21 / 34
20.年齢詐称していますが、魔女じゃないです。
しおりを挟む
カランカラン、道具屋の扉を開けると鳴子が音を上げて来客を知らせる。
中は少し薄暗く、台に商品が並んでいた。
奥の机に私を呼び出した道具屋の爺さんが腰掛けており、爺さんが眼鏡をかけ直すとこちらを向いた。
「来たわよ」
「おぉ、こっちに来て、そこに腰掛けてくれ」
爺さんがニヤリと笑ってこっちに来いと手招きする。
私は進められる儘に椅子に腰掛けた。
やかんを取って急須にじょろじょろとお湯を注ぐと、少し回してから茶碗にお茶を入れて出してくれた。
飲めという事だろう。
私は小鳥のようにちびちびと飲んだ。
爺さんは自分の茶碗にも注いでずずずという音を立てて飲む。
「年が行くとこれだけが楽しみになる」
「はぁ、そうですか?」
「来て貰って済まんな」
「仕事なら受けさせて貰います」
「その仕事だ。だが、その前にこれを返しておく」
下の戸棚から袋を取り出して、ガチャンと音を立てて小袋を台の上に置いた。
金貨10枚が入った小袋だった。
「儂はポーションに詳しくはない。中級ポーションとして買わせて貰った。悪く思わないでくれ」
「別に不満はありません」
「そう言って貰えると助かる。持って行かせたらハイポーションとして買って貰えた。これは差額だ」
「あれはハイポーションじゃないわよ」
赤子の小さな胃に併せて改良版だ。
ポーション一杯でお腹が膨れて動けないという事態になった。
それを改善する為にぎりぎりまで水分を飛ばした。
極上のポーションでしかない。
その後、激マズなポーションに嫌気が差した私が水飴ドリンクを混ぜたグレードアップ版だ。
品質は落ちて上級ポーションになった。
飲みやすさと速攻性が売りだ。
ハイポーション特有の欠損部が完治し、状態が正常値に戻るという効用はない。
「どうでもいい。買い手がハイポーションと言うならハイポーションだ」
「私もくれると言うなら貰っておくわ。でも、後で返してなんて言わないでよ」
「言わないさ。だが、あとどれくらいの在庫がある?」
「手持ちはあと10本ね」
「そうか」
そう言って爺さんが肩を落とした。
薬草を採取しながらこの町に向かって来たので薬草の在庫は大量にあった。
容器の材料となる砂浜に混じっていた石英の粒も大量の影収納している。
魔力を節約する為に造った薬草作り用の大釜も持って来ている。
「必要なら作りましょうか?」
「作れるのか?」
「当然です」
「お主。魔女だったのか?」
「魔女って何ですか?」
「100歳は超える優秀な魔法使いだった者が、姿を偽って暮らしておる者の事だ」
「100歳!?」
「驚く事はない。魔法使いなら100歳までは赤子の内と言われておる」
貴族、つまり、魔法使いは200年くらいを生きるのは当たり前であり、優秀な魔法使いは1000年も生きる。
貴族が長寿なのだ。
エルフのようにいつまでも若々しい姿いる魔法使いを魔導師と呼び、女性の場合は魔女とも呼ばれる。
私はブンブンブンと首を横に振った。
「見た目以上に若いです。5歳にもなっていません」
「そうか。女は見た目以上に若くしたがる。500歳を越えた婆さんが少女のような姿をしておった」
「嘘じゃありません」
「儂もまだ若かった。その婆さんに告白して失恋し、その町を捨てて、この町の移り住んだのさ」
私にはどうでもいい話だった。
私は魔女ではなく、生後3ヶ月と少し赤ん坊だ。
町でも苦労話が終わったらしい。
ずずずという音を立てて爺さんがお茶を飲んだ。
「ポーションはどれくらい作れる?」
「50本くらいは作れます。それ以上でしたら、森に薬草を採りに行けば問題ありません」
「急ぎで50本を頼む。その後も作った分だけ買い取ってくれる」
「そんな派手な買い取りをして大丈夫ですか」
「くくく。冒険ギルドや商業ギルドを通さない裏取引だが、相手は領軍の偉い様だ。半値以下に買い叩かれたがハイポーションとして買ってくれるなら大儲けじゃ」
回復ポーション(極上)は小銀貨8~15枚。(引き取り値は銀貨5~10枚)
ハイポーションはその10倍で取引されているらしい。
その偉い様は裏取引所に現れて、ハイポーションを求めた。
偶然に納品された私のポーションを鑑定した結果がハイポーションと認定された。
その鑑定士は目が悪いのか?
