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何かがおかしい。

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「助かった。礼を言う。」
ウランは剣を振り、血を払う。

「いや、丁度帰る途中だった。」
ライオンさんは血で汚れた手をぺろぺろと舐めて綺麗にしている。

「そうか、タイミングが良くて良かったよ。こんな時間に仕事か?」

多分ウランは探っているんだろう。あの視線がライオンさんじゃないか…。

「ああ、俺が探していた人物が丁度いてな。」

そう言って、細い路地に入り、何かを引きずってきた。

「元傭兵のジョン・キーパー、依頼書にいた。」

ゴロンと転がる男は縛られて気絶していた。

「な!あのジョンか!?何故こんなとこに!?」
ウランはギョッと目を見開く。

「へぇ、こいつを知っているのか?」
ライオンさんは目を細め、ウランを見る。

「!!…ああ、噂は聞いた事ある。ギルド回った時も依頼書があった。」
微かに眉を寄せたが、ウランは平然と説明する。

「なるほど。まあ、いい。この町でコイツを見たという情報があってな。張っていたら、コイツがお前らを見ていたから、隙をついた。多分マッサージ屋を狙っていたんだろう。今コイツは盗賊に雇われている。人攫いの一味だ。」

ライオンさんは、転がっている男を蹴り上げる。

「人攫い!?」
俺はビックリしてライオンさんを見た。

「お前は興味深い。気をつけな!じゃあな!!」

片手で男を持つと、飛び上がり、屋根の上で姿を消した。

「あの視線がジョン・キーパー?」
ウランは納得いかない様子だ。

とにかく一旦戻る事にした。


******

「ジョン・キーパー!?」
アルは驚いて立ち上がる。

なに?その人有名なの?

「負け無しの傭兵と言われていてな。強いが金の為なら何でもやる奴だ。2カ国の戦争に、どちらからも金をもらって、国を騙した罪で追われて、この国に潜んでいると噂があり、依頼書が何年も張ってあったんだ。国を騙した事で傭兵として働く権利を奪われ、どこに潜んでいるかと思えば…。」
ティーンが俺に説明してくれた。

うわ!2カ国から指名手配かよ!?
ヤバイ奴とは分かった。

「本当に人攫いの盗賊に?そんな情報出てたのか?」

「俺はそんな情報は知らん。ただ、嘘とも言えん。獣人の絆は強い、そしてプライドが高い。だから、獣人が人攫いにあった場合、こちらに情報は一切回ってこない。獣人の中で回っている話なら、俺が掴むのは極めて難しい。」

「くそ!なんか、気になるんだよなあいつ!あの鋭い視線がジョン・キーパーとは思えない!しかも背後からやられた奴だとは!!」
ウランはライオンさんが気になるらしい。
確かに、ライオンさんは普通じゃない気がする。だけど、俺は嫌いになれないんだよな。

「まあ、とにかくヒヨリ、今後も狙われる可能性が高い。明日は俺もいる。俺達から離れるな。アルは火山の狐が集まるらしい酒場で情報を集めろ。」

俺達は頷いた。

******

「あっ!今日も来てくれたんですね?昨日はありがとう!」

現れたライオンさんに、ティーンとウランの空気が変わる。

「…今日は1人増えたな。」
ライオンさんはティーンを見る。

「ああ、前話した投資してくれてる方で、様子を見に!」

俺はぎこちないが笑う。

「ふーん。てか、お前ら兄弟似ていないな。髪がまず違いすぎる。」
ライオンさんの言葉に、ウランがにこやかに近づく。

「良く言われます!私の母は早くに亡くなり、連子同士なんですよ。ここじゃ珍しい黒髪でしょ?俺の自慢の弟です。」

「なるほど、俺もこの黒髪に引き寄せられた。」
優しく煌くピンク色の瞳に、一瞬ドキッとした。赤だと思っていた瞳は赤より薄くピンクに近い。

「今日もよろしく。」
「かしこまりました。」

うつ伏せに寝る彼を、俺はほぐし始めた。

俺は、ほぐし始めてから…何か違和感を覚えた。
なんだ?何かが気になる……
背中がゾワゾワする……
わからない……
何だ…?

いつもの様に寝息が聞こえるが、この違和感に、俺は手を止めた。

辺りを見回すと、ティーンは客に話しかけられて、少し離れた場所にいる。

ウランも側にいるが、客対応をしていた。

俺は、気付いた。この違和感の正体。
寝息は聞こえるが、この背中の強張り…彼は起きている。起きているのに、何故、寝たふりするんだ?
何かおかしい!!

「ウラン!!」
俺がウランを読んだ瞬間、ウランも俺を見て、手を伸ばす。
だが、たったコンマ何秒の一瞬で、俺は奴の腕の中に捕まり、屋根の上にいた。

「ヒヨリ!!」
叫ぶウランにティーンが駆け寄る。

「ハハハ!!さすがだ。良く気付いたなヒヨリだったか?危うく作戦がおじゃんになるとこだったぜ。コイツはもらっていくぜ?お兄さん?」

「ウラン!!ティーン!!」
俺は必死に叫んだが、次の瞬間、身体に衝撃が走り、暗闇に沈んだ。

「おやすみ可愛い子ちゃん。」

「ヒヨリー!!」
ウランが叫ぶ中、奴は消えていった。

くそっ!!俺は何してんだ!!何故ヒヨリから目を逸らした!!

ウランは地面を拳で叩く。

「ウラン!!俺の責任でもある!見ろ、今日の客、全て消えた!最初から奴の戦略にやられていた!!」

ティーンは悔しそうに、歯軋りをする。

ヒヨリ!!すまん!!直ぐに助ける!!

「とにかく、今奴らを探しても見つからないだろう!アルとまずは合流だ!!」

「立て!ウラン!!」
ティーンはウランを立たせ、アルの元へ向かう。







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