葉に、ヒューは頷き、ヒヨリの服に噛み付いた。

「ハアハアッ!?へっ?ヒュー?」

グイと顎の力で持ち上げられたヒヨリ。

「ヒュー離して、ウランを助けなきゃ!」

もがくが、離さないヒューに、アルとティーンの顔が厳しくなる。

「ヒヨリを離せ。」

アルの言葉に、いつの間にか集まった盗賊達の中からタキが現れる。

「協定は、敵を倒すまでだったはず。お前らの言うことをもう聞く必要ないってさ。」

ニヤッと笑うタキに、ヒューは頷く。

「ヒュー!やめて!とにかくウランを!」

ヒヨリはヒューに話しかけるが、何も言わず、ヒューはヒヨリを加えたまま、盗賊達の後ろへ歩き出した。

盗賊達はヒューとヒヨリの壁になるよう剣を構えてティーン達の前に立つ。

「くっ!貴様ら!!」
ティーンは眉間にシワを作り、戦闘態勢に入る。

「いやだ!いやだよ!ヒュー!!」
森の中へ消えていこうとした時、目の前に大きな土壁が現れた。

つ、土壁!!

ヒヨリは振り向くと、うつ伏せに倒れながら、手をかざすウランがいた。

ウラン!よかった!生きてた!!

グルルと忌々しそうに唸るヒュー。


すると、ジーンは魔法で土壁に穴を開けた。


ジーンの魔法は水のようだ。


「ヤダよ!!ヒュー!お願い!!こんなことされたら、嫌いになっちゃうよ!」


開けた穴から脱出しようとするヒューにヒヨリは暴れる。

「ヒヨリ!!」

アルとティーンの声がする。


いやだ!ウランを治さなきゃ!アル、ティーン!!

だ、誰か助けて!!


その瞬間だった。
何度も聞いた、自分を愛おしそうに呼ぶ声が、懐かしく、耳に入った。

「ヒヨリ。」

ヒューは殺気を露わに、振り向いた。

そこには、真っ黒な闇の切り裂きから現れた人物が立っていた。

「ヒヨリ、会いたかった♡」

相変わらずの無表情、だが、ヒヨリはその存在に安堵のあまり、涙した。

「ガルー!!!」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

リバになった高校生

motoi
BL
男子高校生のゆうきは、興味本位で後輩のたくとを部屋に誘った。後輩の思わぬ色気にやられ、気づくと手を出していた。ちょっとした悪戯のつもりが、相手の沼に嵌ってしまい.........。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

処理中です...