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第一章 魯坊丸は日記をつける

十夜 魯坊丸、正月の挨拶をされる

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〔天文十六年 (一五四七年)正月〕
年が明けて御年、二歳。
家臣らから正月の挨拶で、無事に二歳を迎えたと喜ばれて戸惑った。
えっ、俺、もう二歳で何ですか?
数え年は生まれた時点で一歳と数えられ、正月を迎えると二歳となる。
だから、正確には生後十ヵ月の0(ゼロ)歳児でも二歳として扱われる。
十二月に生まれると一月も経たない内に二歳とか無理ゲーだろ。
生後十ヵ月の俺もタッタッができるくらいなのに、お行儀よく座らされていた。
なお、城主一族が上座を外し、その隅に陣取っていた。
何故なら、当然のような顔をして千秋季光がきて、その一団が上座を占拠したからだ。
季光が皆を前に俺を褒め讃えた。

さて、城詰めの家臣など三十人もいないのだが、正月になると配下である中根北城(牛山砦うしやまとりで)の村上小善、中根中城(菱池砦ひしいけとりで)の村上弥右衛門らも集まって総勢百人を超えた。
熱田神宮の荘園である長根荘を治める荘官しょうかんもやってきた。
この荘官が村上一族を束ねる長であり、村上の血を持つ俺に期待していると祝い言葉を送ってくれた。何でも母の父である大喜喜平の母、俺にとって曾祖母ちゃんが村上一族の娘らしい。
俺は村上家の血を引き継いでいるらしい?
親父に仕えている叔父、中根なかね-康友やすともの子も挨拶にきていた。
大喜喜平の妻、お祖母ちゃんは中根康友の娘だった。
つまり、養父の中根忠良は大々叔父にあたるとか?
もうほとんど他人だろう。
兎も角、俺は祖母に中根家の血を持ち、曾祖母に村上家の血を持っている。
両家の血縁だから、親父は俺を忠良に預けた。
俺が忠良の養子となり、中根家を継ぐことになっても抵抗が少ないと……そんなに血筋って大切なのだろうか?
その忠良は千秋季光の与力だ。
親父(信秀)の子を千秋家に預けるという意味があり、千秋家を信じている証であった。
これはていのよい人質であり、人身御供ひとみごくうだ。
娘を嫁がせるのが戦略に一つなら、息子を養子にくれてやるのも戦略の一つのようだ。

さて、中根家で唯一上座に座らされた俺に引っ切りなしで挨拶が続く。
福も通訳で大忙しだ。
端に追いやられた養父も納得しているので良いのだが……本当にそれで良いのか?
というか、挨拶だけでもう疲れた。
最後の方はよく覚えておらず、言葉も「だいぶだ」(大義だ)としか言っていなかったような気がする。
千秋季光は熱田神宮の神儀が詰まっているので宴会に参加することなく帰っていった。
俺も疲れた。
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