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32.小さな領地。

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あれから3年、私は元気です。
皆も元気ですか。
勝手に居なくなって御免なさい。
そろそろ迎えに行こうかなっ~~~と思っていたけど、その必要がないようですね。
ワイバーンの山の手前に火災が上がり、その火災が近づいています。

「ジュリ様。お昼に致しましょう」
「そうしましょう」
「今日はクリームシチューに挑戦しました」
「ジュ、ジュ」

新しいもふもふを私は抱き上げた。
シークとアーヘラの子供だ。
あの日、山に落ちたワイバーンの討伐を終えた私は、まだ下で戦っているイリエ達と子供らに心の中で別れを告げて、姿が見えなくなる魔法で町に戻った。
町はまだ大騒ぎだった。
教会に入ると牧師が出迎えてくれた。
教会は火傷の怪我人が運ばれて大変な事になっていた。
私は残っている魔力で範囲魔法の『癒やしヒール』、『回復リカバリー』、『鎮痛アナルジーズィア』、『冷静クール』、『再生リプダクション』を重ね掛けした。
これで落ち着いただろう。
そう思うと新しい重傷者が運ばれて来た。
私は残っているすべてのポーションを取り出して使ってくれるように言い残すと、牧師に「お世話になりました」と別れを告げた。
後はシークとアーヘラを連れ出して、ローブを深く被って町を出ると、闇収納から筏を出し、その筏でシッパル川を下って行った。
山羊や豚なども連れて行くつもりだったが、まだ買っていなかったので、牛の番いのみを乗せた。
定期的に索敵魔法を行なうだけで魔魚は寄って来ない。
河を下って楽に逃げる事が出来た。

「ジュ、ジュ」

シークとアーヘラの子供は可愛らしく私に懐いてくれる。
今年は二人の双子を生んで子供は3人になっている。
一年目は洞窟に暮らして貰ったが、今は立派な家を建てた。
新しい住民が来ても良いように村を造って、様々な準備を進めている。

「何か問題はありませんか?」
「ここまで快適な暮らしはありません」
「ジュリ様のお陰です」

まずは森を焼いて畑を拡大した。
畑の向こうには、大きな穴を掘って湖を造る。
河から砂層のトンネルを掘って魔物が入って来ないように工夫している。
湖の外側には二重の万里長城のような壁と掘で覆っている。
巨人が攻めて来ても大丈夫だ。
警備はワイバーンの魔石を使ったゴーレムがしている。
海岸から少し上がった所の村を造り、そこに屋敷も建てた。
私が造った瓦屋根の木造建築物だ。
村には城壁はないが、深い川堀に覆われている。
農業区、牧場区、森林区などを分けて、こちらもゴーレムを使って収穫と牛の世話もやらせている。
灯台を建てた岬の脇に港も造り、その奥に建てた造船所で捕鯨船と漁船を造った。
シークは村長 兼 防衛隊長 兼 船長だ。
アーヘラは副官で登録している。
最後に私はマスターだ。
手下がすべてゴーレムというのが笑いの種だ。
この3年間は『村を造ろう』を楽しんだ。

海は最大の鉱山であり、鉱物採取ネットが銅、鉄、銀、金、ミスリル、オリハルコンを産出してくれる。
金などは海水1トンに対して1mgと採掘量が少ないのが欠点だ。
しかし、枯渇する心配はない。
海中にネットを張って、昆布が生長するように様々な鉱物が付着するのを待つだけなので楽な作業だ。
私は自重を少し緩和して、かなりハイテクな村を造った。
目玉は何と言ってもゴーレムだ。
すべての管理をゴーレムがやっている。
村の人口が6人のみ。
建てた家々がすべて空き家のゴーストタウンだ。

「ジュリ様。そろそろ森を焼く煙が対岸に近づいて来ましたが、何か準備致しましょうか」
爆裂業火エクスプロージョン並の爆発音が聞こえるから、かなりの魔法使いがいるようね」
「明日辺りでしょうか」
「明日辺りね。夕方は出迎えのパーティーを準備してくれる」
「畏まりました」