裏取引所の頭領はハイポーションを最低価格小金貨5枚の半額で納品を命じられた。
本物のハイポーションなら小金貨2枚と銀貨5枚なら材料費でほとんど消えてしまいそうだ。
頭領は断れない。
断れば、逮捕の上でお取り潰しだ。
証拠品として、ハイポーションも没収される。
頭領は承知した。
領軍に偉い様がニヤついた。
だがしかし、落ち込んだ頭領はすぐに浮上する。
使いの者が提示した額を聞いて驚愕した。
その値段で取引できるという事は、かなり安い値段でポーションが作れると睨んだ。
頭領は爺さんの所に来て頭を下げた。
「爺さん。頼む。ハイポーションをもっと分けてくれ」
「今はないが、聞いてみる」
「頼む。継続的に納品すれば、領軍からお墨付きが貰える。大手を張って取引ができる。千載一遇のチャンスなんだ。巧くすれば、この辺りの裏取引所をすべて傘下に収める事ができる」
「とにかく、聞いておく」
「宜しく、頼む」
こんな感じのやり取りがあったらしい。
黙って金貨10枚を懐にしまう事もできた。
だが、差額を返してくれた。
一度の取引では得られないうま味があると感じたからだ。
その頭領はかなり凄腕の商人だ。
ずずずという音を立てて爺さんがお茶を飲みながら話を続ける。
「お嬢ちゃんにも悪い話ではない。軍に恩が売れる上に、正式な依頼書を発行できるようになれば、この町は出入り自由になる」
依頼書はクエストを同義だ。
ポーション納品の依頼書はそのまま私の身分証明になるらしい。
流れ者から業者に格上げだ。
問題があると被害届けも出せる。
バックが領軍なので役所の取り扱いも良くなる。
「いずれにしろ、頭領が正式にお墨付きを貰った後の事になるがな」
「ハイポーションの納品はできません。あくまでポーションの納品です」
「判った。極上のポーションとして納品してくれるか」
「その依頼、お受けします」
商談成立だ。
問題はポーションを何処で作るかが問題だった。
あの激マズな味が臭うのだ。
「どこか酷い悪臭が出ても怒られない所はありますか。無ければ、門の外で制作するしかありませんね」
「道具はあるのか?」
「問題ありません」
「なら、工房を紹介するのは不味いな」
「どこでも構いませんが、本当に酷い臭いですよ」
青空でも良いと言うと、爺さんが紹介したのは教会の裏手だった。
広い荒れ地になっており、仮に臭っても貧困区なので誰も文句を言って来ないそうだ。
教会と言っても十字架はない。
教会の特徴は丸いガラス窓だ。
東西南北と天窓がある。
貧困区でガラス窓のある建物は珍しい。
すぐに見つかった。
「すみません。お祈りをさせて下さい」
爺さんの言われた通りに教会の奥に建てられた七柱に向かってお祈りをする。
大きな教会になると七柱ではなく、七体の彫像に変わる。
この世界を作った七神だ。
この世界の神は1,000神を越えるので、すべての神の名を知る者は少ないらしい。
私も興味がない。
「これは寄付です」
「ありがとうございます」
「少し相談があるのですが、牧師様はいらっしゃいますか?」
「少々、お待ち下さい」
寄付を渡してからお願い事をする。
これは教会のルールだ。
相場は銅貨10枚から始まり、上限はない。
今回は継続的なお願いなので銀貨5枚と奮発した。
商取引は小銀貨2~3枚が相場らしい。
シスターは金額に満足したのか、あるいは驚いたのか、急ぎ足で出て行った。
私は帽子を両手に抱えてしばらく待った。
牧師は満遍の笑みで、荒れ地を使う事を了承してくれた。
◇◇◇
荒れ地というか?
