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勇者では無いかも。

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ライラックはテントの中に、キメラをいれると、濡れタオルで身体を拭いて、スープで赤くした胸元にポーションをかけてやる。


「ちゅめたい…。」

ポーションが冷たいのか、ペチペチと胸元を叩く。

その様子が可愛くてニマニマするライラック。

みるみる赤さが無くなると、目を見開き、多分びっくりしたんだろう。

「ない!ないよ!」

キラキラの目がこぼれ落ちるんじゃないかと思うほど大きくして、胸元とライラックを交互に見ている。

「これは、ポーション。傷や痛み、魔力を治すんだよ。」


「ぽーちょん。」 

「ポーション。」

「ぽーちょん。」


まだ無理そうだな。と頭を撫でる。

気持ち良さそうに、手に擦り寄り小さなキメラ。

可愛さに抱きしめ、毛布に2人して潜る。


「さあ、寝るぞキメラ。」

「ねんね?」

「そう、ねんねだ。」

ギュッと抱きこむと、キメラは寝る準備をする様に、指を口に含みしゃぶり出す。


ちゅぱちゅぱと指に吸い付くキメラを撫でると、ウトウトしだした。

男で剣士の俺が、こんなにも可愛く感じるとは思わなかった。

ジンクが夢中になるのもわかる。


結婚、子供なんて考えなかった。自分は戦場で死ぬと思ったが…

「今ならいいパパになれそうな気がする。」


いつのまにか寝てしまったキメラの体温を感じながら、眠りについた。



*****


ペチペチと頬を叩かれる、目を開くと、キメラが俺の顔を覗き込んでいた。


こんなにもぐっすり寝たのは久しぶりだった。

ヴィートがバリアを張っているにせよ、まさかここまでぐっすりとは。

キメラの力か。


「おはよう、キメラ。」

「はよじゃます。」


なんの呪文だ。


「おんも、こわい。ちゅよい。」  

おんも?外か?


すると、ピリッと物凄い殺気が背筋を走る。

まさか!!バリア内に敵が!?

キメラが気づいて俺が気づかないとは不覚!!

ヴィート達は!?

バッと剣を持ち外にでると、夜と同じように、木の丸太に座り、こちらのテントを睨んでいるジンクがいた。


ドス黒いオーラに包まれたジンクがただならぬ殺気を出している。

本当に勇者か?


「お、おまえ、まさか一晩そのままか?」


俺が恐る恐る聞いても、無言でジッと見てくる。


魔王にしか見えない。


「……お前がキメラに変な事をしないよう、見張っていた。そして、もしかしたら、キメラが寂しがって出てくるんじゃないかと待機していたが、徐々に寝息が聞こえ、殺してやりたくなる感情が増えて押さえられなくなったら朝だった。」



こいつ、こんなに喋る奴だったか!?

なんか違う意味で怖いし、何言ってんの?


「もう、ずっとこんな感じで怖いんですよ。」


水を鍋いっぱいに汲んできたヴィートが困り顔で現れた。


「ヨシュアも殺気にやられて、早めに起きて、祈りを向こうでしてるよ。…ライラックだけだよ、珍しいね。あんだけの殺気の中…キメラ効果?」


そうかもしれない。


おずおずとテントから出て、俺の足に隠れるキメラに、ピクリとジンクが反応する。

シュルルルと殺気が消え、キメラを見る目が優しく変わる。


「キメラ…来い。」

ジンクは手を差し出すが、先程の殺気が怖かったのか、足の影から出てこない。


「こわい。」

キメラの言葉にショックを隠せず、ピシリと固まるジンク。


流石に後が怖いので、キメラを抱き上げ、ジンクの側に寄る。

「キメラ、さっきのジンクは、キメラが心配で堪らず、殺気を出しちまったんだ。だから怖くないよ。」


「しんぱい?おこんにゃい?」

チラッとキメラはジンクを見る。

ジンクはコクコクと頷く。


「怒っていない。」

その言葉に、キメラは、身体をジンクの方に傾けて、手を広げた。

抱っこの合図に、ジンクはライラックから奪うように抱きしめ、キメラの頭の匂いを嗅いだ。


スーハースーハーするジンクは気持ち悪かった。
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