村長兼私の邸宅で豪勢なパーティーだ。

翌日、早朝から筏を組んで大河を渡ってくる。
襲ってくる魔魚を倒しながらなので到着は昼頃だった。
最初に筏を降りて来たのは少し成長したアーイシャだった。

「ジュリさん、お久しぶりね。やっと来られました」
「アーイシャ様。お久しぶり」
「様は要らないわよ」
「では、アーイシャ。再会出来て嬉しいわ」
「私もよ。ずっとお礼が言いたかった」
「私は町を壊した事を謝りたかったわ。随分と死んだのでしょう」
「そうね。100人くらいは亡くなったかしら」
「御免なさい。そんなつもりはなかったのよ」
「謝る事などないわ。貴方が居なければ、城壁町ウェアンに住む2,000人の住民は死に絶えたし、私も助かっていない。そして、シッパル男爵領は壊滅してしたわ」

アーイシャが笑い、私も微笑んだ。
握手を交わした。
だが、アーイシャが少し奇妙な顔で首を傾げて聞いてきた。

「つかぬ事を聞いてもいいかしら?」
「何かしら」
「前に会った時より小さくなっていない?」
「一緒よ。アーイシャが大きくなったのでしょう」
「そうかしら?」

アーイシャの正解だ。
神力にパンパンに膨らませた体など、体に悪い事を思い知らされた。
新しいもふもふちゃんを間違って眷属にしないように、少しずつ体から神力を回収して年相応の体格に戻った。
正確には、神力を抜くと縮んだという方が正しい。
私の実年齢は3歳半とであり、少し成長が早い4歳くらいの幼女となった。
ここからは普通に成長する。
するよね?
以前は5歳くらいまで成長させていたので、わずかに小さくなっている。

一方、体力と魔力とステータスはかなり伸びた。
神力にストックも十分だ。
今ならワイバーンの群れがやって来ても余裕で倒せる。
ウェアンを襲ってくるのを2~3年ほど待ってくれれば、被害を出さすに苦しまずに殺して上げられた。
神力を混ぜた索敵と普通の索敵を区別して使える。
日々、成長している私なのだ。

「もう良いかしら? そろそろ私達に回してくれない」
「では、一言だけ先に譲るわ」

後ろに見知った顔がずらりと並ぶ。
イリエ、ヨヌツ、ソリン、リリー、眷属ちゃんズと三守護者だ。
皆成長して凜々しい青年と愛くるしい乙女になっていた。
リリーだけが以前の儘で安心した。

「馬鹿野郎。俺達を置いて行くとか、主人失格だ。それだけが言いたかった」
「かなり鍛えました。もう一度、仕える機会をお与え下さい」
「私はジュリ様の従者です」
「私は金貨10枚を返しに来ただけよ」
「「「ジュリ様。酷いです」」」
「「「急に居なくなるとか、もう嫌です」」」
「「「もっと魔法を教えて下さい」」」
「「「わ~~ん、会いたかったです」」」
「その・・・・・・・・・・・・」、「・・・・・・・・・・・・です」、「・・・・・・・・・・・・よかった」

眷属ちゃんズの声は四人で重なって聞き辛く、三守護者は照れて言葉になっていない。
護衛や従者や騎士らは沈黙していた。
アーイシャが一歩前に出ると皆が下がり、「では、要件を言わせて貰うわ」と断った。
どうやらアーイシャのターンらしい。

「貴方はアラルンガル公爵家から邪神の使徒として手配されている。魔の森の支配者ですって。アラルンガル公爵家は本格的に魔の森の攻略を始めているそうよ。いずれはアラルンガル公爵家の兵がここまで来るでしょう。ジュリ。私と共闘しましょう。アラルンガル公爵家は共通の敵。一緒にアラルンガル公爵家を打倒しましょう」

アーイシャが差し出す手に私は少し戸惑った。
平和が一番だ。
殺し合いなどやりたくない。
私は返事を待って貰って、一先ず、皆を村に案内する事にした。
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