石がゴロゴロと転がっている荒野だ。
ペンペン草が所々にある。
土が乾いている所為が雑草も余り生えていない。
土の魔法で整地する。
料理台を出し、流し場の桶を置き、大窯を設置した。
台の上に薬草を出すと、薬草をみじん切りにする所を魔力切断で細胞膜を分離する。
見た目は変わっていないが、砂細工のように脆くなる。
分離が終わった薬草から桶に入れ、桶が一杯になった所で収納すると、大窯の上の大鍋を出して、収納した薬草を入れる。
水を少々加えると、薪を焚いて火を付けた。
火の精霊に命令して火加減を任せ、水の精霊にかき回させる。
ただ、グツグツと煮る。
暇な私は自作の銀の聖剣作りの作業でもして時間を潰す。
本当に作りたいのは魔力バッテリーだ。
平時に魔力を貯めて、有事に取り出す。
だが、魔力バッテリーを作るにも大量の魔石が必要になる。
在庫の魔石は1つしかない。
代替品として聖剣を作る。
こちらもオリハルコンやミスリルを使った聖剣でないと魔力を大量に保存できない。
銀貨を溶かして作った聖剣は粗悪品だ。
だが、ないよりマシだ。
薬草も煮詰まってくると細胞核が飛び出してくる。
ここで薬草の残骸を排除してから、再び煮込む。
核が潰れて魔素水を取り出す。
何度も濾しながら液体のみになればポーションの完成だ。
えっ、私の作り方が可怪しい?
本来ならば、魔素水を分離する為に様々な秘薬を遣って取り出し、取り出してから抽出に手間が掛かる。
私は魔力を通して分子改造を行なう。
魔素水以外の分子構造を組み替えれば、重くなって層が別れる。
そこで濾過膜など使わず、分離した層を影収納でスパンと取り除く。
手間要らずの除去方法だ。
さらに、水と魔素水の混合液を分離するのも簡単だ。
理科の実験だ。
水も電気を通して酸素と水素に分離すれば、あっという間に水分も排除できる。
分離した酸素と水素は影収納に回収しておく。
残るのは魔素水のみだ。
これが初期ポーションの正体だ。
ポーションは薬草によって効能が違う。
このポーションを混ぜ合わせ、魔石を溶かしたモノと配合する。
より効果を高めたのがハイポーションとなる。
混ぜる過程が面倒な上に、特殊な魔石が必要になる。
材料がないので今は作れない。
ポーションとハイポーションは別モノだ。
ポーションをハイポーションと言った鑑定士は目が可怪しい。
私のポーションは神の残り香が混じって、ちょっとだけ効用が高いくらいだ。
ハイポーションにはならない。
ポーションが完成する前に容器を作ろう。
石英を炉窯で熱して溶けた所で“モデリング”だ。
冷ますだけで完成だ。
材料に熱をいれるだけで少ない魔力で容器が作れる。
これにポーションを注げば完成だ。
50本を半日で作る私の才能が怖い。
ぱちぱちぱち、教会に併設された孤児院の子供達が拍手を送ってくれた。
中は少し薄暗く、台に商品が並んでいた。
奥の机に私を呼び出した道具屋の爺さんが腰掛けており、爺さんが眼鏡をかけ直すとこちらを向いた。
「来たわよ」
「おぉ、こっちに来て、そこに腰掛けてくれ」
爺さんがニヤリと笑ってこっちに来いと手招きする。
私は進められる儘に椅子に腰掛けた。
やかんを取って急須にじょろじょろとお湯を注ぐと、少し回してから茶碗にお茶を入れて出してくれた。
飲めという事だろう。
私は小鳥のようにちびちびと飲んだ。
爺さんは自分の茶碗にも注いでずずずという音を立てて飲む。
「年が行くとこれだけが楽しみになる」
「はぁ、そうですか?」
「来て貰って済まんな」
「仕事なら受けさせて貰います」
「その仕事だ。だが、その前にこれを返しておく」
下の戸棚から袋を取り出して、ガチャンと音を立てて小袋を台の上に置いた。
金貨10枚が入った小袋だった。
「儂はポーションに詳しくはない。中級ポーションとして買わせて貰った。悪く思わないでくれ」
「別に不満はありません」
「そう言って貰えると助かる。持って行かせたらハイポーションとして買って貰えた。これは差額だ」
「あれはハイポーションじゃないわよ」
赤子の小さな胃に併せて改良版だ。
ポーション一杯でお腹が膨れて動けないという事態になった。
それを改善する為にぎりぎりまで水分を飛ばした。
極上のポーションでしかない。
その後、激マズなポーションに嫌気が差した私が水飴ドリンクを混ぜたグレードアップ版だ。
品質は落ちて上級ポーションになった。
飲みやすさと速攻性が売りだ。
ハイポーション特有の欠損部が完治し、状態が正常値に戻るという効用はない。
「どうでもいい。買い手がハイポーションと言うならハイポーションだ」
「私もくれると言うなら貰っておくわ。でも、後で返してなんて言わないでよ」
「言わないさ。だが、あとどれくらいの在庫がある?」
「手持ちはあと10本ね」
「そうか」
そう言って爺さんが肩を落とした。
薬草を採取しながらこの町に向かって来たので薬草の在庫は大量にあった。
容器の材料となる砂浜に混じっていた石英の粒も大量の影収納している。
魔力を節約する為に造った薬草作り用の大釜も持って来ている。
「必要なら作りましょうか?」
「作れるのか?」
「当然です」
「お主。魔女だったのか?」
「魔女って何ですか?」
「100歳は超える優秀な魔法使いだった者が、姿を偽って暮らしておる者の事だ」
「100歳!?」
「驚く事はない。魔法使いなら100歳までは赤子の内と言われておる」
貴族、つまり、魔法使いは200年くらいを生きるのは当たり前であり、優秀な魔法使いは1000年も生きる。
貴族が長寿なのだ。
エルフのようにいつまでも若々しい姿いる魔法使いを魔導師と呼び、女性の場合は魔女とも呼ばれる。
私はブンブンブンと首を横に振った。
「見た目以上に若いです。5歳にもなっていません」
「そうか。女は見た目以上に若くしたがる。500歳を越えた婆さんが少女のような姿をしておった」
「嘘じゃありません」
「儂もまだ若かった。その婆さんに告白して失恋し、その町を捨てて、この町の移り住んだのさ」
私にはどうでもいい話だった。
私は魔女ではなく、生後3ヶ月と少し赤ん坊だ。
町でも苦労話が終わったらしい。
ずずずという音を立てて爺さんがお茶を飲んだ。
「ポーションはどれくらい作れる?」
「50本くらいは作れます。それ以上でしたら、森に薬草を採りに行けば問題ありません」
「急ぎで50本を頼む。その後も作った分だけ買い取ってくれる」
「そんな派手な買い取りをして大丈夫ですか」
「くくく。冒険ギルドや商業ギルドを通さない裏取引だが、相手は領軍の偉い様だ。半値以下に買い叩かれたがハイポーションとして買ってくれるなら大儲けじゃ」
回復ポーション(極上)は小銀貨8~15枚。(引き取り値は銀貨5~10枚)
ハイポーションはその10倍で取引されているらしい。
その偉い様は裏取引所に現れて、ハイポーションを求めた。
偶然に納品された私のポーションを鑑定した結果がハイポーションと認定された。
その鑑定士は目が悪いのか?
裏取引所の頭領はハイポーションを最低価格小金貨5枚の半額で納品を命じられた。
本物のハイポーションなら小金貨2枚と銀貨5枚なら材料費でほとんど消えてしまいそうだ。
頭領は断れない。
断れば、逮捕の上でお取り潰しだ。
証拠品として、ハイポーションも没収される。
頭領は承知した。
領軍に偉い様がニヤついた。
だがしかし、落ち込んだ頭領はすぐに浮上する。
使いの者が提示した額を聞いて驚愕した。
その値段で取引できるという事は、かなり安い値段でポーションが作れると睨んだ。
頭領は爺さんの所に来て頭を下げた。
「爺さん。頼む。ハイポーションをもっと分けてくれ」
「今はないが、聞いてみる」
「頼む。継続的に納品すれば、領軍からお墨付きが貰える。大手を張って取引ができる。千載一遇のチャンスなんだ。巧くすれば、この辺りの裏取引所をすべて傘下に収める事ができる」
「とにかく、聞いておく」
「宜しく、頼む」
こんな感じのやり取りがあったらしい。
黙って金貨10枚を懐にしまう事もできた。
だが、差額を返してくれた。
一度の取引では得られないうま味があると感じたからだ。
その頭領はかなり凄腕の商人だ。
ずずずという音を立てて爺さんがお茶を飲みながら話を続ける。
「お嬢ちゃんにも悪い話ではない。軍に恩が売れる上に、正式な依頼書を発行できるようになれば、この町は出入り自由になる」
依頼書はクエストを同義だ。
ポーション納品の依頼書はそのまま私の身分証明になるらしい。
流れ者から業者に格上げだ。
問題があると被害届けも出せる。
バックが領軍なので役所の取り扱いも良くなる。
「いずれにしろ、頭領が正式にお墨付きを貰った後の事になるがな」
「ハイポーションの納品はできません。あくまでポーションの納品です」
「判った。極上のポーションとして納品してくれるか」
「その依頼、お受けします」
商談成立だ。
問題はポーションを何処で作るかが問題だった。
あの激マズな味が臭うのだ。
「どこか酷い悪臭が出ても怒られない所はありますか。無ければ、門の外で制作するしかありませんね」
「道具はあるのか?」
「問題ありません」
「なら、工房を紹介するのは不味いな」
「どこでも構いませんが、本当に酷い臭いですよ」
青空でも良いと言うと、爺さんが紹介したのは教会の裏手だった。
広い荒れ地になっており、仮に臭っても貧困区なので誰も文句を言って来ないそうだ。
教会と言っても十字架はない。
教会の特徴は丸いガラス窓だ。
東西南北と天窓がある。
貧困区でガラス窓のある建物は珍しい。
すぐに見つかった。
「すみません。お祈りをさせて下さい」
爺さんの言われた通りに教会の奥に建てられた七柱に向かってお祈りをする。
大きな教会になると七柱ではなく、七体の彫像に変わる。
この世界を作った七神だ。
この世界の神は1,000神を越えるので、すべての神の名を知る者は少ないらしい。
私も興味がない。
「これは寄付です」
「ありがとうございます」
「少し相談があるのですが、牧師様はいらっしゃいますか?」
「少々、お待ち下さい」
寄付を渡してからお願い事をする。
これは教会のルールだ。
相場は銅貨10枚から始まり、上限はない。
今回は継続的なお願いなので銀貨5枚と奮発した。
商取引は小銀貨2~3枚が相場らしい。
シスターは金額に満足したのか、あるいは驚いたのか、急ぎ足で出て行った。
私は帽子を両手に抱えてしばらく待った。
牧師は満遍の笑みで、荒れ地を使う事を了承してくれた。
◇◇◇
荒れ地というか?
石がゴロゴロと転がっている荒野だ。
ペンペン草が所々にある。
土が乾いている所為が雑草も余り生えていない。
土の魔法で整地する。
料理台を出し、流し場の桶を置き、大窯を設置した。
台の上に薬草を出すと、薬草をみじん切りにする所を魔力切断で細胞膜を分離する。
見た目は変わっていないが、砂細工のように脆くなる。
分離が終わった薬草から桶に入れ、桶が一杯になった所で収納すると、大窯の上の大鍋を出して、収納した薬草を入れる。
水を少々加えると、薪を焚いて火を付けた。
火の精霊に命令して火加減を任せ、水の精霊にかき回させる。
ただ、グツグツと煮る。
暇な私は自作の銀の聖剣作りの作業でもして時間を潰す。
本当に作りたいのは魔力バッテリーだ。
平時に魔力を貯めて、有事に取り出す。
だが、魔力バッテリーを作るにも大量の魔石が必要になる。
在庫の魔石は1つしかない。
代替品として聖剣を作る。
こちらもオリハルコンやミスリルを使った聖剣でないと魔力を大量に保存できない。
銀貨を溶かして作った聖剣は粗悪品だ。
だが、ないよりマシだ。
薬草も煮詰まってくると細胞核が飛び出してくる。
ここで薬草の残骸を排除してから、再び煮込む。
核が潰れて魔素水を取り出す。
何度も濾しながら液体のみになればポーションの完成だ。
えっ、私の作り方が可怪しい?
本来ならば、魔素水を分離する為に様々な秘薬を遣って取り出し、取り出してから抽出に手間が掛かる。
私は魔力を通して分子改造を行なう。
魔素水以外の分子構造を組み替えれば、重くなって層が別れる。
そこで濾過膜など使わず、分離した層を影収納でスパンと取り除く。
手間要らずの除去方法だ。
さらに、水と魔素水の混合液を分離するのも簡単だ。
理科の実験だ。
水も電気を通して酸素と水素に分離すれば、あっという間に水分も排除できる。
分離した酸素と水素は影収納に回収しておく。
残るのは魔素水のみだ。
これが初期ポーションの正体だ。
ポーションは薬草によって効能が違う。
このポーションを混ぜ合わせ、魔石を溶かしたモノと配合する。
より効果を高めたのがハイポーションとなる。
混ぜる過程が面倒な上に、特殊な魔石が必要になる。
材料がないので今は作れない。
ポーションとハイポーションは別モノだ。
ポーションをハイポーションと言った鑑定士は目が可怪しい。
私のポーションは神の残り香が混じって、ちょっとだけ効用が高いくらいだ。
ハイポーションにはならない。
ポーションが完成する前に容器を作ろう。
石英を炉窯で熱して溶けた所で“モデリング”だ。
冷ますだけで完成だ。
材料に熱をいれるだけで少ない魔力で容器が作れる。
これにポーションを注げば完成だ。
50本を半日で作る私の才能が怖い。
ぱちぱちぱち、教会に併設された孤児院の子供達が拍手を送ってくれた。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記
スィグトーネ
ファンタジー
ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。
そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。
まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。
全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。
間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。
※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています
※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。
没落令嬢カノンの冒険者生活〜ジョブ『道具師』のスキルで道具を修復・レベルアップ・進化できるようになりました〜
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
事業に失敗した父親の借金の返済期限がやって来た。数十人の金貸し達が屋敷に入って来る。
屋敷に一人残された男爵令嬢の三女カノン・ネロエスト(17歳)は、ペットの大型犬パトラッシュと一緒に追い出された。
長い金髪を切られ、着ていた高価な服もボロ服に変えられた。
そんな行く当てのない彼女に金貸しの男が、たったの2500ギルド渡して、冒険者ギルドを紹介した。
不幸の始まりかと思ったが、教会でジョブ『道具師』を習得した事で、幸福な生活がすぐに始まってしまう。
そんな幸福な日常生活の物語。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
ケットシーな僕とはじまりの精霊
結月彩夜
ファンタジー
異世界転生物のライトノベルはよく読んでいたけど、自分がその立場となると笑えない。しかも、スタートが猫だなんてハードモードすぎやしない……な?
これは、ケットシーに転生した僕がエルフな飼い主?と終わりまで生きていく物語。
金貨三枚で買った性奴隷が俺を溺愛している ~平凡冒険者の迷宮スローライフ~
結城絡繰
ファンタジー
平凡な冒険者である俺は、手頃に抱きたい女が欲しいので獣人奴隷を買った。
ただ性欲が解消できればよかったのに、俺はその奴隷に溺愛されてしまう。
爛れた日々を送りながら俺達は迷宮に潜る。
二人で協力できるようになったことで、冒険者としての稼ぎは抜群に良くなった。
その金で贅沢をしつつ、やはり俺達は愛し合う。
大きな冒険はせず、楽な仕事と美味い酒と食事を満喫する。
主従ではなく恋人関係に近い俺達は毎日を楽しむ。
これは何の取り柄もない俺が、奴隷との出会いをきっかけに幸せを掴み取る物語である。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~
鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」
未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。
国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。
追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?
邪神討伐後、異世界から追放された勇者は地球でスローライフを謳歌する ~邪神が復活したから戻って来いと言われても、今さらもう遅い~
八又ナガト
ファンタジー
「邪神を討伐した今、邪神をも超える勇者という存在は、民にとって新たなる恐怖を生み出すだけ。よって勇者アルスをこの世界から追放する!」
邪神討伐後、王都に帰還したアルスに待ち受けていたのは、アルスを異世界に追放するというふざけた宣告だった。
邪神を倒した勇者が、国王以上の権力と名声を持つことを嫌悪したからだ。
「確かに邪神は倒しましたが、あれは時間を経て復活する存在です。私を追放すれば、その時に対処できる人間がいなくなりますよ」
「ぬかせ! 邪神の討伐から復活までは、最低でも200年以上かかるという記録が残っている! 無駄な足掻きは止めろ!」
アルスの訴えもむなしく、王国に伝わる世界間転移魔法によって、アルスは異世界に追放されてしまうことになる。
だが、それでアルスが絶望することはなかった。
「これまではずっと勇者として戦い続けてきた。これからはこの世界で、ゆったりと余生を過ごすことにしよう!」
スローライフを満喫することにしたアルス。
その後、アルスは地球と呼ばれるその世界に住む少女とともに、何一つとして不自由のない幸せな日々を送ることになった。
一方、王国では未曽有の事態が発生していた。
神聖力と呼ばれる、邪悪な存在を消滅させる力を有している勇者がいなくなったことにより、世界のバランスは乱れ、一か月も経たないうちに新たな邪神が生まれようとしていた。
世界は滅亡への道を歩み始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる